編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

知れば知るほど

「なぜ? 五輪中止できないのか」。

 今週号特集タイトルだが、知れば知るほどその疑問を強く抱く。東京五輪・パラリンピック観客向けのアプリの開発に約73億円が投入されているという。衆院予算委員会で17日、尾辻かな子議員(立民)が政府に答弁を求めているのを中継記録で見て、初めて知った。

 このアプリ、訪日する観客の入国前から出国後までの健康管理を行ない、コロナ感染拡大を防止するためのもの。仕様書では入国後、14日間の待機もワクチン接種も不要と謳っているという。

 つい先日、接触確認アプリ「COCOA」(3億9000万円)の不具合のため、約770万人に通知が届かなかったことが明らかになったばかり。そもそも大会自体が中止の可能性があるし、実施されたとしても無観客の可能性が高いんじゃなかったか。

 万が一のために観客用アプリを開発することは仕方ないとしても、不具合がでるかどうかわからないものに私たちの命と健康をまかせることだけは避けたい。

一致かどうか

 最近、「創刊以来の読者」の方からある葉書をいただきました。こんな趣旨です。

 本誌の記事のなかに、ある政党に対して、批判を交えた意見表明がされていた。それに対して政党の責任ある立場の方の反論を掲載すべきではないか、とのこと。さらに“掲載する記事については、大筋では編集委員の考え方と一致している内容であるべき”とも。

 当該の政党に直接話を聞いたほうがいい場合もあるし、読者の方々で意見交換していただくのがいい場合もあるでしょう。私はそのケースは後者に該当すると考えました。

 本誌では人権や民主主義の尊重、平和の希求、地球環境保護などの理念を編集委員とともに共有していますが、政党に関しての見解は必ずしも一致していないと考えます。権力の監視という使命はありますが、それ以上の一致は求める必要がないでしょう。

 今週号では志位和夫日本共産党委員長へのインタビュー記事を掲載しました。多忙な中、時間をとっていただいたことに感謝します。

あの人の名前

「見せしめ」でなければ何だというのだろう。いや、「見せしめ」でないとすれば、その闇はもっと深い。

 ジャーナリストである安田純平氏への外務省の旅券発給拒否問題だ。トルコからの5年間の入国禁止処分を理由に、発給拒否処分を課しているのだ。

 今週号の解説記事で佐藤和雄氏が主張するように、トルコへの渡航が問題なら、トルコに行くことを制限した旅券を出せば済む話だ。実際にそういう旅券は存在する。

 私も、A国駐日大使館領事部で働いている時、B国への渡航を制限する条件付きの日本人の旅券を扱ったことがある。制限があっても、B国での扱いが不利になるということもなかった。当時は不思議に感じられたが、今から思えば当たり前のことだ。観光ビザの申請だったが、すんなりと発給されたことを覚えている。

 先ほどの解説記事の最後の部分を読んで背筋がぞっとした。また、あの人の名前が出てきたからだ。政府に楯突く人間をあぶり出し、排除するあの人だ。

心意気

『沖縄タイムス』(1月25日付)の1面に衝撃の記事「辺野古陸自も常駐」が掲載された。

「陸上自衛隊と米海兵隊が、辺野古新基地に陸自の離島防衛部隊『水陸機動団』を常駐させることで2015年、極秘に合意していたことが24日、分かった」という内容だ。

 同月27日の参院予算委で菅義偉首相は否定したが、岸信夫防衛相は陸自内での検討を事実上認めた。本誌執筆陣の半田滋さんは同紙で、新基地への「反対運動の矛先を米軍に向けさせ」たそのやり方を「姑息」と批判。

 その通りだ。件の記事を書いたのは本誌「政治時評」執筆陣の阿部岳さんだが、「タイムス・共同通信合同取材」と銘打たれている。

 複数のメディアによるコラボ企画は時々見かけるが、これほど重要な記事についての合同取材は珍しいのではないか。

 2月1日付同紙の「大弦小弦」欄で阿部さんがそのへんのいきさつを書かれていて興味深かった。「組織と前例を超え、束になってかかりたい」と結んでいる。力強いメッセージ、本誌も心意気はまったく同じだ。