編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

菅首相の関心事

「衆参3選挙 自民が全敗」「衆参3選挙 自民『全敗』」

 4月26日の朝刊各紙に見出しが躍る。愚かな政府をもつということがどういうことか、多くの市民が実感しはじめているということか。

 5月11日まで東京都、京都府、大阪府、兵庫県に緊急事態宣言が発出され、「まん延防止等重点措置」が7県で実施されている。

 23日、菅義偉首相は記者会見で「効果的な対策を短期間で集中して実施」として宣言発出の説明をした。だが、この危機的状況にあっても、首相の最大の関心事は東京五輪・パラリンピック開催であり、市民の命と生活は二の次ということを市民はお見通しだ。

 それが総選挙での自身の勝利に不可欠であり、首相の座を守ることに直結するからだろう。「#20 時消灯前に聖火を消せ」「営業停止にすべきは飲食店や劇場より自民党、東京都知事、電通、IOCだと思う」(島田雅彦)にまったく同意する。

 コロナと五輪は特集を、選挙については山口二郎氏と木下ちがや氏の分析記事をお読みいただきたい。

北角裕樹さん

 ビルマ(ミャンマー)在住のフリージャーナリスト、北角裕樹さんが治安当局に身柄を拘束された。国軍によるクーデターが発生した2月1日以降、本誌では5回、北角さんに報告をいただいた。

 最初の2月12日号では、通信状況も悪い中、「市民の間では再び流血の事態が起きる懸念も」というサブタイトルのついた記事を担当の渡部睦美と不安な気持ちで進めていたことを思い出す。

 一つ目の不安はビルマの行く末に対して、二つ目は記事が無事に掲載できるかについて、三つ目は記事が出たことで筆者に危害が及ばないか、というものだった。三つ目の不安は2月、北角さんの拘束という形で現実のものになった。

 拘束は即日解かれたが、軍事政権は再び北角さんを拘束した。容疑は「虚偽ニュースの拡散」という。とすれば、小誌は虚偽ニュースの拡散に手を貸した媒体ということになるではないか。

ビルマ政府のこの間のあらゆる弾圧や蛮行を許さず、抗議する。そして北角さんの即時解放を求める。

ひどいことに

 新型コロナウイルス感染がここにきてひどいことになっている。

 今週号で舘田一博東邦大学教授はサーキットブレーカーの仕組みの導入に言及されている。要は政治判断ではなく、目安となる数値があるレベルを超えたら感染抑止策を自動的に発動させる仕組みのことだ。もっと以前に政府や自治体は議論すべきだったろうと言いたくもなるが、遅すぎるということはない。

 また、受ける、受けないは個人の判断だが、ワクチンの供給体制の遅れも隠しようのない事実だ。あんなにひどいことになっていた英国の状況が改善しているのをみると、溜息が出る。

 もっとも3月26日号本誌で色平哲郎医師は、“細菌兵器を研究しているところは防御のための技術、ワクチン開発も進んでいる。米国国立衛生研究所の予算は日本医療研究開発機構の30倍近い金額。ワクチン開発の速さだけで物事を論じるのはどうか”と疑義を呈されている。たしかに……。

 いずれにせよこの状況での東京五輪・パラリンピック開催は危険すぎる。

その1点は同意

 大村秀章愛知県知事のリコール署名偽造事件について、本誌でなぜ取りあげないのか──というお叱りを複数の読者の方から戴いていました。地方自治の最後の砦ともいうべきリコールが汚されたことは重大な問題と認識しています。

 リコール運動の「顔」、河村たかし名古屋市長が、本誌で臺宏士氏のインタビューに応じてくれたので、今週号で記事掲載します。河村市長とは歴史認識で本誌と相当の隔たりがあると感じています。しかし、当事者の言い分をきちんと聞くことは雑誌作りの基本と考えています。

 ところで河村市長は、住基ネットに疑義を呈する本誌記事に何度も登場されています。今回、原稿確認依頼の電話でたまたまそのことに話が及ぶと……国会で審議中のデジタル法案やマイナンバーに対して「計画的な(管理)システムだから保守こそ反対しなければいけないのだけれど、日本はおかしいね」と語っていました。

 その1点は同意! 保守陣営にぜひ「待った」を働きかけてほしいです。

強行するのか

 ケチがつき通しの東京五輪・パラリンピック。ここにきて米放送局NBCのサイトに東京五輪批判「聖火は消されるべきだ」が掲載されたことで、内外に衝撃が走っている。

 内容的には、今週号アンテナ欄での「聖火」の問題点の指摘や、既刊号で追及してきたことに尽きるが、取りあげたのが米国内で五輪放映権を持つNBCだったので無視できない事態となったのだろう。

 執筆者のボイコフ氏は元米国サッカー五輪選手で米パシフィック大学教授。2019年、来日して福島視察ツアーに参加された。同年本誌8月23日号で藍原寛子さんのインタビューにこたえている。

「移動の間、線量計を見ていたが、最も高かったのは3・77マイクロシーベルト/時間」「除染廃棄物の黒いピラミッドも見えた」、そして「安倍首相の言葉とは正反対に、事態はまったくコントロールされていなかったことが、ここに来れば明白に分かる」とも。

 事態は多少変わったのかもしれないが、コロナの問題も加わった。IOCはそれでも強行するのか。