編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

大先輩のこと

 コロナ禍について、ずっと意見を聞いてみたいと思っていた人がいた。ジャーナリストの伊豆百合子さんだ。本誌では医療過誤や新薬の問題を取材・執筆されてきた。昨年暮れから入院されていたが、6月20日に亡くなったという知らせを先週いただき、正直、力が抜けてしまった。

 読売テレビにアナウンサーとして入社、途中から報道部に異動し、ディレクターとして活躍された。退社後は本も書かれた。731部隊にも詳しく、自身の情報源の一人、医学界の重鎮が隊員だったことを知り、衝撃をうけていた。自分自身そのことにどうけじめをつけるか、拘られていた。

 私が知り合ったのは二十数年前。電話で延々と話し続けてきたが、事情があってお会いしたことがない。「(あなたが)夢の中に出てきたのよ、でも後ろを向いてた」と楽しそうに話されたことも。女が働き続けるのが困難な時代に道を切り拓いた大先輩。ディレクターへの転身はたいへんだったはず。もっと話を聞きたかった。一度でいいからお会いしたかった。

バレバレ

 住んでいる区内の保育園でコロナウイルスのクラスター発生というニュースがあった。以前自分の子どもたちもお世話になっていた施設だから気になる。私の周りでもメールが行き交った。それにしても親密な空間が必要な保育園で、「3密」回避とは、何をどうしたらいいのだろう。

 リーダーズノート編集長の木村浩一郎さんが『PCR検査を巡る攻防』(リーダーズノート出版)という本を緊急発売された。「(PCR)検査拡大派」と「検査拡大に反対派」の主な認識、たとえば検査の精度の問題、医療崩壊の問題などで大きな食い違いはないのに、なぜ大論争になったのかを追っていて、興味深い。そこで行き当たるのは医療界の内部事情とメディアの問題だった。

 ステイホームの次はGo Toって、犬じゃあるまいし、というツイッターに苦笑。私たちは従順な犬になる必要はない(いや、お犬様に失礼!)。Go Toキャンペーンを前倒しする政府の下心、バレバレだものねえ。

他人ごとではない

 まずい。会社に向かう途中、乗っている自転車が突然の強風に煽られた。雨もポツポツ降り出してきた。鈍く光る雨雲を見上げる。

 九州を襲った豪雨は多数の方々の命を奪い、多大な被害を出した。自然災害の破壊力をニュース映像などで見せつけられた。亡くなられた方々にはお悔やみ申し上げ、被災された方々にはお見舞いを申し上げます。一日も早い復旧を願ってやみません。

 元通りの生活を取り戻すのがどれだけたいへんか、去年、関東を襲った台風で被災した千葉にお住まいの読者の方から、定期的にメールをもらい、教えていただいている。自治体の支援を受けるにしても申請の手続きだけで時間がかかる。一人暮らしのお年寄りの方はきっと歯がゆい思いをされているに違いない。

 しかも、いまはコロナ禍の異常事態。そうでなくとも消耗する避難所生活はたいへんだろう。もともと劣悪な日本の基準をこの機会に見直して予算をつけてほしい。都知事選挙が終わった東京も、他人ごとではない。

文化新聞『土曜日』

 84年前の7月4日、反ファシズムの文化新聞『土曜日』が創刊された。編集兼発行名義人は、大部屋俳優の斎藤雷太郎さんだった。昨年末、ヘウレーカから出版された口伝を今週号で取りあげている。

 斎藤さんについては、「憲法寄席」の主催者で本誌読者でもある高橋省二さんからあるお芝居の台本を見せて貰ったことから関心を抱いた。「冬の蕾 斎藤雷太郎と新聞『土曜日』を生きた人々」だ。グループ演劇工房の木内稔さんが演出し、2001年には上演されている。

 近現代史研究者の井上史さんは、作品をみてはいないが、木内さんが関係者に熱心に取材されたことはご存じだった。治安維持法下でいかに人々が志を抱きながら生きていたかが鮮やかに描写されている。画質は悪いがビデオがあるそうなので、いつか見せて貰おうと思っている。

 井上さんによると斎藤雷太郎さんに取材をしたドキュメンタリーもあるという。制作者の青柳正さんを探して調査されているので報告を待ちたいと思う。