編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

増ページ

「ええっ? それは……」

 厳しい要請が進行担当の文聖姫から発せられる。そして姉御は、情け容赦なく私たちのお尻を叩く(気がする)。1年に一度だが、今週がまさにその時。通常、発売の週の火曜日にその号の編集作業を終えるのだが(=校了)、今週に限っては月火がお休みなので、前週の金曜日までに作業を終えなければならないのだ。

 前週の火曜日には前週号の校了があるわけで、私など頭がこんがらがってしまう。校閲、デザイナー、組版所らとの連係プレーが特に重要だ。

 今週号から月2回ほど、ぶんか欄の「書評」を増ページする予定だ。出版社はもちろん著者の方、読者の方からもさまざまな本を送って戴く。これがいずれも良書ばかり。スペースの関係でごくごく一部しか紹介できないことに、いつも胸が痛んでいた。

 だから増ページを私自身、素直に喜ぶ。といっても、取りあげる本が月4週とすると、12冊だったのが18冊に変わるだけだが。「書評」に取りあげられなくても、企画の参考にさせていただきます。

終わらない

 菅義偉氏が次期首相に就任する。菅氏というと私は、望月衣塑子記者の質問に苛立つ姿と選挙の応援演説で見せる笑みとの落差、そして「ふるさと納税」を思い浮かべる。

 2006年に西川一誠福井県知事(当時)が提案した「故郷寄付金控除」に着想を得て、総務相だった菅氏が主導し、制度化した。返礼品の特典がつくので過熱気味だった。高価な返礼品を咎められた大阪・泉佐野市が国を訴えて勝訴するという事態まで起きた。

 負担なき寄付といわれる一方、寄付者の居住自治体と国庫(地方交付税交付団体の場合は税収減の多くが国の交付税で補填されるので)が実質的な負担をしているという事実が顧みられない点などを本誌では16年、問題にした。

 その取材で関係者から伺った話が本当だったと9月12日付『朝日新聞』で知った。ふるさと納税に異を唱えた官僚が左遷されたという話だ。当該の平嶋彰英さんがインタビューに応えていた。菅氏は「政策反対なら(官僚は)異動」と発言している。アベ政治は終わらない。

悪い予想

 やっぱりそうか。悪い予想は当たる――。次期首相に菅義偉官房長官が選任される可能性が高くなったということではない。「東京五輪、開催経費は史上最大 英オックスフォード大の研究」という共同通信が4日に発したニュースについてだ。

 大会経費だけで約1兆6800億円にのぼり、これには延期の費用が入っていないという。一つの試算にすぎないのだが、「世界一コンパクトな大会」という宣伝文句で勝ち取った大会のツケが回ってくる日は近いということか。

 大会の実施自体疑問だが、コーツIOC副会長はやると語っている。コロナ禍でダメージを受けた社会がさらに巨額の負債を抱え込む。

 たしかに安倍政権下で株価は上がったが、実体経済は違う。「スタート直後は『ロケットスタート』と評されるほど好調だったが、半年後には早くも失速しはじめた」と、今週号「経済私考」で高橋伸彰氏は書く。総裁選の3候補、いずれが首相になってもこの苦境は改善しそうもない。

 この予想、外れてくれたらいいのだが。

「悪夢狩り」

 安倍晋三首相が、辞任を表明。今週号は当初予定していた記事を差し替えて関係記事で特集とした。その後共同通信によると、首相は在任中に敵基地攻撃能力保有の方向性を示す意向を固めたと与党幹部に伝えたとのこと。

 は~?先の会見でも首相はやり残したこととして憲法改正、北方領土、拉致問題を挙げたが、福島原発事故や沖縄の新基地建設に言及していない。拉致問題はともかく、実現せずとも責められない「大いなる課題」に夢中で、目前の危機的課題は終始眼中になかった。

 本誌は懲りもせず、ずっと批判を続けてきた。第一次政権のときは「イデオロギーでなんでもかんでも批判するのはどうか」と言われ、第二次政権当初も「考えすぎ」と言われたが、特定秘密保護法あたりから「安倍さん、ちょっと怖いね」に変わってきた。

 今週号、雨宮編集委員の「悪夢狩り」の被害は、この政権の異様さを如実に表していて心底ぞっとした。トップが変わっても“アベ政治”が変わらなければ、社会の分断と荒廃は進むだけだ。