編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

誰ひとりとして

 重要ではあるけれど、つまらない記事が新聞の1面を飾った。「来年10月増税へ対策加速」(『朝日新聞』10月16日付)。消費税を予定通り10%に上げるので、景気の落ち込み対策を安倍晋三首相は10月15日、指示を出しましたよ、という内容だった。

 つまらない理由は2点。一つは来年の参院選の前には前言撤回で、「増税延期」を打ち出すだろうから。もう一つは、政策が単なる数字あわせで、一般の人たちの生活を守る対策にはなっていないから。経済成長の恩恵を受けなかった人は「よほど運がない」と言い放った財相が今も居座っているじゃない。

 この秋、一人の高校生が専門学校への進学を諦めた。ひとり親家庭で通えるだけの経済力がなかったからだ。高校生は通わせたい親と現実との板挟みで自殺を図った。幸い一命をとりとめたが、非力の社会の責任の一端を感ずる。

 これから、ますます政治状況は重要な局面になってくる。誰ひとりとして取り残さない──本誌もその視点を忘れない。

さっさと動き出す

 今週号の表紙は玉城デニーさんで単独インタビューも掲載している。本当は前週号の表紙になにかしら入れたかったのだが、台風の影響で交通状況が悪く、スタッフも揃わず叶わなかった。

 デニーさんのお顔が本当はこの時期、世の中にもっと露出していいはずなのに、なぜかそうはなっていない。官邸の圧力をはねのけて新しい時代に沖縄は入ったけれど、日本自体は悪政ここに極まれり、という感がする。

 内閣改造で「期待が高まった」と回答した人が8%という数字にも、もういちいち驚いていられない(10月6、7日『毎日新聞』実施の全国世論調査)。

 政治は足下から変えていくしかない。今週号の特集は、その意味でいい問題提起となっている。金子勝さん責任編集の「電力会社を解体せよ!」だ。飯田哲也さんをはじめ、その道の第一人者の執筆者を揃えている。平田剛士さんのブラックアウトのレポートも問題の根っこは同じだ。自分たちのことは自分たちで決めて、さっさと動き出す──これしかない。

再発防止

 佐高信編集委員が今週号をもって編集委員を退かれることになった。1994年6月10日号から編集委員を、2005年から10年までは本誌の発行人も務めてこられた。本誌がここまでやってこられたのは佐高編集委員の貢献があればこそ。こういう事態に至ったことは私の力不足ゆえと、佐高委員をはじめ皆さまにお詫び申し上げたい。

 8月3日号に検証記事を出した「盗用問題」に今週号「風速計」で言及されているが、権力を批判し、説明責任を求める私たちにより高い倫理性が求められていることはいうまでもない。

 検証記事中で、何の瑕疵もない当該書籍の共著者に多大な迷惑をおかけしたことに触れたが、今回発行人に就任した植村隆はその共著者の一人だ。当初からこの問題に強い危機意識を示し、真摯に受け止め反省すると共に二度とこのような問題が起きないシステム作りが必要であることを助言し、問題解決のために動いてくれた。今後は、発行人と協力しながら、本当の意味で再発防止を図りたい。

身が引き締まる

 杉田水脈氏のLGBTの「生産性」をめぐる主張は批判をよんだが、再反論を特集した『新潮45』の主張のひどさは驚くほど。杉田氏をはじめ同誌執筆陣の主張にはこれまで私たちは批判を重ねてきたし、ようやく世間が認識し始めたのか、と感ずるのも事実だ。

 新潮社をボイコットする動きも出てきた。同業社として規模は違えど身が引き締まる。同社からの出版見合わせも検討しているという作家さんの存在には心を動かされた。本誌でインタビューさせてもらった『海を抱いて月に眠る』の深沢潮氏だ。

 書店でもヘイト本お断り、を打ち出したところもある。本誌9月14日号で取り上げた隆祥館書店は、以前からその方針を貫いてきた。同号の記事はその書店主・二村知子さん自らが執筆されたものだ。シンクロの元日本代表選手だった二村さんの知性とホスピタリティに、私は即座にファンになった。記事と関連したイベントに、たくさんの方が詰めかけてくれたと報告をもらった。久々に嬉しいニュースだ。

謙虚に議論し、応答したい

 今週号「新・政経外科」は、一部記述について編集部と筆者の佐高信編集委員とでやりとりがあった。冒頭6行の編集部批判の直後に「たとえば」と特集記事が例示されている。編集方針批判が展開されるべきところを、当該記事自体に瑕疵があるかのような記述になっているとして、同委員に編集部は手直しを依頼した。

 だが、委員は書き直しに及ばずとされ、委員の原稿の取り扱いルールに沿って全委員に意見を求め、掲載の可否を協議するよう要請された。

 委員の方は真摯に受け止め意見を示された。(このまま)「掲載すべき」「掲載すべきでない」、事実関係について部分修正すべき、などで、対応以外の論点も含まれていた。そこで佐高委員と小林とで話し合い、結果、原稿はそのまま載せ、後記で追記し、読者の判断に委ねることにした。

 原稿は編集部の特集の組み方を批判しているのであって、当該記事に国策協力への批判的言及があることを追記する。一方、委員が示された冒頭の批判は謙虚に議論し、応答したい。

