編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

熟議を経ぬまま

「改憲」に向けた今後の動きを考えるうえで、3月25日の自民党大会は注目されていた。改憲に向けた意欲が語られ、その方針は決定したが、「改憲4項目」については具体的に示されなかった。これでほっとしていいとは思えないが……。

 これまで安倍首相が進めてきたことで正当性が問われることは多々あった。だが、その問題の本質が明らかになる前に、自公政権は議論を避けて政治課題を強行。そうしていくつもの曲がり角を恐ろしい早さで曲がってしまった。

 その末にあるのが、熟議を経ぬままの憲法改正ではないか。森友問題は、これまでの安倍首相の政治手法を明らかにする上で重要だ。将来に禍根を残さぬために、しっかりと追及していきたい。

 私ごとだが、義母が亡くなった。桜が咲くまでは命をつなげると言われていたので、開花を待つ気持ちと、恐れる気持ちが同居していた。今週号の高峰武さんの記事の中にも出てくる石牟礼道子さんの「花を奉るの辞」が、ひとしお心にしみた。

桜が咲いたら

 東京ではこの17日、桜の開花宣言があった。たしかにちらほら家の近くの桜並木も花をつけている。

「桜が咲いたら、安倍政権には散って貰いましょう」。政治学者の中野晃一さんのこの一言が、ひときわさかんな拍手を浴びた。18日に都内新宿駅西口で行なわれた森友「決裁文書」改竄を巡る市民と野党の街頭宣伝での一場面だ。

 この日は、福島みずほさん(社民党)、志位和夫さん(共産党)、長妻昭さん(立憲民主党)、のざわ哲夫さん(自由党)らと、市民や学者が登壇。久々に奥田愛基さんの姿も。奥田さんが発言されたように参加者の中に創価学会の三色旗を掲げた方がいらした。おかしいものはおかしいと表明する勇気を支持したい。

 国益という言葉に慎重な中野さんだが、G20財務相・中央銀行総裁会議に日本が今回代表を送れなかったことによる不利益を指摘し、安倍政権に政権担当能力がないことを批判した。自分たちのしでかしたことの始末をつけるのは、政権を降りてからにしてほしい。

歴史に残る事件

「鼻の取れたピノキオ君」。いつも難しい論考をお送りくださり刺激をいただく読者の方から、珍しく軽めのエッセイが届いた。そのなかで、安倍首相につけられた名前だ。鼻がなければ嘘をついてもつき放題、ということだ。

 森友事件で、削除された文書に学園側の発言として(昭恵)「夫人からは『いい土地ですから前に進めてください』とのお言葉をいただいた」との発言あり、と書かれていたことがわかった。

「私や妻が関係していたということになれば、まさにこれはもう私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」という安倍首相の発言はどうなる。嘘、偽りがないか糺すべきではないか。

 公文書の改竄、その事実を知り得た会計検査院や国土交通省がだんまりを決め込んでいたこと、さらに関係した役人の自死、いまなお何カ月も勾留されている籠池夫妻の人権問題もあわせて考えると、歴史に残る事件といえよう。今の思いはこれだ。「アベ政治をゆるさない」

被曝と健康

 3月11日が近づいてきた。今週号は「被曝と健康」について特集をした。事実を淡々と伝えることを心がけたつもりだ。

 甲状腺がんの患者さんによる鼎談記事は貴重な内容ではないか。お名前を明かし撮影も許可してくださった3人の方々の決断に敬意を表したい。

 摘出した甲状腺の返還を3人の方が病院側に求めたにもかかわらず、拒まれたケースがあったことには驚いた。というのは、わたしも以前、自分の臓器の返還を求めたことがあったからだ。

 病院側と交渉した結果、臓器は私の所有物だが、処理については条例で定めがあるので、その条例にのっとった対応が必要とのことを確認した。最終的には渡してもらった。

 研究用に提供することがあってもいいと思うが、あくまでも本人の同意があってのことではないのか。とくに3人の方々が返還を求めたのは、それなりの理由がある。

 3月11日は先日亡くなった石牟礼道子さんの誕生日でもある。都内では催しが開かれるようだ。

裁量労働制の本質的問題

「働き方改革のために、毎日残業」。週末、エキタス#定額働かせ放題プランのデモに行く途中の電車で目が行った広告だ。自宅でも業務がこなせるテレワークのすすめか。IT業界にとってはビジネスチャンスだ。効率的に仕事ができるというのは悪いことじゃない。しかしそれで労働者の自由な時間が増えるわけじゃないだろう。安倍晋三首相が国会に提出した法案はそういう問題以前の、杜撰なものであることが露呈している。

 端緒となった首相の国会答弁だけでなく議論のおかしさも指摘した法政大学の上西充子教授もこの日、雨宮処凛本誌編集委員とともに横断幕を持って裁量労働制の本質的問題を訴えた。同制度は経営者にとって携帯の定額使いたい放題プランと同じ、”労働者はモノじゃない”と小池晃議員(共産)。労政審で話し合うべきものが、官邸の産業競争力会議で実質、決められたことが異常。”若者を潰して何の経済成長か”と長妻昭議員(立憲民主)。もっともだ。野党連携による国会でのさらなる追及を望む。