編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

命や暮らし

「(与党議員は野党議員に)ルールを守れ、ルールを守れ、必死に叫んでますけど、その元気があるなら、民主主義のルールの根幹である公文書改竄で、民主主義の根幹のルールを壊した安倍政権そのものに対して、ルールを守れというべきではないですか」

 今月10日に閉会した国会。7日の参議院本会議で森ゆうこ議員が農林水産委員長解任決議案の趣旨説明冒頭、力を込めてこう問うていた。まっとうな主張に溜飲が下がる。

 70年ぶりの大改正となる漁業法の改正案について、鈴木宣弘東京大学大学院教授から夏頃、警告を戴いていた。だが、本誌ではなんの注意喚起もできなかった。今週の政治時評欄で佐藤甲一氏が言及されている。

 今国会で矢継ぎ早に出された法案は、命や暮らしに関わる重大な法案であったにもかかわらず、議論が尽くされぬまま、問答無用で次々と可決されていった。「黄色いベスト」さんの指南をいただくまでもなく、攻撃の用意はできている。この怒り、参院選で晴らさぬものか。

大事なのは

 公開が気になっていた『ボヘミアン・ラプソディ』。ふらっと行ったら満員でアウト。先週末ようやく観ることができた。1970~80年代に活躍した英国のロックグループ、クイーンのフレディ・マーキュリーを描いた作品だ。

 地方の中学に通っていた頃、ロックになんか興味がない同級生の女の子が夢中で聴いていた。私の趣味とは違っていたけど、のびのある野生的なフレディの高音が魅力だった。映画ではその歌声が流れる。楽曲の良さを堪能できるシンプルな作りがいい。

 フレディはインド系。民族、宗教、性的指向のマイノリティとして苦悩する姿も。大手と契約したクイーンが最初にツアーでいくのが高度成長を続ける日本だ。当時英国は、自国民が「三流国」と自虐ネタにするほど低成長の時代。でも、音楽はすばらしかった。

 しかし今や日本が三流国の仲間入り。それでも個人的にはオーケーだ。大事なのは、日本に他者を迎え入れる土壌があるかどうか、マイノリティが孤立せずにすむかどうかだ。

ありがたい

「創刊25周年特集はいつまで続きますか」。読者の方から電話をいただいた。記念特集をプレ企画として打った10月26日号から創刊月の11月いっぱい、つまり今週号まで創刊記念を表紙に明記している。でもなぜ、わざわざ? 怪訝に思っていると……。

 その方は本誌を読んだ後、購読を薦める意味で知人や友人に譲っているそうだ。ただ、創刊記念の号だけは手元に置いておきたい。それで別途購入することにしたので、いつまで続くのか聞いたのだと教えてくださった。「よいものは独り占めしてはダメ。みんなで分かちあわなければ」とも。そういえば「読み終えた本誌を電車の網棚に、それとなく置いていく」と先週号で仲誠一さんが投書欄に投稿されていた。ありがたいことだ。

 一方、先週号のこの欄についてお叱りも。麻生太郎大臣の発言(人の税金を使って学校に行った)を「いつものように悪意はないと思う」と評したことだ。悪意の有り無しが問題ではないし、批判されても仕方ない。お恥ずかしい。

あまりにもかけ離れた

 この手の話は無視するのがいちばんと思うのだが。今月17日、福岡市長選挙の応援演説に麻生太郎財務相が駆け付けて(国立大学出身の)北橋健治北九州市長のことを「人の税金を使って学校に行った」と批判したというのだ。

 いつものように悪意はないと思うのだが、私が驚いたのは、国立大学の授業料が私立に近づき高額化していることが問題になっているときに、大臣があまりにもそれとかけ離れた認識をもっていることだ。

 子どもの友だちは地方の国立大学に通っているが、休学を選んだという話を今週末聞いた。金の工面でバイト漬けの生活を送っていたが、来春兄弟の進学が予定されるので、一旦大学を離れて資金稼ぎに徹する魂胆だ。本人曰く「スネをかじろうと思ったときにはかじるスネがなかった」。

 深夜勤でヘロヘロ状態だが、勉強だけでなく演劇サークルにも情熱を燃やしている。そんな学生の実態を大臣はご存じないし、知ろうとも思わないだろう。そうそう福岡市長選は麻生氏が応援した現市長が勝った。

おかしなことばかり

 気になっていた裁判で驚くべき判決が下され、たじろいだ。

 一つは今週号で安田浩一さんが報告してくれている櫻井よしこ氏らへの名誉毀損裁判での札幌地裁の判決だ。本誌はこの裁判について、節目節目で記事を載せてきたので、「なぜ?」という疑問を抱かざるを得ない。来週号では、判決内容を精査した上で記事を出す予定なので、そちらも読んでいただきたい。

 もう一つは東京都教育委員会が教員に下した処分をめぐる裁判だ。東京地裁で勝訴したが、高裁での控訴審で逆転敗訴となった。第1回口頭弁論が開かれた後に結審したので、問題なく勝つだろうと原告側はみていたらしい。

 一連の裁判を傍聴したことのある私も、突然の展開についていけない。本誌でもこの案件は取り上げてきたが、都教委が校長に圧力をかけて教員に不利になる、事実でないことを言わせていたことが、裁判の過程で明らかになった。その当該の人物が、その後昇進していたということも今回聞いた。本当におかしなことばかりだ。

