編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

怖くはないのだろうか

 読者の方々からこの間共謀罪をめぐる投書を多数いただいた。3月17日号の「論争」では、髙野ゆう子さんが実体験にもとづき「警察に与える新たな点数稼ぎの道具でしか、ない」と喝破している。

 今週号、秋山健司弁護士によるQ&Aの記事のなかで、「ええっ!」と驚く記述があった。脱税も国会議員等の候補者による買収も、当初の法案ではどちらも対象になるはずだったが、今回の絞り込みでは、「脱税にはその共謀罪があるのに対して、買収にはその共謀罪がないとされている」とのこと。

“自分たち議員には甘く、市民には厳しい”。というよりも、買収は外れても、今でさえも冤罪が絶えないのに、フリーハンドに近い捜査権を警察権力に与えてしまうこの法案が、与党議員は怖くはないのだろうか。

 2月10日号で既報の『母 小林多喜二の母の物語』は評判がいいらしい。2015年4月24日号で福田文昭さんが紹介してくれた秋田県・御成座では、5月からロングランになるとのこと。多喜二の生誕地です。

解放

 長かった。沖縄平和運動センターの山城博治議長がようやく解放された。沖縄の米軍北部訓練場のオスプレイパッド建設の抗議行動に関連して山城さんが逮捕されたのが昨年10月。接見禁止を伴う長期勾留のなか、本誌編集委員をはじめ多くの人が声をあげた。保釈が決まり、拘置所前に集まった支援者から「沖縄 今こそ立ち上がろう」の大合唱が起こったという。公判は17日に始まったが、いろんな問題を考えてしまう。

 一つは閣議決定された共謀罪法案絡みだ。今週号で山下幸夫さんが書かれている。山城さんの逮捕容疑の一つに「威力業務妨害罪」があるが、今回の共謀罪の対象犯罪に「組織的な威力業務妨害罪」が含まれているからだ。共謀罪ができれば、「山城議長が『威力業務妨害』を行なう前に、警察が『それを誰かと共謀した』という容疑で逮捕できる」というのだ。山城さんの逮捕・勾留の異常さは明らかだ。しかし、それさえ権力の闇の中で見えなくなってしまう。この流れをどこかで押し戻したい。

頭を悩ます

 森友学園問題では学園側からの小学校認可申請取り下げ、そして籠池泰典理事長の退任、さらに朴槿恵韓国大統領の罷免、南スーダンからの自衛隊撤収など、目まぐるしい動きがあった。共謀罪法案の閣議決定は持ち越しになったが、取り組むべき案件が多くて、誌面作りに頭を悩ます。

 読者の方からは「森友学園問題を、蜥蜴のしっぽ切りで終わらせるな。しっかりと追及を」と激励の電話やメールをいただいた。安倍晋三首相が政治生命をかけて実現するとしていた“教育再生”の実態が、利権の構造も含めてあらわになってきたと言える。安倍政権を倒すため、編集部もいろんな角度からこの問題に取り組んでいる。

 山口泉さんの連作掌篇小説の連載が始まった。山口さんにはこれまで、本誌ではテレビ批評や評論などで健筆をふるっていただいていたが、小説は初めてだ。山口さんにとっても、ほぼ7年ぶりの小説発表であり、「3・11」以降、初めての小説にあたるという。第3週の月1掲載予定だ。

抗議活動

 都立高校の卒業式に保護者として出席した。正門の前で、ビラを貰った。はなむけの言葉とともに、「誰にも立たない、歌わない自由があります」とあった。起立斉唱を職員に強制する「10・23通達」から14年。刃向かう者は処分を受け、異論は封じ込められて今は何事もなかったかのようだが、抗議活動は続いている。

 豊洲市場移転問題で石原慎太郎元都知事の百条委員会への喚問が注目されているが、彼が教育の場で行なった数々の圧政と支離滅裂な行為はどうなるのか。「僕、国歌歌わないもん。国歌を歌うときにはね、僕は自分の文句で歌うんです。『わがひのもとは』って歌うの」という発言が知事退任後、文芸誌に載ったときは、さすがにのけぞった。

 教育勅語を暗唱させる幼稚園がいま、批判を受けている。もちろん違いはあるが、「君が代」だって本質的に同じじゃないかと思う。息子はこのビラを受け取っていない。理由を問うと、業者のビラかと思ったという。若い世代にこそ考えてほしいのに……。

お金の感覚

 確定申告の期限が15日に迫る。私自身は、経理に年末調整をしてもらっているのでその大変さはわからない。だから会社員は税金の重みがわからないと言われることも多い。たしかにそうだろう。

 だが、個人的には家計の大変さが年々増加。そこで「週刊金曜日友の会・大宮」による「老後の貧困リスクに備える」というイベントに参加した。ファイナンシャルプランナー・近江佳美さんの丁寧な説明に、参加して得した気分。

 その時にある方から、ちょっと驚く話をきいた。大手企業では、自分が給与をいくらもらっているかわからない人が少なくないというのだ。会社が給与支給明細書を配付せず、サーバー上におき、それに個々アクセスする仕組みに変わったからだという。

 忙しさにかまけて見ない人もいるだろう。紙代の節約にもなるし、経理が配付する手間も省ける。だが、これではお金に対する感覚がますます薄れてしまう。政府の政策の是非についての実感もわきにくくなる。ここでも……とため息。