編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

相模鉄道と相鉄バスが5年ぶり、関東バスが10年ぶりにストライキを実施した

編集長後記

 神奈川県の相模鉄道と相鉄バスが5年ぶり、関東バスが10年ぶりに賃上げを求めて3月20日にストライキを実施した。スト自体は早朝2時間程度で解除されたが、SNSなどでは「迷惑だ」「勝手だ」という声が散見された。想定内の反応とはいえ残念だ。

 昔から基幹交通機関のストは、日常生活に影響を与えるため戦術としては効果的だった。私も学校が休みになるかならないか、ネットのない当時、国鉄や私鉄の運行状況を見るためにテレビに釘付けだった。周囲の学生もストで休校になることを期待していたやつらばかりだった。しかし今やストは希で、むしろ迷惑とかみつかれる。みんなの憲法よりわたしの経済優先だ。

 4月からは消費税が5%から8%に上がる。迷惑で勝手だが、世間ではこれはビジネスチャンス扱いだ。喜ぶのは還付金の恩恵のあるトヨタなど輸出型企業だというのに。消費増税は下方に硬直的だろうからストライキより生活に長く影響を与える。ゆで蛙のみなさん、ここにもっと怒ったらどうなの? (平井康嗣)

〈JAPANESE ONLY〉という横断幕が問題になり、レッズが無観客試合という懲罰を受けることになった

編集長後記

 浦和レッズサポーターによる〈JAPANESE ONLY〉という横断幕が問題になり、レッズが無観客試合という懲罰を受けることになった。帰化した元韓国人選手ではなく外国人観戦者に向けた表現という話もあるが、差別的排外的な意味には変わりはない。

 結果としてサポーターは試合を観戦できず、レッズ側は1億円と想定される興行収入を得られない。今回の表現行為は日本国刑法上、犯罪ではない。処分は業界の自治機能によるものだ。サポーターはチームと心情的に一体化しているから効果的なのだろう。

 さて刑罰の目的は「再び罪を犯さないようにする」教育刑と「罪への報復」である応報刑という整理ができる。今回の経済的な懲罰で、差別的な気持ちやヘイトスピーチをなくす教育的効果まで期待するのは難しいのだろう。3月14日付『東京新聞』では豊島区公会堂がヘイトスピーチを繰り返してきた在特会への会場使用許可を出している“問題”が報じられている。表現規制や懲罰だけで人の内心までは変え難い。 (平井康嗣)

「東北ショックドクトリン」

編集長後記

 今号特集の見出しは「東北ショックドクトリン」とした。「ショックドクトリン」とは、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン氏が自著で提唱した概念で「惨事便乗型資本主義」と呼ばれ、文字通り惨事に便乗して進められる市場原理主義的な構造改革のことだ。以前本誌で登場した樫村愛子愛知大学教授もすでに『ネオリベラリズムの精神分析』(2007年)において既得権システムの破壊とルールの奪い合いを指摘している。

 特集では東日本大震災に便乗した企業参入や「地元」「地域」の破壊と再生に焦点を当てた。伝統的中間団体である漁協をラインから外して、漁業の会社化を進める特区構想などが構造的に改革を迫る典型例ではあろう。しかし桃浦漁協の水産特区参加について取材してきた編集部の野中や内原に話を聞くと安易に評価はできないと感じた。

 小泉以後、政治家の主な役割は破壊と攻撃になっている。破壊してしまえば時の市場や空気がルールを奪っていく。ニセ改革やニセ復興に騙されてはいけない。 (平井康嗣)

東日本大震災から3年が経つ。

編集長後記

 東日本大震災から3年が経つ。復興庁が2月26日に発表した全国の避難者数は約26万7000人。

 避難者が多い上位3都道府県は、宮城8万9882人、福島8万5589人、岩手3万4847人。

 自県以外に避難している順は福島4万7995人、宮城7076人、岩手1486人である。福島県の避難者の半数以上が他都道府県に避難したままである。原発震災の惨状を端的に表している。

 先週号は水爆実験で被ばくに見舞われたビキニ環礁ロンゲラップ島について島田興生さんに写真ルポしていただいた。米政府は安全宣言を32年で撤回、1985年に全島避難、いまだ帰還に揺れている。一族の長の郷愁の思いはわかるが、30年経てばもはやUターンではない子孫も多い。

 東北の3年という時間も決して短くはない。子どもが避難した先に転校して3年も経てば、そのまま卒業させてあげたいものだ。帰還を進めても子どもの声が聞こえない町や村に未来は見えてこない。難問である。 (平井康嗣)