編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

NHK受信料義務化は、何の解決にもならない「楽」な選択。大きなツケが回るだろう

 だれでも「苦労」よりは「楽」のほうがいい。それでも「苦労」を厭わなかったりするのは、「楽」を重ねて大きな「苦労」を引き込むことがあるのを、体験上、知っているからだ。ただより高い物はない。肝心なことや本質から目をそらし、「楽」な道ばかり歩こうとすると、ろくなことはないのである。

 風邪をひけば消炎鎮痛剤を飲む。とりあえず症状は軽くなる。免疫力を低下させ、結果的には風邪に弱い体質を生むとわかっていても、つい「薬」=「楽」をとる。ある年代に達し、病気に打ち勝つ体力のないことを思い知らされたときにはもう遅い。「楽」のツケは「楽」を繰り返した分だけ重くなる。
 
 この国には今、「楽」の病が蔓延しているようだ。汗水流し働くのも、苦労して抜本的解決を図るのもカッコ悪い。「楽」してのカネ儲けや、表面的な対症療法が大手を振る。

 堀江貴文氏や村上世彰氏は、“容疑者”とされても、依然としてそれなりの人気がある。ある大学生が話していた。「サラリーマンやって、一日中、面白くもない仕事をして年間数百万円の給料ですよね。だったら頭を使い、あっという間に億単位のカネを手にするほうが、よほど凄いじゃないですか」

「労働の喜びはねえ……」などと講釈を垂れることはしない。拝金主義は、戦後60年、私たちや、少し上の世代が自分たちでつくってきたこと。子どもたちを前に「仕事はつまらない。上司はバカだ。会社に行きたくない」と愚痴ってきた大人が、いまさら「労働の」と言ったところで、天に唾するだけだ。

 一番に反省しなくてはならない世代が、実は「楽」してのカネ儲けに走っているのが実状では、「若い世代が」なんて言えた義理ではない。 

「対症療法」にいたっては、“大人”の世界の専売特許かもしれない。たとえば、子どもの犯罪が増えたといっては、少年法の厳罰化に乗り出す。社会全体の問題ととらえるのは、やっかいで面倒くさいからだろう。

 今週号で取り上げた、NHKの受信料義務化の動きもその典型だ。「なぜ信頼されないのか」という本質問題はそっちのけ。ここでも「罰則」だけが安易に強調される。そんなもの、薬どころか毒でしかないのに。(北村肇)