編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

外務省の役割

 安倍首相は憲法改正に執着しているが、憲法を変えればひとびとの暮らしがよくなるものか。今の自民党改憲草案(の背後にあるイデオロギー)ではそうはならないだろう。では自衛隊が国防軍になると日本の誇りが取り戻されるのか。むしろ日本の安保政策は世界でますます危険視されていくだろう。

 安全保障上最大の課題は核軍縮だ。この点にかんして、小誌2015年8月28日号で川崎哲氏は「日本政府は、アメリカが核兵器の使用を限定することについて、ことさら反対してきた」と例を挙げて指摘している。

 政府とはつまり外務省である。独自に安保政策の絵を描き、集団的自衛権の行使容認にまでつなげた主犯だ。6カ国協議の最重要課題も核だが、北朝鮮は水爆実験を実施してしまった。北朝鮮が核開発を進める大義名分は平和協定を結ばない米国の核兵器による「核脅迫」なのである。

 日本政府に責任がないと言えるのか。米国を利用して危機を作り出す外務省は、かつて戦争に邁進した旧日本陸軍の役割を担い始めている。

「慰安婦」と赦し

 「熊本地震」により被災されました皆様に謹んでお見舞い申し上げます。このたびの震災の影響を受け、熊本県を中心とした九州地区において本誌の配送に遅れが生じております。特に熊本県の益城町、南阿蘇村では、お届けが困難となっている模様です。なお今後も地震の影響をうけ、配送が遅れる場合があります。何卒、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

 さて、今週号の「日本軍従軍慰安婦」への政府対応は常に批判を招く。アジア女性基金による金銭解決もそうだったが、そこに「免罪符」「赦し」をカネで買うという思想が垣間見えるからだろう。

 もちろんカネは必要な状況もあるからただちに悪ではない。しかもカネはあまりに私たちにべったりと染みつき、金銭解決を批判する資格をほとんどの人は持たないだろう。

 しかし「赦し」はカネで買えるものでもなく、「謝罪」の対価でもない。被害者が加害者に一方的かつ無償でふいに与える筋合いのものだろう。そこに取引や期待は生じないはずである。

本気と親身

 『週刊金曜日』前の専大通りを北にまっすぐ15分も歩くと、格闘技の聖地と呼ばれる後楽園ホールにたどりつく。私は年に10回くらいこの場所でボクシングの試合を観ている。

 リングの上では元チャンピオンをふくめ引退した元ボクサーらが、現役選手のセコンドをしている。首にタオルをまき、1分の休憩の合間に選手の汗を拭き、マッサージをし、水を口にふくませ、親身にケアをする。それは彼らにとって当たり前の姿だ。きっとそのセコンドも選手時代にその助けがあって試合を闘うことができたはずだからだ。

 選手にとってそれがいかに心強いか。私も初めてリングにあがったときに、普段は厳しいコーチや遠慮がちな選手が懸命にセコンドをしてくれてちょっと感動した。

 選手がリングにあがったならば信じて応援するしかないのだが、本気で闘った人は選手も本気だと信じたいものだ。逆に現役選手もリングの上で本気で生きなければ、引退後に親身に応援されないし、応援もできないことになってしまうのではないだろうか。

歴史修正主義

 ここ数年、歴史修正主義を深刻な現象だと感じてだらだらと考え続けており、小誌でもしつこいほどとりあげている。なぜこのような錯覚が起きるのか疑問なのだ。

 大衆の対立構造を生むため、差別を正当化するため、または失政のめくらましのために「政治」が利用している「結果」は存在する。だが大衆レベルでもちょっと調べればわかる間違いや法則を信じ込む姿勢は広がるばかりだ。

 私はこのような現象の説明をこれまで歴史学や哲学に求めていたが、最近は心理学にも求めている。なぜ錯覚、思い込み、認知バイアスが生じてしまうのかについて興味深い実験も数々ある。心理学者のアルベール・ミショットは人は観察から因果関係を見つけ出しているという通説を70年も前に否定したという。

 実は人は観察の第一印象で因果関係を思い込んでしまうそうだ。つまり因果関係の発見は人の外側ではなく、そもそも人の内側からはじまっている。断捨離やミニマリズムも、無意識の思いこみに抗う内側の動きの一つなのだろう。

電力自由化

 電力自由化が4月1日から本格化する。本誌の読者は原子力発電に依存する電力会社との契約を解消し、再生可能エネルギーを送電する事業者に切り替えたいと考えている人は多いだろう。

 避難計画まで必要とされる危険な電力を避けたい思いは当然だ。しかし発電能力が不十分ならば結局「隠れ東電」電力会社と契約してしまう可能性が高い。

 3月22日、茨城県東海村から核兵器40発分とも言われるプルトニウム331キログラムを積んだ英国の輸送船が米サウスカロライナ州へと出港した。米エネルギー省のサバンナリバー核施設に返却するためだ。核兵器の使用を合憲とする安倍政権がプルトニウムを保有することは世界の核安全保障からも危険視される話だ。

 一方、受け入れ先のヘイリー州知事は、市民や環境の安全のために今回のプルトニウム持ち込みは容認できない旨の書簡を米政府に送り、行き先変更か輸送停止を求め、訴訟も辞さない姿勢だという。中央政府と地元政府の思考のギャップは当然ながら米国にも存在する。