編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

悔しい

 予想通りではあったが、悔しい。

 総選挙の投開票のあった22日、私が行った自民党開票センターは、通常30人くらいの記者が使う自民党本部内の記者クラブで、150人から200人の報道陣が詰めかけていた。テレビカメラが15台、スチールカメラが10台で3列……。

 実はN放送の記者がそのようにレポートしていたのだ。この記者、自民党の公約を「奇策をてらわないまっとうな公約」と持ち上げていて気になる。ひな壇の中央正面のゾーンには、ピンクリボンをつけた(記者クラブ所属の?)映像担当記者以外は立ち入る権利がない。

「尻の肉がもげそう」。途中、正面ゾーンで脚立に座っていたカメラマンが、苦痛に顔を歪めながら立ち上がる。他のカメラマンも一斉に立ち上がり身体を伸ばす。「立ちレポ」ゾーンで身動きできないこちらは、何時間も立ちんぼだ。おまけに頭上でカメラを構える人がいて、よくぶつかる。

 とにかく“狂騒の1日”は終わった。今後は「憲法改正」発議に、リベラル勢力がどう対抗するかだ。

チャンスはある

 今週号が出るころは選挙戦も大詰めだ。経済を立て直した安倍政権という自己評価がいかにおかしいか、今週号の佐々木実さんによる「経済私考」をお読みいただければわかるだろう。「史上最高のGDP(国内総生産)」をめぐるかさ上げ疑惑だ。

 小池百合子希望の党代表から「排除」発言を引き出したのは、今週号に記事を執筆されている横田一さんだ。キャリアが豊富な上に地道な取材をされる謙虚な方だ。都知事の非公式会見で横田さんが「(小池氏が前原氏と)共謀して『リベラル派大量虐殺、公認拒否』とも言われているのですが」と質問を向けると、小池都知事は思わず「(リベラル派を)排除いたします」と答えてしまったのだ。

 安倍政権の復興相を質問攻めにして「出ていけ」と言わしめた西中誠一郎さんも、こまめに集会を取材されていて、行く先々で見かけることが多い(復興相は別件も重なり後に辞任)。政治家の嘘を暴くのはジャーナリストの使命だ。投票日まで、まだチャンスはある。

新しいステージ

 今回の総選挙、289小選挙区中、249区で野党候補の一本化が成立したという。公示日直前、市民連合の集会に野党の3党首がやってくるというので、私も参加した。吉田忠智社民党党首がいうように、今回の総選挙は、安倍政権打倒と憲法改悪阻止が目標だ。枝野幸男立憲民主党代表のスピーチ、「いいな」と思った。「この選挙の主役」のところで、「安倍政権に、ヘンだぞ、おかしいぞと声をあげてきた皆さん」だけでなく、「声をあげられなかった皆さん」にも言及したのだ。

 この選挙で投票権を持つMさんは、今年1月に会った時、都立高生でありながら1日16時間働いていた。卒業後の専門学校の学費を貯めるために。だが、この夏、高校を辞めてしまった。理由はわからない。今回の選挙に立候補した方々は、ぜひ、彼・彼女らの声を聞き、その声を政策に活かしてほしいと思う。この総選挙が広い意味で、志位和夫・日本共産党委員長のいうように「市民と野党の共闘の、新しいステージ」になることを願っている。

選挙報道

 10日の公示を前に、情報が日々入り乱れ、状況が刻々と変わっていく。週刊誌というメディア特性をどう生かして選挙の誌面を作っていくか、本誌編集部もいま汗を流し、頭を悩ませている。

 1日は東京・新宿で行なわれたデモに参加した。市民も政治に声をあげようと企画された。参加者は1500人。枝野幸男議員と山添拓議員も駆けつけた。枝野議員は「社会の軸となるべき基本は守る。もう少しお待ちください」とスピーチ。その言葉通り翌日「立憲民主党」結党を表明。

 デモの途中、右翼の街宣車と鉢合わせし、罵声の連呼を浴びた。すごい騒音なのだ。私の前に1歳のお子さんが抱っこされていたので怖がらないか心配したが、スヤスヤ眠り続けている。「この時間、おやすみタイムだから」と母親は笑っている。大物だ。

 一つ嬉しかったのは、「resist」と大書されたプラカード。そこに添えられていたのが、ドクロではなく、笑っている人の顔だったのだ。

 しばらく選挙報道が続く。