編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

注目すべき判決

 冷え込みが厳しくなってきた。きょうは冬至。朝、自転車で通勤中、散歩中の保育園児に出くわした。前後を先生に見守られ、手をつなぎ、おしゃべりをしながら園児が通り過ぎる。その上を、街路樹の葉っぱがキラキラと光る。ハンドルを持つ手はかじかむけれど、温かい気分になる。

 今月16日、名古屋高裁金沢支部(蓮井俊治裁判長)で注目すべき判決があった。精神科病院で身体拘束された患者の死亡事故をめぐり、遺族が病院を経営する社会福祉法人に過失があるとして約8630万円の損害賠償を求めた民事裁判の控訴審判決だ。名古屋高裁金沢支部は原告敗訴の一審判決を覆し、身体拘束の違法性を認めて社会福祉法人に約3500万円の支払いを命じた。1月31日号本誌で詳細を報じた案件だ。

 判決が確定するかどうかはわからないが、医療関係者はこの判決を戒めとしてほしい。もう二度と同じことが起きてほしくない。

 今週号は年末年始合併号です。1月8日号でまた、お会いしましょう。

新型コロナのワクチン

 新型コロナの感染拡大がとまらない。私もつい先日PCR検査を受けた。身近なところに危険があることを認識。

 ワクチン接種が各国で始まっている。医療関係者向けの情報提供サイト「ケアネット」で会員医師1000人に新型コロナのワクチン接種に対するアンケートを実施し、その結果を11月に公表した。ワクチンが接種可能になった場合、接種したいという人が61・2%、したくない人が38・8%だった。

 インフルエンザワクチンについては89・9%の人が毎年接種と回答していることを考えると、新型コロナのワクチンについては慎重な人が多いという印象だ。

 東京五輪代表の新谷仁美選手は、ワクチン接種について「正直打ちたくないと思っている」「体調管理を大事にしている。今の対策をしっかりして臨みたい」と会見で発言している(『東京新聞』12月6日付)。

 正しい情報提供をうけ、あくまでも個人が判断をすべきというのはいうまでもない。ワクチン以前に政府の対策全般が疑問だらけだから、正直不安だ。

元保護者の愚痴

 今年度はコロナ禍による経済的理由から、大学などを休学、中退する学生が大幅に増えることが懸念されている。就職率も記録的に悪い数字になりそうだ。

 もし、ストレートに進学したとするならば、今年度卒業する大学生は小学校卒業の年に3・11を体験、卒業式もままならなかった試練の学年だ。この学年に限らず、行政、大学などは可能な範囲で学生に手を差し伸べてほしい。もっともコロナ以前に、おやっと思うこともある。

 地方の国立大学のケース。卒業までに必要な科目でありながら、毎年希望者多数でくじ引きが行なわれている講座があること。講座を増やせばいいだけの話だが、財政的な問題なのだろう。

 くじ運が悪いと4年で卒業できないことも。理学部の卒論研究で、使える予算が1人あたり5000円。これでは試薬ひとつ購入できない。指導教員が自分の研究費用から捻出するらしい。もともとそんなものなのか。授業料は私たちの世代に比すると何倍にもなっているのに。あ、これは元保護者の愚痴でした。

まだ手作業

 新型コロナ対策の最前線で闘っておられる東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦先生の研究室に入るには、研究棟のエレベータから降りてまず靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。さらに研究室前で別のスリッパに履き替える。靴の裏がウイルス感染のリスクになるとは聞いたが、なるほど……。

 インタビューはホワイトボードを背にした先生が、時々図を描いて説明してくれた。1月の段階からは比べものにならないくらい新しい知見が得られていることがわかってきた。ただ、専門外の私たちには難しいので時々「ひらたい言葉で」とお願いをした。

 その日は20人ほどの急なPCR検査が入ったとおっしゃっていた。インタビューのあと、昼ご飯を食べる余裕もなく、防護服を着て検査設備がある部屋に向かわれた。

 印象に残っていたのは、日本の検査の様子を諸外国の研究者がテレビでみて、みな一様に驚くという話だ。「まだ手作業でやっているのか」と。政府の判断力が鈍ると現場は大変だ。