編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

すべては五輪のため!?

 怒りを通り越して怖くなる。今週号の野池元基氏が明らかにした福島県伊達市の「心の除染」事業だ。

 伊達市は、東電福島第一原発事故後、個人の被曝線量を測定するために全市民にガラスバッジを配布し、計測されたデータを、本人の同意を得ずに早野龍五氏らの研究チームに提供していたこと、さらに早野氏らが書いた論文が被曝線量を低く算出していたことが問題になっている。

 その伊達市が2014年、「低線量地域詳細モニタリング事業」を広告代理店の電通に委託していたのだ。「物理的に土を取る除染作業は一巡したので、どんな不安があるのか市民アンケートをとり、不安解消のために戸別訪問をするなどして対応した」もの。実際の対応はパソナの派遣社員がマニュアルに沿って行なっていたという。詳しくは野池氏の記事を読んでほしい。

 結果として被曝線量を過小評価し、住民の不安を根拠なきものとする。そして事故を解決済みと印象づける。すべては東京五輪のために。穿った見方だろうか。

記録を残す意義

 今週号の「父が目撃した秋風事件」は、昨秋の読者交流会で知り合った永井元さんの仲介によるものだ。永井さんは、歴史、医療、文化などの方面で造詣が深く、個人的にも貴重な歴史資料をお持ちだ。そのことをホームページに書かれたところ、連絡をされたのが岡山正規さんだった。

 岡山さんの父親、故政男さんは復員後、戦争を憎み、平和を何よりも大切に考えられていたという。犠牲となった宣教師の故郷で毎年3月、追悼礼拝が行なわれていたことを政男さんがもし知ったなら、どう思われただろう。

「神言修道会」の報告によると、当時、豪州は日本軍が迫っていることを知り、宣教師らに豪州への退去を促したが、彼らは危険を承知で信者のために残る道を選んだという。

 岡山さんは父親の軍隊の記録がないと話しておられる。実はこの8日に亡くなった私の父も徴兵をされたが、入隊を示す正式な記録を私はみたことがない。こうやって記録を残すことの意義を、個人的な感傷とともにしみじみと感ずる。

杜の住民

 昨年、その人の姿を何百人もいるホールの中で見かけた。専門分野では世界的な権威。市民に呼ばれればシンポにも出て行くし、多忙な時間を縫って本誌の取材にもこたえてくれた。良心的な学者だ。

 走り寄って取材のお礼もそこそこに切り出した。〈そういえば、東電刑事裁判で証人として出廷されたのですね〉

 その人は驚いたように私の顔を見た。そして証言した内容から裏切られたという厳しい反応があったことを率直に話してくれた。〈でも〉、と言う。〈当時はわかっていなかったことがあるんですよ〉

 裁判では予測可能性や対策の有無が争点になる。だが、その前提として、〈歴史や時代の当事者〉としての責任を私たちがどこまで自覚できているかが問われるべきだ。

 東電福島第一原発事故で生活が一変しながらも、三春町に暮らし、福島原発告訴団長などを務める武藤類子さんのロングインタビューを今週号で掲載している。その武藤さんの〈森の住人〉としてのことばを読み、そんなことを感じた。

受け止めるべきは

「きょうの『読売』、見ましたか?」

 部員のUさんが出社するなり話しかけてきた。沖縄・辺野古基地新設の賛否を問う県民投票の結果を伝える2月25日の朝刊のことだ。

 会社に来ている新聞の束をみる。『読売』は「安心の設計 みんなで未来へ」シリーズの初回が一面トップで、県民投票は3段見出しの扱いだ。ちなみに『産経』は4段見出し。この結果をうけて問われるのは本土であるはずなのに、日本を代表する全国紙がこれか。

 県民投票の結果を見る。昨年の市長選挙で基地新設反対派が負けた名護市は投票率が50・4%。反対票は昨年の選挙で反対を訴えた稲嶺進前市長が獲得した票を上回っている。詳細は今週号、初沢亜利さんの写真ルポと阿部岳さんの政治時評を読んでほしい。

 2019年の予算に、県を介さずに直接自治体に交付する「沖縄振興特定事業推進費」が新設された。今回の結果を政府がどうみるかは不明だが、政府の恣意的運用を心配してしまう。受け止めるべきは反対の民意だ。

不正の背後

 国会で統計不正の追及がつづく。小川淳也議員(立憲民主)の質問が「国会パブリックビューイング」で複数回取り上げられていたが、たしかに鋭い。18日に国会で投げかけた言葉は際立っていた。

「私ね、いろいろ数字を調べました」
「途中からね、なんでこんなに数値論争をしているんだろう、と。なんでこんなにこの政権と数値論争でもがいてるんだろうと、私は途中からそう思うようになったんです」

「もしこの国の総理大臣が、いい数値持ってきたらですよ、『いい数字はもういいから、と。……どっかに悪い数字はないのか。そこで困ってる国民はいないか、そこに社会の矛盾がうもれてないか』というような総理大臣だったら、そもそもこんな数値論争は起きてないじゃないか」

ただ、世論調査の結果をみると、統計不正の問題が発覚して以降も、内閣支持率はほとんど落ちていない。ベンチマークとか、専門用語も出てきて、とかく難しい話になりがちだが、不正の背後に何があるのか、しっかりと見極めて報道したい。

