編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

劇団扉座

 元本誌書評委員で劇作家の横内謙介さん。主宰する劇団扉座が40周年記念公演を行なうというので今週号、話を聞かせてもらった。あちこち引っ張りだこの方なのでギリギリの日程で実現(冷汗!)。

 本誌では狂言の先代茂山千之丞さん(故人)や劇作家の平田オリザさんとの対談も。その収録に立ち会い、言葉を扱うプロとしての鋭い感性や観察力を目の当たりにした。

 横内作品には笑って泣いて人間の弱さを見つめた先に、骨太のテーマがある。そこに私は社会批評を読み取る。

 劇団からは人気俳優の六角精児、山中崇史、高橋一生各氏らが輩出している。だが、昨年はコロナ禍で本格的な公演は中止。劇団併設の俳優養成所の募集は停止し事務所も移転。ご苦労があったようだ。

 演劇・音楽公演などの産業は昨年、その前年の市場規模の8割が失われたと試算されている(国立国会図書館調査及び立法考査局『レファレンス』840号)。まさに「失われた1年」。それをどう乗り越えるのか、今回の公演に注目している。

戦時下の思考

 今年は日付けと曜日が、本誌創刊の年(1993年)と同じ。ささやかな喜びを感じつつ、カレンダーをめくる。『月刊金曜日』1号と同じ7月23日号は……そうか、東京五輪のために発売日だけ21日に早まる。

 同号で故筑紫哲也編集委員は当時、人々が物事を考えるときの枠組みに影響を与えていることのひとつに「冷戦は終った」をあげている。

 しかし、自分たちはまだ「冷戦時代に培養された思考」にとらわれており、それは戦時下の思考と変わらないとも。そしてそれを克服する必要があることを指摘している。

 それから28年経った今国会。閉会間際に、強権的で重大な人権侵害の恐れがある重要土地等調査・規制法案を、たいした議論もなく通過させようとしている。今号の複数の記事でも危険性を指摘している。

「戦時下の思考」とも通じるこの法律が、なぜ2021年の今、まかり通るのか、私にはわからない。ちなみに28年前のこの夏、第40回衆議院総選挙で安倍晋三議員が誕生している。

俵義文さんを悼む

「子どもと教科書全国ネット21」前事務局長の俵義文さんが闘病中のところ、6月7日に逝去された。

 同会は家永・教科書裁判の成果を引き継ぐために1998年、結成された。その中心的な存在であった俵さんは「新しい歴史教科書をつくる会」と闘う弊誌の常連執筆者だった。

 教育基本法改悪のときは、教育基本法に関する特別委員会の議論は〈まさに日本会議による「国会ジャック」〉と喝破。その実態がよく知られていない時代から、日本会議の動きを注視されていた。

 弊社と同会の事務所が近いこともあって、何度か事務所に俵さんを訪ねた。たくさんのビラに囲まれて忙しく作業をされていた。

 最後にお見かけしたのは、2015年の安保法制反対のデモのとき。炎天下、憲政記念館の近くを、教科書ネットの幟を掲げて汗をかきかき歩かれていた。お声をかけたところ、笑顔で応えてくれた。昨年、『戦後教科書運動史』(平凡社新書)を出された。

 享年80。哀悼の意を捧げます。

重要土地等調査・規制法案

 沖縄にお住まいの読者の方から、今国会が始まってまもないころ、“強権的で恐ろしい法案が出ているので取りあげてほしい”とお手紙を貰った。

 重要土地等調査・規制法案のことだった。この法案、知れば知るほど成立させてはいけない法律だと感じている。それが、衆議院内閣委員会でたった3日の審議で、強行採決されるとは。

 5月21日に質疑に立った、この法案に「思い入れが深い」杉田水脈議員(自民)の「意見」は凄かった。

 法適用の可能性が問われた辺野古新基地建設などの抗議行動をとりあげ、「フェンスに結ばれたリボンや……横断幕、そして派遣された(正:自主的に来た)人々に支給されている(正:人々が購入した)お弁当のごみなどが、風に飛ばされるなどして、基地の中に入ってしまうことも十分に考えられます」。

 一見してただちに重要施設の機能を阻害しているように見えなくても“問題だ”と言いたいようだ。今週号10~12頁の記事を多くの人に知ってほしい。