編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

その1点は同意

 大村秀章愛知県知事のリコール署名偽造事件について、本誌でなぜ取りあげないのか──というお叱りを複数の読者の方から戴いていました。地方自治の最後の砦ともいうべきリコールが汚されたことは重大な問題と認識しています。

 リコール運動の「顔」、河村たかし名古屋市長が、本誌で臺宏士氏のインタビューに応じてくれたので、今週号で記事掲載します。河村市長とは歴史認識で本誌と相当の隔たりがあると感じています。しかし、当事者の言い分をきちんと聞くことは雑誌作りの基本と考えています。

 ところで河村市長は、住基ネットに疑義を呈する本誌記事に何度も登場されています。今回、原稿確認依頼の電話でたまたまそのことに話が及ぶと……国会で審議中のデジタル法案やマイナンバーに対して「計画的な(管理)システムだから保守こそ反対しなければいけないのだけれど、日本はおかしいね」と語っていました。

 その1点は同意! 保守陣営にぜひ「待った」を働きかけてほしいです。

強行するのか

 ケチがつき通しの東京五輪・パラリンピック。ここにきて米放送局NBCのサイトに東京五輪批判「聖火は消されるべきだ」が掲載されたことで、内外に衝撃が走っている。

 内容的には、今週号アンテナ欄での「聖火」の問題点の指摘や、既刊号で追及してきたことに尽きるが、取りあげたのが米国内で五輪放映権を持つNBCだったので無視できない事態となったのだろう。

 執筆者のボイコフ氏は元米国サッカー五輪選手で米パシフィック大学教授。2019年、来日して福島視察ツアーに参加された。同年本誌8月23日号で藍原寛子さんのインタビューにこたえている。

「移動の間、線量計を見ていたが、最も高かったのは3・77マイクロシーベルト/時間」「除染廃棄物の黒いピラミッドも見えた」、そして「安倍首相の言葉とは正反対に、事態はまったくコントロールされていなかったことが、ここに来れば明白に分かる」とも。

 事態は多少変わったのかもしれないが、コロナの問題も加わった。IOCはそれでも強行するのか。

人の温かさ

 ソウル中央地裁「慰安婦」判決文と「判決を読み解く」連載は、今週号で完結しました。途中2週ほどお休みがあったので、いつ再開するのか、と気を揉む読者の方からお問い合わせをいただきました。連載中には多くの方から「よくぞ載せてくれた」との感想や励ましをいただきました。

 全文を翻訳され、本誌への掲載をご快諾くださった山本晴太弁護士、「ナヌムの家」のただひとりの日本人スタッフで、ハルモニや関係者らとの連絡・交渉を一手に引き受けてくださった矢嶋宰さんはじめ皆様に改めて感謝を申し上げます。

「ナヌムの家」の運営を巡る不正問題が矢嶋さんらによって内部告発されたのは1年前の3月のことです。その矢嶋さんによる今週号「判決を読み解く」では、イ・オクソン・ハルモニの近況、依然として厳しい状況にある「ナヌムの家」の改革問題などにも言及されています。

 凛とした文章が問いかけてくるものは重いのですが、苦渋を分かちあい乗り越えようとする人の温かさを感じます。

定点観測

 田中敦子さんの胸元にキラリと光る流星のついたマイク。アンテナを伸ばして交信。『ウルトラマン』でスクリプターを務めた田中さんらしいお茶目なアクセサリーだ。

 田中さんは東日本大震災直後から、被災した東北の水産加工業者5社を定点観測し、自主製作で記録を残そうとしている。某公共放送局から映像を使用したいと声がかかったが、感動のドラマに仕立て上げられるのが嫌だからとお断りをしたそうだ。

 映像の中で5社は工場再開のために必要な金額、融資を受けた額も含めて答えにくい質問に答えていく。10年前、電気も止まりランプの灯りの下で丁寧に話をきいてくれた田中さんだからこそ、語る事実もあるだろう。

 詳しくは今週号を読んでいただきたい。

 今年で79歳を迎える田中さんは、今回の制作を映像に関わってきた者の使命という。資金不足はクラウドファンディングで補おうとしている。

 田中さんの胸元に光る“隊員”のマイクは、その見返り品の一つのようだ。

自問する

 2月26日号「金曜日から」で、編集部体制について「現在、デスクは全員女性になった」とあった。正しくはデスクではなく副編集長だ。

 内部の話で恐縮だが、記事担当者にアドバイスをしたり、原稿チェックをする役目を「デスク」と呼ぶ。副編集長もその任にあたるが、その分野で専門性をもった部員が担ってくれる場合もあり、男性も含まれる。

 ちなみに「金曜日から」のデスクは私。スルーしてしまって申し訳なかったです。

 いつも水際で誤植や事実関係の誤りをただしてくれるのが校閲チームだ。2月いっぱいで柳百合子さん、小阪文子さん、そして3月いっぱいで矢島京子さんがチームから離れる。

 コロナのために自宅作業がほとんどになり、お会いすることがなくなった。誤植だけでなく、あのおおらかな笑顔に何度助けられたことか。本当にお疲れ様でした。

 東日本大震災の時、雑誌の発行が危ぶまれたが、各々が自分のできることをして休刊することはなかった。あの時の緊張感をもちつづけているか、自問する。

誰のためなのか

 会社近くのさくら通りに街路樹として植えられているオカメザクラが今、満開だ。ソメイヨシノよりも開花が一足早い。濃いピンクをした小さな花が、澄んだ青空に映える。立ち止まって眺めると、季節が巡っているのを実感する。コロナ禍の巣ごもりで、季節感が薄れてしまったようだ。

