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所信表明演説で見えた安倍新首相の「姿勢」と「実力」

想像通りというより、想像を超えるお粗末ぶりだった。安倍晋三首相の所信表明演説。およそ理念も力強さも感動もなかった。「若さ」や「官僚に引きずられない官邸」を打ち出しているわりには、内奥からほとばしり出るような言葉はなかったし、いかにもお役所作成の文言が大半を占めていた。
 
 前段でまず、首相として目指す「美しい国」の姿を4点にまとめた。これがあまりに抽象的な内容で、ピンとこない。

「文化、伝統、自然、歴史を大切にする国」「自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国」「未来へ向かって成長するエネルギーを持ち続ける国」「世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国」
   
 憲法改正、教育基本法改正、集団的自衛権の容認――これらが、安倍氏としてはもっとも訴えたいことだったのではないか。それならば、とってつけたようなきれいごとの「美しい国」像など後回しにして、冒頭から激しく主張すべきだ。
 
 ところが、その後も、おそらくは各省庁から寄せ集めたのだろう、細かい政策の説明が続く。

「その地方独自のプロジェクトを自ら考え、前向きに取り組む自治体に対し、地方交付税の支援措置を新たに講ずる「頑張る地方応援プログラムを来年度からスタート」
「「おいしく安全な日本産品」の輸出を2013年度までに1兆円規模とする」……。

 結局、「安倍氏らしさ」は、20分を超える演説の最後のほうで少し出ただけであった。「闘う政治家」を自認するなら、自ら信じる歴史観や政策を堂々と表明したらどうか。むろん、私は安倍氏の考え方に与するものではないが、所信表明とはそういうものだろう。もし、もともとなかったり、野党と対決しそうな問題は控えめにするという姑息な手段だったとしたら論外だ。
 
 父晋太郎氏は永田町で「プリンスメロン」とあだ名されていた。当時の政治部記者の解説は「サラブレッドで人柄もいいが、政策などに甘いところがある」だった。晋三氏は背も高くスマートとの評判だ。だが、見てくれだけの「マスクメロン」で終わってしまうようでは、日本が危うくなる。(北村肇)