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福田政権誕生の過程に、世代間闘争を見る

 福田政権発足の過程を見ていて、ライブドア事件を思い出した。IT業界の風雲児、堀江貴文氏が果敢に既存メディアに挑戦、最後はフジテレビの前に屈した。というより、テレビ、新聞界の”長老”に手をひねられたといったほうが正確だろう。一種、世代間闘争であり、「青」に追いまくられた「老」の逆襲だった。

 当時、私は「この闘いは最後に『老』が勝つだろう」と予言した。「老」の肩を持ったわけではない。客観的に見て、「青」に勝ち目はなかったからだ。権力の座に長く居続けた「老」の執念や手練手管は、半端ではない。しかも、各界の「老」が連帯して「青」の排斥に走ったのだから、そのパワーたるや凄まじかった。

 堀江氏が小泉自民党から選挙に立ったのは、象徴的だった。「自民党をぶっ壊す」の自民党には「古い」がついており、小泉純一郎氏は、ことの善し悪しは別にして、「老」が牛耳ってきた国会運営にノーを突きつけ、そのことで有権者の評価を受けたのだ。

 小泉氏から事実上、首相の地位を禅譲された安倍晋三氏は、「青」を前面に打ち出した。党三役も「お友達内閣」の主要メンバーも、いわゆる政策新人類を重用した。50代は、政治の世界ではまだまだ「青」。小泉前首相も強調していたといわれる、「中二階組(60代)の目は、もはやない」を実体化したわけだ。

 これに対し、当初から、「『改革』が若い世代の専売特許などとんでもない」という「老」の憤りが伝わってきた。だが、小選挙区制になり、党三役の力はかつてなく高まっている。いかなるベテラン議員でも、安倍総裁の批判をすれば、政治生命は危機に陥る。そこで、矛先はいきおい、塩崎恭久官房長官に向いた。新聞に「塩崎氏の手腕に疑問」といった記事が頻発したのも「老」のジャブである。
 
 参院選惨敗後、安倍氏は首相に居座った。私には「『老』が故意に止めなかった」と映った。安倍氏の“自爆”を待つ戦略に見えたからだ。
 
 タイミングはやや早かったが、予定通り、安倍氏は退任。「老」はここぞとばかり、70代の福田康夫氏を担ぎ出した。対抗馬も、福田氏より若いとはいえ、60代の麻生太郎氏。それでも、総裁選投票日には、自民党本部の前に、ネット上の呼びかけに応じた「麻生応援団」の若者が集まった。年金問題がまさにそうだが、さまざまな分野で世代間闘争が顕在化しつつある。その解消もまた、社会的課題なのである。(北村肇)