編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

ウォール街を占拠せよ」と最初に呼びかけたのはカレ・ラースン

「ウォール街を占拠せよ」と最初に呼びかけたのはカレ・ラースン。
彼が一九八九年に創業したのが、”ADBUSTERS”(アドバスターズ)という隔月刊雑誌。
一般メディアでは「カウンターカルチャー雑誌」などと紹介されているが、『産経新聞』は「反企業活動団体」と嫌みな形容をしていた。
さすが法人税増税反対、TPP賛成、原発推進の「親企業新聞」。

 さて同誌は反原発運動を始めたグリーンピースと同じくカナダが発祥。
この雑誌を最初に知ったのは今から一〇年ほど前。
フェアトレードショップのピープル・ツリー自由が丘店をぶらぶらしているときに、店内書棚で発見した。”広告的” 装丁もよいし問題意識も鋭かった。同誌は「何も買わない日」「テレビをつけない週」などのキャンペーンも展開してきた。

 西洋は新自由主義=企業中心主義の輸出国である一方で、企業批判も盛んだ。
人権問題にしても同じ構造。一方、日本はなにかと鈍い。

TPPなどではなく、こういう市民からのキャンペーンは世界にもっと広がるといい。

(平井康嗣)

野田政権は一一月のAPEC前にTPP参加を決めようとしている

 野田政権は一一月のAPEC前にTPP参加を決めようとしている。今年三月まで菅政権の最大の課題がTPPだった。『週刊金曜日』三月四日号の特集も「TPPは日本を壊す」である。

私も政府がアリバイづくりのために開国フォーラムを開催した二月二六日には、夕方には慎重派の山梨決起集会も取材し、リングに上がる前のウォーミングアップを入念にしていたことを思い出す。それが大震災と東電フクイチ事故で吹き飛び、本誌は原発と放射能汚染の報道に邁進してきたのである。本来はTPP参加交渉に参加するための意思表明の最終期限は六月だった。そのために開国フォーラムを開いたはずだ。

しかし今の政府の予定をみると、もはや国民的議論は無用らしい。市民参加政治はまた一歩後退か。さらに「TPPおばけ」だと推進派は、TPPは例外なき規制の撤廃ではなく、交渉も譲歩できると反論をし始めた。これではますますあぶない。米国に有利な規制緩和へと進むだろうから。やはり賛成する理由が見あたらない。

(平井康嗣)

福島県内では低線量被曝が続いている。

編集長後記

 福島県内では低線量被曝が続いている。被曝について、科学的には不明な点もあるが、線量が上がればがんにかかる確率はあがるのだから、このような場所にいることは避けたほうがよい。政府や東京電力は一〇〇%安全だと証明でき、除染が終わるまで避難をさせておくべきだ。

自主避難についてはNGOも支援を続けているが、原発に批判的な報道は減っている。いよいよ原発必要論などが大手を振り始めた。原子力産業はウラン採鉱から運転まで被曝と差別がなければ成り立たない。それを続けるのか。しかし、情報の川上にいるメディア関係者は机上の議論に戻ってしまっている。

なぜだろう。大きな問題として多くの論者が福島県の現地に入った体験がないからではないか。想像力のたくましい人は情報を追体験することで理解し共感できるだろう。しかし現地の空気を吸わず、現地の声を聞かない、知識だけにもとづく言葉はぶれる。放射線は見えるものではないが、報道関係者には福島の土を踏んでほしいとも思ったりする。 (平井康嗣)

野田首相に誉めるところが見つからなかったのか、よほど菅前首相が嫌いだったのか

 野田首相に誉めるところが見つからなかったのか、よほど菅前首相が嫌いだったのか、当初、メディアは彼を演説上手だとおだてた。

私にはただの駄洒落にしか思えなかったが。案の定、首相は駄洒落のネタがつきたのか、記者のぶら下がりからも逃げ回り、支持率も下がり始めている。

 以前、全国の自民党若手政治家向けの講演を担当していたベテランの党職員に演説の良し悪しを聞いたことがある。時代を遡るのはご容赦願いたいが、立て板に水の “上手な” 演説をしたのは、三木派だったそうだ。
代表格が鯨岡兵輔。しかし、街頭で人をひきつけたのは田中角栄や浜田幸一のような政治家だったという。話はあちこちに飛ぶし、声もよくない。しかしたたき上げの体験をまぜ、実に面白かったという。むしろ脈絡がないからこそ話が面白いと考え至ったそうだ。慧眼か。その話のせいか、代表選ではどの候補者の演説も優等生に見えた。政治家を支えるべき原体験が貧弱になったからなのか。

松下政経塾ではリアルな経験は積めないだろう。

(平井康嗣)