編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

ご都合主義

 高市早苗政権下で政府のご都合主義が蔓延し始めていることが危惧されています。

 今年初めの衆院のご都合解散につづき、「時は来た」と改憲を高市首相が宣言した4月の自民党大会では現役の制服姿の陸上自衛官が「君が代」を歌ったところで、自衛隊法が禁止する政治的行為には当たらないとしてお咎めなし。同法には刑事罰もあります。

 その一方で、米軍専用施設の7割が集中する沖縄県で進む辺野古新基地建設現場沖で、抗議船から見学した同志社国際高校の学習は、教育基本法が禁止する政治活動に当たると認定しました。同法は同時に「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」

とも規定しています。

 これでは、首相の意向に沿わない行為は政治的だというご都合解釈です。総務相だった高市氏が、放送の自由を保障した放送法の政治的公平規定を根拠に停波発言した延長とも言えそうです。(臺宏士)

憲法改正

 日本国憲法の改正を巡り、新聞各社が憲法記念日(5月3日)の朝刊で報じた世論調査では、『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』の三紙とも、改正賛成が反対を上回りました。『朝日』では賛成47パーセント、反対43パーセント。興味深いのは『読売』で、前回から賛成は3ポイント減の57パーセントで反対は4ポイント増の40パーセント。世論の流れは必ずしも改正へと一直線ではないようです。

 本号の「憲法の現場から」は、憲法が保障する法の下の平等や、健康で文化的な生活からこぼれ落ちる事例の実態報告です。憲法が保障対象とするのは日本国民に限らず、この国に集うすべての人々に及ぶという視点は重要です。

 NHKの世論調査では憲法理念を「よく知っている」「ある程度知っている」との回答はたった4割でした。これでは、私たちの将来に大きな影響を与える国民投票ができるような状況だとはとても言えません。(臺宏士)

「死の商人国家」

 専守防衛の放棄に等しい長射程ミサイルの配備開始や米ロが戦争を仕掛けるなかで迎えた憲法記念日(5月3日)。多くの人々が平和の危機を共有したと感じます。東京の憲法大集会に設けた『週刊金曜日』ブースには昨年よりも多くお立ち寄りいただきましたが、その表れの一つだとすれば複雑な心持ちです。

「武器取引反対ネットワーク」の杉原浩司代表は殺傷可能な武器輸出解禁を巡る寄稿で成長産業として国が後押しすることで「死の商人国家」から後戻りできなくなると警告しています(15ページ)。

「死の商人」といえば子どもの頃に馴染んだ「サイボーグ009」に登場する「黒い幽霊団」が浮かび、「悪」を連想する人も少なくない世代です。一方、今は10代にも広がる総投資家時代。株式市場では「防衛銘柄」と呼び、どの企業が「買い」かが注目されているようですが、投資資金の使われ先にも関心を向けてほしいです。(臺宏士)

一人ひとりの尊厳を保障するために

「人質司法」の非人道性を浮き彫りにした大川原化工機事件を機に裁判官が下した判断の結果責任に厳しい目が注がれるようになっています。そのなかで、水俣病の認定をめぐって福岡高裁の高瀬順久裁判長が4月23日に他の疾患の可能性を理由として訴えを退けたのは残念でした。

 水俣病の行政責任を追及した番組で知られる元NHK記者の大治浩之輔さん(90歳)は、本号の特集「憲法の現場から」で「公害問題では被害者側に立った」(28ページ)と証言。その言を借りれば、同高裁は他の疾患である証明ができていないとして患者認定するのが、幸福追求権や生存権を掲げた私たちの日本国憲法の精神だと思います。

 日本という国に集う一人ひとりの尊厳を保障するために憲法がある。『週刊金曜日』は、多数派にかき消されそうな人々の声に耳を傾けるためにある、との思いで本号から編集長を務めます。(臺宏士)