 3月は卒業式のシーズンでもある。本来、卒業式は誰にとっても喜びの場であるはずだが、東京都教育委員会が2003年「10・23通達」を発してから、苦痛と葛藤をもたらすようになった。「日の丸」の掲揚、「君が代」の起立斉唱を強制するようになったからだ。

 私も保護者として式に出席したことがあるが、強い管制が敷かれた現場の雰囲気に耐えがたいものを感じた。

 昨年は当初、飛沫感染防止の観点から校歌斉唱は中止されたものの、「君が代」斉唱だけは強行された。今年は?現場に聞くと、声を出して歌うことはしないが、式次第には残るという。

 誰のために誰が行なう卒業式か、よくわかるではないか。

知れば知るほど

「なぜ? 五輪中止できないのか」。

 今週号特集タイトルだが、知れば知るほどその疑問を強く抱く。東京五輪・パラリンピック観客向けのアプリの開発に約73億円が投入されているという。衆院予算委員会で17日、尾辻かな子議員(立民)が政府に答弁を求めているのを中継記録で見て、初めて知った。

 このアプリ、訪日する観客の入国前から出国後までの健康管理を行ない、コロナ感染拡大を防止するためのもの。仕様書では入国後、14日間の待機もワクチン接種も不要と謳っているという。

 つい先日、接触確認アプリ「COCOA」(3億9000万円)の不具合のため、約770万人に通知が届かなかったことが明らかになったばかり。そもそも大会自体が中止の可能性があるし、実施されたとしても無観客の可能性が高いんじゃなかったか。

 万が一のために観客用アプリを開発することは仕方ないとしても、不具合がでるかどうかわからないものに私たちの命と健康をまかせることだけは避けたい。

一致かどうか

 最近、「創刊以来の読者」の方からある葉書をいただきました。こんな趣旨です。

 本誌の記事のなかに、ある政党に対して、批判を交えた意見表明がされていた。それに対して政党の責任ある立場の方の反論を掲載すべきではないか、とのこと。さらに“掲載する記事については、大筋では編集委員の考え方と一致している内容であるべき”とも。

 当該の政党に直接話を聞いたほうがいい場合もあるし、読者の方々で意見交換していただくのがいい場合もあるでしょう。私はそのケースは後者に該当すると考えました。

 本誌では人権や民主主義の尊重、平和の希求、地球環境保護などの理念を編集委員とともに共有していますが、政党に関しての見解は必ずしも一致していないと考えます。権力の監視という使命はありますが、それ以上の一致は求める必要がないでしょう。

 今週号では志位和夫日本共産党委員長へのインタビュー記事を掲載しました。多忙な中、時間をとっていただいたことに感謝します。

あの人の名前

「見せしめ」でなければ何だというのだろう。いや、「見せしめ」でないとすれば、その闇はもっと深い。

 ジャーナリストである安田純平氏への外務省の旅券発給拒否問題だ。トルコからの5年間の入国禁止処分を理由に、発給拒否処分を課しているのだ。

 今週号の解説記事で佐藤和雄氏が主張するように、トルコへの渡航が問題なら、トルコに行くことを制限した旅券を出せば済む話だ。実際にそういう旅券は存在する。

 私も、A国駐日大使館領事部で働いている時、B国への渡航を制限する条件付きの日本人の旅券を扱ったことがある。制限があっても、B国での扱いが不利になるということもなかった。当時は不思議に感じられたが、今から思えば当たり前のことだ。観光ビザの申請だったが、すんなりと発給されたことを覚えている。

 先ほどの解説記事の最後の部分を読んで背筋がぞっとした。また、あの人の名前が出てきたからだ。政府に楯突く人間をあぶり出し、排除するあの人だ。

心意気

『沖縄タイムス』(1月25日付)の1面に衝撃の記事「辺野古陸自も常駐」が掲載された。

「陸上自衛隊と米海兵隊が、辺野古新基地に陸自の離島防衛部隊『水陸機動団』を常駐させることで2015年、極秘に合意していたことが24日、分かった」という内容だ。

 同月27日の参院予算委で菅義偉首相は否定したが、岸信夫防衛相は陸自内での検討を事実上認めた。本誌執筆陣の半田滋さんは同紙で、新基地への「反対運動の矛先を米軍に向けさせ」たそのやり方を「姑息」と批判。

 その通りだ。件の記事を書いたのは本誌「政治時評」執筆陣の阿部岳さんだが、「タイムス・共同通信合同取材」と銘打たれている。

 複数のメディアによるコラボ企画は時々見かけるが、これほど重要な記事についての合同取材は珍しいのではないか。

 2月1日付同紙の「大弦小弦」欄で阿部さんがそのへんのいきさつを書かれていて興味深かった。「組織と前例を超え、束になってかかりたい」と結んでいる。力強いメッセージ、本誌も心意気はまったく同じだ。