おいでなさったな

 おいでなさったな。がらんとした会社で一人机に向かっていると、お昼過ぎ、街宣車が近づいてくる。「戦後日本の……」と、大きな声でがなり立てている。きょうは建国記念の日だから、近くのビルに用事があるらしい。場所柄、事務所が面している道路を封鎖して機動隊が並ぶことも。右翼団体に威嚇されるのも、機動隊に命令されるのも嫌なものだ。

 7日は、注文していない下着やサプリ、化粧品などが大量に送りつけられたとして、被害に遭われた方々が都内で記者会見を開いた。ほとんど弊誌に登場いただいたことがある方ばかりじゃないか。社会にもの申す女性への嫌がらせだろうが、卑劣で陰湿だ。それに比べて被害者のみなさんの、なんて毅然としていることか。

 弊社にも口汚く罵るだけの手紙やハガキが届くことがある。以前に比べれば、その数はぐっと減った。色鉛筆やサインペンでカラフルに書かれているのを見ると、どれだけ暇なの?って呆れてしまう。

よりによって

 毎年2月7日の「北方領土の日」に「北方領土返還要求全国大会」が開催される。安倍晋三首相が過去登壇した時の写真を探す。記念行事はどうしても絵柄が同じになるが、それにしてもあまりにも変わり映えがしないな、と思っていたら、今年は集会で採択される大会アピールの文言が変わるというニュースが入ってきた。

〈「北方四島が不法に占拠されている」との表現を使わない方向で調整していることが分かった〉というのだ(共同通信2月4日配信)。交渉中の難しい事案だからなるほど……と納得しかけたが。

 だとしたら1月28日、安倍首相による施政方針演説のあの表現はなんだったのか。

「しきしまの 大和心のをゝしさは ことある時ぞ あらはれにける」

〈これは、日露戦争のさなかに(明治天皇によって)詠まれ、戦意高揚のために使われた歌だ〉として志位和夫日本共産党委員長が厳しく批判をした。よりによって。冗談のようだけど本当の話だから困ってしまう。

追及を待つ

「きょうはいろんなニュースがありますね」。週明け、編集部内での会話だ。大坂なおみの全豪オープン優勝、嵐の活動休止宣言、基幹統計の多岐にわたるミスの発覚……。

 統計不正疑惑の第1弾ともいうべき毎月勤労統計調査をめぐる不正については、「統計所得、過大に上昇」を報じた昨年9月12日付の『西日本新聞』のスクープ記事を、鷲尾香一さんが本誌昨年10月12日号で解説している。

「統計が間違っていたり、作為的なものであれば、政策そのものが間違ったものになる可能性がある」という指摘をされていたが、まさかこんなことになっていたとは。しかも森山裕自民党国対委員長が「さほど大きな問題はない」(1月26日)と発言したという。有権者はどう考えるのか?

 1月27日投開票の山梨県知事選で、自公推薦の候補者が勝利した。恩讐を超えた自民の総力戦を見せつけられたが、今に始まったことではないにせよ安倍政権の責任は「さほど大きな問題はない」とはならないはずだ。国会での追及を待つ。

電話帳にドリル

 雪の舞う日、地方都市の実家に急ぐ。家に着くと、居間の入り口で93歳の父と87歳の母がなにやら作業をしている。見ると、父がドリルを抱えている。分厚い電話帳に穴をあけようとしているのだ。でもうまくいかないという。

 まさかそれを傍で見ているわけにはいかない。「替わるよ」。そうはいってみたものの、なんで電話帳にドリル? と疑問が一杯。渡されたドリルはずっしりと重く、スクリューの部分は不気味に長い。スイッチはどこにあるの? 私、ドリルなんて一度も使ったことなかったっけ。

 幸い父が穿った穴が最後まで通っていたことがわかったので、作業は無事終了。開いた穴にひもを通して、母は満足げに電話帳を壁に掛けた。

 こんなふうに二人で生きているのか。私の知らない両親の生活を一気に身近に感じた。心の底から、1日でも長くこんな日が続きますようにと願った。近くから、1月27日に投開票される地方選挙の候補者の演説が聞こえてきた。両親とも期日前投票に行くそうだ。

安心と悩みとお詫び

 以前、本誌の座談会に登場いただいた高校生が、通っていた公立高校を辞めてしまったと聞いて気をもんでいた。年始年末は時給を上げることを条件に1日14~15時間、コンビニのバイトをこなし、学費を貯める頑張り屋だった。「IT系の学校に通いたい」と夢も語っていた。その後通信制の高校に移り念願の進学が今春決まったと、最近、聞いた。ほっとした。

 一方、就職した会社で役員のセクシュアルハラスメントに遭い、悩んでいる女子の話も聞いた。外国籍の彼女は、会社を辞めたくても簡単に辞められない。加害者は心底卑劣だ。加害を止めさせるため、いま本人は勇気を出し、関係者も知恵を絞っている。

 昨年12月21日・19年1月4日合併号44頁「浜矩子の経済私考」左列下から4行目の「認識にズレ」は、「認識に狂い」となっていたものを編集部が独断で変更したものです。筆者の了解を経ずに手を入れることは、越権行為であり許されることではありません。浜さんに心からお詫びいたします。