編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

今回の年末年始号は食を哲学する九九(食う食う)冊の特集となった

編集長後記

 昨年の「民主主義を考える一〇〇冊」に続き、今回の年末年始号は食を哲学する九九(食う食う)冊の特集となった。昨年と趣旨は同じ「金曜日書店」である。「暗黒国会のあとでなにをノンキな」と思われる読者もいるかもしれないが、腹が減ってはなんとやら。実際、お題は「食」だと話したところ、書評したいと積極的に申し出る部員が予想以上に登場した。編集部として希に見る事態だった……。

 先日、試写で観た『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(傑作!)では主役のマシュー・マコノヒーは役づくりのために二一キログラムの減量をし、心身が絶好調になったという。実写版『あしたのジョー』の力石徹役だった伊勢谷友介も減量は、食べることを考えなくていいのは楽でした、的な名言を吐いていたので、私もその境地を見習おうと考えていたが、とりあえず年末は食おう(いつもじゃないか?)。そう、食べることは殺すこと、生きること哉。食には自覚的であらねばならぬ也。アベカワモチ政権もマズそうだけど食うぞ。 (平井康嗣)

ドイツ系ユダヤ人哲学者、ハンナ・アーレントの自伝映画が好評らしい

編集長後記

 ドイツ系ユダヤ人哲学者、ハンナ・アーレントの自伝映画が好評らしい。私も試写を観て映画評だけでなく、アーレントを読み解く論文を八柏龍紀さんに寄稿していただいた(一一月一日号掲載)。

 秘密保護法の連日の抗議運動に参加しているとき、アーレントを振り返っていた。孤高になっても、己の思考に誠実である彼女の姿勢についてだ。アーレントはイデオロギー(絶対または普遍な考え、思想)や連帯とは一定の距離を置いている。他者との最大公約数的な思想やイデオロギーを見つけ出してつながろうとする人々は多いが、真摯な事実追究や論理性を棚上げするとその関係も脆いものだ。

 鎌倉孝夫さんと佐藤優さんの師弟対談『はじめてのマルクス』(小社刊)が、書店で健闘している。鎌倉さんは高校生の佐藤さんに割り勘は資本主義のイデオロギーだと諭したそうだ。鎌倉さんはそのことは覚えていなかったが。マルクス主義経済学ではなく、マルクス経済学を読み解くことでつながる両者には「知」の厳しさを見た。 (平井康嗣)

石破茂自民党幹事長が「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログで正直なテロ認定をして問題になった

編集長後記

 石破茂自民党幹事長が「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログで正直なテロ認定をして問題になったが、一二月二日には「テロ」部分を撤回、「本来あるべき民主主義の手法とは異なるように思います」と訂正した。

「あるべき民主主義」に限らず、特定秘密保護法案論戦において自民党は、さまざまな定義を国民に押しつけてきている。党の憲法改正草案を見ればその傾向はわかるが、立憲主義を否定している(理解していない)ので、違憲性の高い発言は意に介さない。

 衆議院での強行採決当日における特別委員会でも森担当相らは取材活動について「一般の取材」「合法な取材」は、問題にならないと繰り返し答弁した。でもこれは当たり前の話だ。最低限の話だ。違法だけれども民主主義や憲法の理念に資する、一般人まで含める「取材」や「報道」を認めるかが問われている。立法府至上主義が強い国会議員にはこの論点が目に入らない。ともかく自民党の定義押しつけには気をつけたい。(平井康嗣)