編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

盛岡市で地域に根ざした平和運動を堪能した

影の背丈が伸びた。ある日そのことに気づき、時計の日付を目で追った。明確な季節の変わり目などあるはずもないのに、やはり今年も「秋」はふいにやってきた。温暖化のせいなのか、窒息しそうな社会がもたらすのか、いやに「夏」が長く感じられるが、それでも「秋」は忘れることなく、私のもとに訪れてくる。
 
 清澄な光と風はまた、元気も運んでくれる。

 半袖から長袖のシャツに取り替え、過日、盛岡市を訪れた。いわて生協主催の「いわてピースキャンパス オープンキャンパス」で講演をさせていただくためだ。壇上でびっくりした。このパワーはなんだろう。会場から、得も言われぬ力強い波が寄せてくる。
 
「これでは逆だなあ。話し手が波を伝えなくてはいけないのに」と思いつつ、憲法改悪やマスコミの堕落などについて90分ほど話した。2回の講演、約150人の聴衆はだれ一人舟を漕ぐこともなく、熱心に耳を傾けてくれた。
 
 30万人の盛岡市民で組合員が14万人と聞き、納得した。「平和」や「人権」を自分のこととして普段から考えている人々の力。それが組み合わさり、重なり合い、うねりになるのだろう。
 
 講演に先立ち、ピースキャンパスの活動報告が行なわれた。組合員のグループがそれぞれ「教本」をもとに学習会をしているという。メンバーはみんな、明るく、楽しげに成果を発表する。肩肘張らず、しかし「思い」は確実に伝わってくる。
 
 生協の直営店も見学した。近くに大型スーパーが次々と進出しているが、さしたる影響はないという。「運動に結びついているから」との説明に虚をつかれた。資本の論理が我が物顔に振る舞う昨今、いろいろな地域で、地道な運動が着実に成果をあげているのだ。中央の論理に染まり、負け戦に慣れきっていたのかもしれないと、我が身を恥じた。     

 安倍晋太郎首相も、その取り巻きも、ひとり一人の市民の暮らしなどそっちのけで、「愛国心」を唱える。教育基本法を変えれば市民の幸福度が上がるかのようなデマを、平気で流す。だが、地域に根ざした民主主義や平和主義は、そんなことでは揺るがない。
 
 わんこそばも冷麺も食べられなかったが、盛岡を堪能した一日だった。 (北村肇)