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憲法違反の裁判員制度を『朝日新聞』も推進

「国の最高法規とは何か」の質問には、だれでも「憲法」と答えられる。「国民の義務が納税、教育、勤労」であるのは中学生ならわかる。でも、今後は二つとも正答ではなくなるかもしれない。後者についていえば、四大義務として「裁判員」が加わるからだ。そして、憲法違反である新義務が実現してしまうとすれば、一般法が上位に立つのだから、論理的に憲法は最高法規ではなくなる。

 今の司法制度が万全と考える人は少ないだろう。何らかの改善は必要不可欠である。市民参加が重要な要素であることも否定しない。だが、だからといって憲法違反の制度を導入していいわけがない。不思議で仕方ないのは、こんな当たり前のことを、なぜ、司法の世界にいる人たちが無視するのかという点だ。

 さらに危惧するのは、法務省、最高裁判所、日弁連だけではなく、大手メディアが推進派になっていること。たとえば『朝日新聞』は1月9日付けの朝刊で裁判員制度をめぐる世論調査結果を掲載したが、その解説に首をひねった。

「裁判員として刑事裁判に参加したいか」の問いでは、「できれば参加したくない」50%、「絶対参加したくない」26%の結果となった。4人に3人は「参加したくない」と考えているわけだ。また「実施後、この制度が定着するか」にも59%の人が「定着しない」と答えている。ところが、解説では以下のようなことが書かれている。

「参加意欲は低調で、5月の船出が厳しいものになることをうかがわせた。一方で、候補者として呼び出しを受けたら裁判所に行くかとの質問に、20~60代の66%が「行くと思う」と答えた点は注目される。市民参加の伝統がある米国などの実情と比べても高い数字であり、制度を運用していく前提は整いつつあるといえよう」

 一面の見出しも「裁判員候補者になったら 呼び出し『行く』57%」だった。牽強付会の最たるものだ。常識的な見出しは「4人に3人が『反対』」だろう。何としても制度のスムーズな導入を目指そうという意図が見え見えである。

 犯罪行為の裁き方について正解はない。だから、よりましな制度が模索されてきた。「無罪推定」「証拠主義」等の原則はその結果、生まれたのである。今、私たちが考えるべきことは、これらの原則が危うくなっている現実だ。人質司法や代用監獄を棚にあげての憲法違反制度は、本末転倒もはなはだしい。(北村肇)