編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

人の温かさ

 ソウル中央地裁「慰安婦」判決文と「判決を読み解く」連載は、今週号で完結しました。途中2週ほどお休みがあったので、いつ再開するのか、と気を揉む読者の方からお問い合わせをいただきました。連載中には多くの方から「よくぞ載せてくれた」との感想や励ましをいただきました。

 全文を翻訳され、本誌への掲載をご快諾くださった山本晴太弁護士、「ナヌムの家」のただひとりの日本人スタッフで、ハルモニや関係者らとの連絡・交渉を一手に引き受けてくださった矢嶋宰さんはじめ皆様に改めて感謝を申し上げます。

「ナヌムの家」の運営を巡る不正問題が矢嶋さんらによって内部告発されたのは1年前の3月のことです。その矢嶋さんによる今週号「判決を読み解く」では、イ・オクソン・ハルモニの近況、依然として厳しい状況にある「ナヌムの家」の改革問題などにも言及されています。

 凛とした文章が問いかけてくるものは重いのですが、苦渋を分かちあい乗り越えようとする人の温かさを感じます。

定点観測

 田中敦子さんの胸元にキラリと光る流星のついたマイク。アンテナを伸ばして交信。『ウルトラマン』でスクリプターを務めた田中さんらしいお茶目なアクセサリーだ。

 田中さんは東日本大震災直後から、被災した東北の水産加工業者5社を定点観測し、自主製作で記録を残そうとしている。某公共放送局から映像を使用したいと声がかかったが、感動のドラマに仕立て上げられるのが嫌だからとお断りをしたそうだ。

 映像の中で5社は工場再開のために必要な金額、融資を受けた額も含めて答えにくい質問に答えていく。10年前、電気も止まりランプの灯りの下で丁寧に話をきいてくれた田中さんだからこそ、語る事実もあるだろう。

 詳しくは今週号を読んでいただきたい。

 今年で79歳を迎える田中さんは、今回の制作を映像に関わってきた者の使命という。資金不足はクラウドファンディングで補おうとしている。

 田中さんの胸元に光る“隊員”のマイクは、その見返り品の一つのようだ。

自問する

 2月26日号「金曜日から」で、編集部体制について「現在、デスクは全員女性になった」とあった。正しくはデスクではなく副編集長だ。

 内部の話で恐縮だが、記事担当者にアドバイスをしたり、原稿チェックをする役目を「デスク」と呼ぶ。副編集長もその任にあたるが、その分野で専門性をもった部員が担ってくれる場合もあり、男性も含まれる。

 ちなみに「金曜日から」のデスクは私。スルーしてしまって申し訳なかったです。

 いつも水際で誤植や事実関係の誤りをただしてくれるのが校閲チームだ。2月いっぱいで柳百合子さん、小阪文子さん、そして3月いっぱいで矢島京子さんがチームから離れる。

 コロナのために自宅作業がほとんどになり、お会いすることがなくなった。誤植だけでなく、あのおおらかな笑顔に何度助けられたことか。本当にお疲れ様でした。

 東日本大震災の時、雑誌の発行が危ぶまれたが、各々が自分のできることをして休刊することはなかった。あの時の緊張感をもちつづけているか、自問する。

誰のためなのか

 会社近くのさくら通りに街路樹として植えられているオカメザクラが今、満開だ。ソメイヨシノよりも開花が一足早い。濃いピンクをした小さな花が、澄んだ青空に映える。立ち止まって眺めると、季節が巡っているのを実感する。コロナ禍の巣ごもりで、季節感が薄れてしまったようだ。

 3月は卒業式のシーズンでもある。本来、卒業式は誰にとっても喜びの場であるはずだが、東京都教育委員会が2003年「10・23通達」を発してから、苦痛と葛藤をもたらすようになった。「日の丸」の掲揚、「君が代」の起立斉唱を強制するようになったからだ。

 私も保護者として式に出席したことがあるが、強い管制が敷かれた現場の雰囲気に耐えがたいものを感じた。

 昨年は当初、飛沫感染防止の観点から校歌斉唱は中止されたものの、「君が代」斉唱だけは強行された。今年は?現場に聞くと、声を出して歌うことはしないが、式次第には残るという。

 誰のために誰が行なう卒業式か、よくわかるではないか。