編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

特定秘密保護法案は強行採決された。

編集長後記

 特定秘密保護法案について二六日の衆院特別委員会で町村信孝・自民党PT座長が「NSC法案の二倍の審議時間だ。採決するには十分な環境は整った」と述べたが、これは理由にはならない。NSC法案の審議時間が短すぎるとも言えるし議論時間の正しい指標とはなにか。しかし法案は強行採決された。

 近年、ここまで特定の法案に反対運動が盛り上がったことは稀だ。印象に残る反対運動は一九九九年の盗聴法、二〇〇三年の個人情報保護法、二〇一一年の脱原発関連だが、今回はそれ以上とも言える。にもかかわらず安倍政権が強引に推し進め得るのは、三年間選挙がなく、短命政権疲れのあとの「ひさびさの長期政権」のためである。だからこそ反対の声も強い。

 自公政権はこれからテロ対策で諜報機関を創設し、他国との情報連携を深める算段だ。それは仮想敵との線引きを強める。対テロ政策を進めるほど他国のようにテロに巻き込まれるリスクは高まり、社会の不安も強まる。私にはこれが一番怖い。 (平井康嗣)

私は人生で何度か肉を食べないベジタリアンになっている

編集長後記

 今週も特定秘密保護法案の廃案に向け注力したが、精肉店特集にかんして触れたい。私は人生で何度か肉を食べないベジタリアンになっている。つまり続いていない。

 ベジタリアンは乳製品もとらないハードコアなビーガンもいるが、私は魚は食べるペスクタリアン程度であった。最初は高校生時代。このときベジタリアン化した理由は忘れたが、動物の肉を食べる行為を考えるため肉と牛乳はやめ、毎日トマトジュースを飲んでいた。一年ぐらいそれは続き、二〇代半ばでまた肉をやめた。理由は安くなりすぎたからだ。幼少期、「サザエさん」などのマンガでは「ビフテキ」という言葉が象徴的に使われるほど牛肉は高級品の象徴だった。だから牛肉が異常に安いマクドナルドに腹が立ったのだ。それから数年して狂牛病の問題が起き、工業的畜産の姿も知った。ほらみろ、だ。

 でも今はその反動か焼肉好きだ。在日と焼肉屋さんに行く機会も多く、抗しきれなかった。美味かった……。命を食べるのは生き物の業だと受け止めている。 (平井康嗣)

リベラル色のあった初期民主党政権は「新しい公共」を掲げ選ばれた「市民」を政権に参加させた

編集長後記

 リベラル色のあった初期民主党政権は「新しい公共」を掲げ選ばれた「市民」を政権に参加させた。この結果、政治と「市民」との距離が縮まったように見えた。ビッグブラザーなどは存在しない、政府は使うものだ、話せばわかるという意見も拡大した。そうなればいいと私も思う。

 一方、スノーデン氏の内部告発を待たずとも、国家の盗聴・監視秘匿とその暴露のいたちごっこはもはや宿命だ。NSAにとって最初の盗聴暴露は一九六〇年に日本で起きた。横浜盗聴局にいた二人の暗号官がソ連に寝返ったという。その後もNSAの通信傍受は米国内で度々暴露されてきた。七五年にはNSA長官によってジャーナリストや俳優など数千人の盗聴、ベトナム戦争反対者が監視されていたことが明らかにされた(コッホ+シュペルバー共著『データ・マフィア』より)。

 日本でも「盗聴法」が改定されそうだ。いま日米軍事同盟が強調され敵や不安のコントラストが強まり、まるで「戦前」だ。このままでは未来は明るくない。

西山太吉・元『毎日新聞』記者が、沈黙を破って初めて登場したのは『週刊金曜日』だった。

編集長後記

 西山太吉・元『毎日新聞』記者が一九七一年に起きた「外務省機密漏洩事件」後、沈黙を破って初めて登場したのは二〇〇〇年一一月二四日号の『週刊金曜日』だった。本多勝一編集委員のインタビュー記事である。福岡県内の取材先ホテルに私も同行した。そのとき西山さんは本多さんだから取材を受けたと語り、私は興奮を覚えつつ歴史的事件の当事者にレンズを向けシャッターを切った。その記事で本多さんが引用した澤地久枝さんの『密約』(中公文庫)の一文を孫引きしたい。

「『国家秘密』を取材した新聞記者が罪に問われる法律があるなら、国会と主権者に対し欺瞞と背任を行なった政治家を告発する法律があってもよさそうなものである。しかし、『国民の知る権利』という正統的で受け身な主張はなされたが、主権者の側からの法律上の告発はなかった」

 同じ事を繰り返していいのか。また米国は三〇年後に「密約」を公開したこと、「密約」の当事者・佐藤栄作がノーベル平和賞を受賞したことを忘れてはいけない。 (平井康嗣)

おかげさまで『週刊金曜日』は今週号で二〇周年を迎えました

編集長後記

 おかげさまで『週刊金曜日』は今週号で二〇周年を迎えました。『買ってはいけない』が二〇〇万部売れた貯金が効いていますが、それだけだったらとっくに消えています。紙メディアが淘汰される中なんとか生き残っているのは、『週刊金曜日』しか記事にできないこと、言えないことをやってきたからでしょうか。

 今週の特集は世界のジャーナリスティックな独立系メディアを取材しました。「ジャーナリズム」という言葉は曖昧だし業界でも嫌いな人がいます。しかし私は批判的思考と勇気をもって報じ続ける姿勢がジャーナリズムだと思っています。誰でもメディアになれますし、ジャーナリストになれます。そんな時代になりましたし、もともとそんなものだったはずです。特集に登場した人物たちを見てもそれはわかります。『週刊金曜日』も創刊当初からそれを期待し、読者参加を掲げてきました。これからはますます個人は言うべきことは言い、行動することが求められていくでしょう。あらためて身を引き締めました。 (平井康嗣)