編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

夜ノヤッターマン

 今年初め、「夜ノヤッターマン」というアニメが放映された。かつての正義の味方ヤッターマンが独裁王国を築き、ドロンボー一味がお仕置きをする善悪の立場が逆転した話だ。いやそもそもルパン三世や「ワンピース」のルフィもようは職業的犯罪者なのに人気者である。時代は正義のヒーローを描きながら、悪を高らかに掲げる「偽悪」者も庶民の憧れとして描き続けてきた。
 ナチス政治を念頭にハンナ・アーレントは『思索日記Ⅰ』で次のようにメモをしている。〈目的は主観的で手段は客観的である〉〈すべての道徳(目的)は幻想である〉〈「悪い」目的のための善い「手段」による行為は世界に善いものを加え、「善い」目的のための「悪い」手段による行為は世界に害を与える〉
 口では立派なことを言っていても、行為を見れば人物がわかる。政治家や官僚はきれい事を饒舌に語り庶民に苦労を強いている。同縁の知的エリートほどその「偽善」を手前勝手に解釈して忖度する。みずから惑わされ、騙されていくのである。