編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

谷川俊太郎さん

「なまくらのれん」で小室等さんが紹介してくれたとおり、滋賀県近江八幡市のボーダレス・アートミュージアムNO—MAは町屋や蔵が立ち並ぶ一角にあった。11月13日に亡くなった詩人、谷川俊太郎さん(享年92)の作品「詩人の墓」が中庭で出迎えてくれる。

 館内に入ると、今度は「死んでから」が目に飛び込んできた。詩には「前には聞こえなかった音が聞こえる」の一節があるが、谷川さんはいま何の音を聞いているのだろうか。2階では「死んだ男の残したものは」が鏡に書かれ、見るものの姿と詩が重なる仕組みになっていておもしろい。

 小室さんがこの歌をうたうのを何度も聞いたことがある。谷川さんとの関係は深く、小室さんにとっての魅力を存分に語ってもらう機会をつくらなければ、と思う。

 階段の壁には「かっぱかっぱらった」とリズムがたのしい「かっぱ」、傍らには古賀翔一さんの「立山蛙」などのフィギュア。妙にマッチした不思議な空間となっていた。企画展は12月15日(日)まで。(吉田亮子)

兵庫県知事選挙

 11月17日に行なわれた兵庫県知事選挙。パワハラ疑惑などで失職した齋藤元彦前知事が予想に反し、再選した。勝因はSNSを駆使した大量の情報拡散だったという。

 既存メディアは公平公正を保つために特定の候補に偏った報道はできないとされるがSNSにはそれが及ばず、公職選挙法で想定されていない事態が起きたということだろう。事実であってもなくてもネットにあがった情報は一人歩きし、拡散されていく。

 驚いたことに齋藤前知事に投票した有権者の多くが、そういったSNSの情報を信頼して見ていたようだ。今後も起こり得る同様の事態に、法律や既存のメディアはどう対応していくべきなのか。本誌でも考えていきたいと思う。

 今号の長生炭鉱特集は8月2日号に続き、「遺骨」という視点で崔善愛さんに責任編集していただいた。TBSでは石炭産業で躍進した当時の長崎県・端島(軍艦島)が舞台のドラマ「海に眠るダイヤモンド」が放送中。炭鉱シーンは実際の鉱山で撮影されたとか。(吉田亮子)

竹ちゃん

「毎日おしゃべりして、ときどき勉強。困ったことは、竹ちゃん(センター長の竹川真理子さん)に相談する」

 そんな「居場所」だよと、NPO法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾(横浜市南区)を紹介した中学生。11月9日、信愛塾45周年記念集会が同市内であった。

「ある日の信愛塾」を紹介する動画では、けんかする子どもに「本を投げない!」と大人が日本語で注意するが通じていない。中国語や韓国語、タガログ語、英語、日本語が飛び交い、保護者も訪れる。

外国に連なる子どもたちは増え続け、学校や行政からも「なくてはならない存在」と相談が絶えない一方で、財政はきびしい。そこで10月、クラウドファンディングを開始した。それでも竹ちゃんは「お金ではなく、(大切なのは)人」と、まわりのスタッフや成長した子どもたちに日々助けられていると話す。

 今号から編集長を担うことになった。本誌も財政はきびしいが、「人」を大切にした誌面作りをしていきたい。(吉田亮子)

編集長交代

「原作者の弘兼(憲史)氏と講談社は『当事者の確認が取れていない伝聞でした』として、謝罪しましたが、内容は謝罪とは言い難い。心から謝罪する気があるなら、雑誌を回収し、辺野古テントに来て、みんなの前で謝罪すべきです」。沖縄・名護市に住み、日米の軍事基地がなくなることを求めて反戦活動を続ける中山吉人さん(67歳)からこんなコメントが届いた。漫画「社外取締役 島耕作」で、普天間基地の辺野古移設に抗議する人たちについて、キャラクターが「日当で雇われた」と語るシーンが登場した件だ。平和を祈って座り込みを続ける人々への侮辱は断じて許せない。通り一遍の謝罪で終わらせてはならない。

 11月1日で3年間の編集長任期が終わりました。編集長として携わるのはこの号が最後です。楽しいことも、落ち込むことも、泣きたいこともたくさんあった3年間でしたが、終わってみればあっという間。次号からは吉田亮子編集長にバトンタッチします。引き続きご愛読をよろしくお願いします。(文聖姫)