元編集部員が当選

 先日の台風、またこのたびの北海道胆振東部地震で亡くなった方々に哀悼の意を表し、被災された方々にこころよりお見舞い申し上げます。読者の方からも状況を知らせるメールを戴いております。誌面で近く掲載する予定です。

 沖縄は今月が選挙月。本誌の元編集部員、内原英聡さんが沖縄県石垣市議選で自衛隊配備計画に反対を掲げて当選した。今回の選挙で配備を争点に強調したのはほとんど野党候補だけだったとか。「現行計画の白紙撤回を求める候補が上位を占めたことは意義深い」と内原さん。

 ここのところ会社を離れる方の挨拶が続いたので、退社後もこうやって地域社会で根づいて活躍する元部員の話を後記で届けることができるのは嬉しい。

 沖縄県知事選ではいよいよデマが流れ始めた。ちなみに今週号ルポにある竹中明洋元NHK記者は、金曜アンテナで報告された9月5日の植村裁判で(文中に言及はないが)証言に立った人物。本誌とは浅からぬ“縁”のある方のようだ。詳細はいずれ、また。

メディアの役割

 今週号の発売はちょうど自民党総裁選の告示日だ。安倍晋三首相と石破茂氏の一騎打ちは4日の時点でほぼ確定している。この間の安倍陣営の石破陣営への攻撃、「パワハラ」と評する意見があるが、たしかにハラスメントそのものに思える。執拗に相手を不快にし、尊厳を傷つけ、不利益を与え、脅威を与える。

 党員参加型の選挙なのに、オープンな場で2人が議論を闘わす場が設定できないというのはおかしい。これは自民党という組織の問題だろう。不透明で歪な選挙戦が前例になることが恐ろしい。

 30日投開票の沖縄県知事選でも同様な違和感を抱く。玉城デニー氏と佐喜真淳氏の事実上の一騎打ちといわれているが、佐喜真氏が討論会や、討論番組に出ない方針をとっているからだ。不確定な要素が入る場を避け、自分たちの思い描いたシナリオ通りに進む場にしか登場しない。そうなると隠された部分を明らかにしていくメディアの役割は重大だ。フェイクニュースへの対応も必要になってくる。制限時間は短い。

真っ当な話を聞く知恵と努力

 リニア中央新幹線について話を聞かせてくれたり、議員立法に詳しい議員を紹介してくれた自民党議員はいま、取材に応じる気配がない。党の役職に就いたからか? この間、編集部として与党議員にさまざまなアプローチをしてきたが、全体として以前よりも応じて貰うのが難しくなっているように感ずる。

 右旋回が強くなったこと、リスクを承知して、自由な言論の場に出ていくことを意気に感ずる議員が減っていることもあるのだろうか。今回の自民党の総裁選で、石破茂議員が「正直、公正」をキャッチレフレーズから外した。どれだけ窮屈な党なのだろうと呆れてしまう。

 もちろん7月27日号の衛藤征士郎議員のように、思想としてはまったく対立するばりばりの自民党議員に登場いただき、まっとうな話が聞けることもまれにはある。ちょっとした感動を覚えたもんなあ。それを考えると、適当な相手を探し、交渉してOKをとるこちらの知恵や努力が不足していると反省するしかない。

(編注)石破氏は8月27日、党総裁選に向けたキャッチフレーズ「正直、公正、石破茂」を変えない考えを表明した。

権力とメディア

「国民の敵」としてメディア批判をしてきたトランプ大統領に、米国のメディア300社以上が「報道の自由」を訴える社説などを一斉に発表し、応戦した。

 一方、韓国では、メディアを支配下に置こうとする過去の政権とメディアの激烈な闘いが知られている。

 先週末、朴槿恵大統領を弾劾に導いたろうそく集会などを牽引してきたキム・オジュン氏が、自身の制作した映画の上映会のために来日した。会場のトークで、いかに多方面からの妨害工作と闘ってきたかに言及した。

 たとえば撮影機材の破壊。何者かがパソコンのCPUのピンを折るという事態も周辺で起きたという。同氏らがとった対抗手段は知恵と根性のたまものとしかいいようがない。1万6000人の市民のクラウドファンディングに拠っているという事実が、彼らを強くさせるのだろう。

「風速計」で佐高信編集委員が本誌への危機感を表明された。権力をも批判する本誌の編集責任者の資格がお前にあるのかという問い、虚心坦懐に受けとめたい。

144国中、日本は114位

 ニュージーランドでは首相が6週間の出産休暇があけて公務に復帰した。パートナーが育児に専念するという。かたや日本では、女性の医学生・医師の数を抑えるよう、医学部入試で点数操作が行なわれていたことがわかった。

 東京医大の女子受験者に対する一律減点操作の記事には目を疑った。いい悪いはともかく大学入試は点数だけが支配する世界と思ってきたからだ。

 このニュースに北原みのりさんが同大学の前で抗議のデモを呼びかけ、多くの女性たちが声をあげた。ジェンダー・ギャップ指数が144国中114位という悲しい状況は、こういうところで着実に作られてきたのだと呆れながら合点した。その後、3浪、4浪以上の受験生もそれぞれ減点されていたことがわかった。どういう価値観か?

 医師の働く職場の劣悪さが問題になって久しいが、女性医師がもっと増えていたら、働き方改革はおのずと進んでいたに違いない。翻って自分たちの職場では……。それぞれの業界での問い直しが始まっている。