「移民」なのか

 ある国の駐日大使館で働いていたときのことだ。領事部付きだったので、いろんな人が出入りした。ビザを求める人、日本に滞在してパスポートの更新を求める人たち、結婚の届けを出す人たち……。イスラム教では4人の妻を持てることを説明すると、一人去っていった日本女性もいた。

 なかには、自死した人もいた。警察の関わる案件になり、分厚い書類が作られた。“タコ部屋”で毎日肉体労働をして、得たお金の大半は祖国の家族に仕送りをしていた。亡くなる直前、仲間と飲食を楽しんだ時の写真が添付されていた。静かに笑っていた。自死の原因はわからずじまいだった。

 外国人労働者の受け入れをめぐる法案は、「移民」なのかそうでないのかで議論になっている。いずれにせよ働く人たちのことが軽視されていて、気がかりだ。

 ところで11月2日号特集と今週号の対談記事2本は「文字を大きくして」という読者の方からの要望で、ワンサイズ大きくしてみた。いかがでしょうか。

新しい風

 東京・日本教育会館で10月28日、小社主催で「『週刊金曜日』創刊25周年記念集会」が行なわれ、約500人の方が参加された。本多勝一編集委員が体調不良で欠席、メッセージ代読となったが、その他は無事に終わった。

 新体制決定後ということで告知が10月5日号、当日まで20日ほどしかなく、不安で一杯だった。しかし、いろんな方が集会を知らせるビラ配りを手伝ったり友人に声をかけて下さったり、ゲストがゲストを紹介して下さったりした。まさに連携プレーにつぐ連携プレー。集会後は「新しい風を感じた」「来てよかった」という声が小社に寄せられた。

 その前日には、読者交流会を開き35人の方が参加くださった。創刊号以来という“濃い読者”に混ざり、読み始めたばかりという方、大学生の方もスピーチで盛んな拍手を受けていた。創刊準備から関わっているJさんの話にはいつもながら圧倒される。当日問合せをいただいた方には案内ができずに失礼しました。また、お会いしましょう。

25周年を迎えます

 今年の11月で本誌も25周年を迎えます。今週号と来週号では、創刊記念特集を組んでおります。2号に通底するコンセプトは「闘うメディアのこれから」。本誌以外のメディアの方々にも登場いただき、ジャーナリズムの差し迫った課題にどう取り組んでいくのか、議論をしています。

 最近、創刊の準備のためのチラシが残っていたということで読者の方が編集部に送って下さいました。「あなたは現在の“ジャーナリズム”に満足できますか?」「一切のタブーを排した新しい週刊誌創刊」。多少インクは色あせていますが、そのキャチフレーズを感慨深く眺めました。編集委員の顔ぶれを見ると、本多勝一さん以外の4人の方は鬼籍に入られています。時代を画する試みであったことを改めて実感します。

 この時に掲げた理念をどこまで実現できているのか、忸怩たる思いもありますが、今は前を向いて次の一歩を踏み出します。28日には記念集会を日本教育会館で開きます。お席に余裕があるのでよろしかったら是非!

誰ひとりとして

 重要ではあるけれど、つまらない記事が新聞の1面を飾った。「来年10月増税へ対策加速」(『朝日新聞』10月16日付)。消費税を予定通り10%に上げるので、景気の落ち込み対策を安倍晋三首相は10月15日、指示を出しましたよ、という内容だった。

 つまらない理由は2点。一つは来年の参院選の前には前言撤回で、「増税延期」を打ち出すだろうから。もう一つは、政策が単なる数字あわせで、一般の人たちの生活を守る対策にはなっていないから。経済成長の恩恵を受けなかった人は「よほど運がない」と言い放った財相が今も居座っているじゃない。

 この秋、一人の高校生が専門学校への進学を諦めた。ひとり親家庭で通えるだけの経済力がなかったからだ。高校生は通わせたい親と現実との板挟みで自殺を図った。幸い一命をとりとめたが、非力の社会の責任の一端を感ずる。

 これから、ますます政治状況は重要な局面になってくる。誰ひとりとして取り残さない──本誌もその視点を忘れない。

さっさと動き出す

 今週号の表紙は玉城デニーさんで単独インタビューも掲載している。本当は前週号の表紙になにかしら入れたかったのだが、台風の影響で交通状況が悪く、スタッフも揃わず叶わなかった。

 デニーさんのお顔が本当はこの時期、世の中にもっと露出していいはずなのに、なぜかそうはなっていない。官邸の圧力をはねのけて新しい時代に沖縄は入ったけれど、日本自体は悪政ここに極まれり、という感がする。

 内閣改造で「期待が高まった」と回答した人が8%という数字にも、もういちいち驚いていられない(10月6、7日『毎日新聞』実施の全国世論調査)。

 政治は足下から変えていくしかない。今週号の特集は、その意味でいい問題提起となっている。金子勝さん責任編集の「電力会社を解体せよ!」だ。飯田哲也さんをはじめ、その道の第一人者の執筆者を揃えている。平田剛士さんのブラックアウトのレポートも問題の根っこは同じだ。自分たちのことは自分たちで決めて、さっさと動き出す──これしかない。