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「民主党敗北、自民党勝利」は本当か

<一筆不乱 参院選特別版>

 自民党の谷垣禎一総裁は満面の笑みを浮かべながら、何度も指で「一番」をつくってみせた。改選議席で「参議院第一党」になったのは事実だが、浮かれている余裕はあるのか。今回も比例では民主党に差をつけられた。たまたま敵失があったため「勝利」しただけで、「再度、政権についていい」と有権者のお墨付きを得られたわけではない。

 一方、民主党が惨敗した理由は、各メディアが報じるような「消費税」にあるとは思えない。もしそうなら、先に「10%」を打ち出している自民党が勝つことはありえないし、消費税そのものに断固、反対している共産党や社民党の票がもっと増えてしかるべきだ。敗北したのは「菅直人首相」にほかならない。

「小泉郵政選挙」以降、国政選挙で勝利するための肝は、いかに敵を作り出すかにあった。小泉純一郎氏は自民党“守旧派”を既得権者と断じ、「郵政反対派=守旧派(反改革派)=敵」となった。多くの有権者はこの敵にノーをつきつけ、小泉氏は圧勝した。鳩山由紀夫氏は、小泉氏がぶっ壊したはずなのに壊れていない自民党を敵にすることに成功し、政権交代を果たした。だが、その鳩山氏は小沢一郎氏とともに「旧来の既得権者」の椅子に座らされ、自らが敵と化した。そして「小沢支配」を敵とみなしてぶっ壊した菅直人新首相は、思惑通り民主党の支持率をV字に回復させたのだ。

 ところが支持は伸びなかった。それどころか、選挙中盤から民主党の勢いは目立って下がり始めた。この時点ですでに菅首相自体が「既得権者」と見られていたということだ。消費税をぶち上げる前に、演説の棒読みや官僚への配慮をにじませる発言に対し、多くの市民は「おやっ」と首をひねっていた。エイズ問題で脚光を浴びた厚生相時代の切れ味がまったく影を潜めていたからだ。

 そして、「消費税」後はころころと発言が変わる。初めての市民派総理として颯爽と登場した新首相がふらつきっぱなしとあっては、有権者の失望を招くのは当然だ。閉塞状況が続くと、人々は“強い言葉”にひかれ、“強い人間”に身をゆだねる。既得権者=敵を殲滅する英雄が求められる所以だ。

 菅氏は英雄になりそこねた。だが、英雄待望社会がファシズムの危機を内包するのは言うまでもない。党として敗北したわけではない民主党が立ち直るためには、社会民主主義的政策を鮮明に打ち出すことだ。既得権の見直しを図り社会の閉塞状況を打破するのは、ひとりの英雄ではなく政党の役割だと宣言すべき時である。(北村肇)