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「対等な日米関係を目指す」と言う鳩山さん、どうかぶれないように

 困ったもんだ。子会社の「日本」でクーデターが起き、経営陣が総代わりになった。これまで、われわれ親会社「米国」の利益を最優先しろと命じ、うまくいってきたのだが、少しやりすぎたようだ。それにしても、ここまで社員の不満がこうじているとはしらなかった。人望のない社長が続いたことが原因かもしれないな。

 次期社長は心配だ。親会社から自立するとか、ライバル企業集団の「アジア」と関係を深めるとか、従来の経営陣とは発想が違うようにみえる。もっとも、役員の中にはわれわれの息のかかった連中もいることだし、新社長だって最後は親会社に反旗を翻すことなどできっこない。まあ、とりあえずお手並み拝見か――。

 米国の本音はこんなことではないかと想像してみた。09年の年次改革要求書をみただけでも、本質は外れていないと確信する。相も変わらず自分たちに利益となる要求を日本に突きつけている。4年前の総選挙で争点になった郵政民営化も、実は米国の要求だったことはすでに明らか。親会社・米国と子会社・日本の関係は延々と続いているのだ。

 そこに起きた政権交代。鳩山由紀夫首相の論文「日本の新たな道」がにわかに注目を集めた。月刊誌に発表されたものの要約がヘラルド・トリビューンの電子版などに載り、米国を刺激した。骨子は(1)自由市場経済が経済危機をもたらした(2)東アジア共同体の創設を目指す(3)ドル基軸通貨体制の見直し、アジア共通通貨の実現――など。一国覇権の座にしがみつきたい米国にしてみれば、「子会社の社長が何を偉そうに」となるのだろう。

 だが、いずれも極めて真っ当な主張だ。以下のような論文の一節を読むと、鳩山氏は歴代の自民党総裁より的確に現状分析をしていると評価したくなる。

「マルクス主義とグローバリズムという、良くも悪くも、超国家的な政治経済理念が頓挫したいま、再びナショナリズムが諸国家の政策決定を大きく左右する時代となった。数年前の中国の反日暴動に象徴されるように、インターネットの普及は、ナショナリズムとポピュリズムの結合を加速し、時として制御不能の政治的混乱を引き起こしかねない。……われわれは、新たな国際協力の枠組みの構築をめざすなかで、各国の過剰なナショナリズムを克服し、経済協力と安全保障のルールを創り上げていく道を進むべきであろう」。

 そもそも「国家同士が言いたいことを言い合う」のは当たり前で、それこそ米国が常に強調する民主主義というものだ。あとは、鳩山氏がぶれなければいいのだが。(北村肇)

野党・自民党との戦いを、民主党は可視化しなくてはならない

 街路樹が唄っている。踊っている。秋だ。風が違う。熱が去る、この感覚。ほっとする。今年は特に、騒がしい夏だった。耳に残って消えない、候補者と名付けられた人の叫び声。「最後の首相」を迎え、駅頭で日の丸を振る支持者という名の群衆。雪崩をうち政権交代に突き進んだ、巨大で、しかし形のない有権者の塊。

 狂騒の祭りは終わった。そして始まる、低体温の暗闘。1994年、細川護 (ほそかわもりひろ)首相は退陣、自社さ政権が誕生した。毒でも平然と口にする自民党。その凄みに背筋がぶるった。密室の戦いでカギを握った一人が、だれあろう小沢一郎氏。今度は、光輝く小沢氏をだれが暗闇から撃つのか。わからない。だがどこかにいる。

 あなどってはいけない。60年以上にわたり政権の座にあった自民党。確かに公明党頼みが弱体化を進め、足腰は弱り切っている。それは事実。しかし、目には見えない「歴史」という底力は堅固だ。これまで培ったあらゆる知恵を駆使するだろう。

 約600万票。小選挙区で民主党が自民党を上回った票だ。比例代表では約1000万票で、この程度の「差」は、針が床に落ちた振動でひっくり返る。自民党議員は、初めての下野という体験に、当初はとまどう。だが、すぐに態勢を立て直すべく全力を挙げるだろう。そのときの武器は「情報」だ。官僚、財界という巨大で強大な組織とタッグを組んできた。さらに、新聞・テレビのマスコミも取り込んできた。そこで得た「情報」の中には、民主党のアキレス腱も含まれているはずだ。

 ただ、一方で、安定多数の議席をとった民主党にすりよる、官僚、企業、メディアが出現する。自民党に打撃となる「情報」を民主党が入手するのも困難ではない。そうした状況下、永田町ではどんな動きが出るのか。

 まずは、水面下の暗闘だろう。互いに、相手がどの程度の「情報」を持っているか、探り合いが始まる。場合によっては、両者で手打ちといった事態もありうる。国会では激しくやり合いながら、実は「料亭政治」で決着――55年体制ではたびたびみられたことだ。

 民主党に望む。暗闘に乗らず、市民の眼前で堂々と戦ってほしい。警察や検察の取り調べは可視化すべきだと、同党は一貫して主張してきた。ならば、たとえ自分たちに不利なことがあっても、与野党のやりとりはすべて可視化する、それこそ政治改革の第一歩だろう。(北村肇)

民主党議員に官僚を打ち負かす情熱をみせてほしい

 政治は理想を追求しなくてはならないと強調してきた。浅はかで煽動的な「現実主義」に惑わされると、崇高な理想を汚泥まみれの現実に引き下ろしてしまう、「憲法は時代遅れ」という言説がその典型だとも。だが一方、理想と現実のはざまで、全身に蕁麻疹が出たような感覚にさいなまれた経験が誰にでもあるはずだ。

 革命的な圧勝で政権を握った民主党は、時を置かず、その逃げるに逃げられない掻痒感に襲われるだろう。まずは「官僚依存からの脱却」という理想の困難性である。100人の政治家を霞ヶ関に送り込み「政治を政治家、そして国民の手に取り戻す」という。正しい選択だ。ぜひ実現して欲しい。だが、本当にできるのか。

 新人議員が多い民主党で、それだけ力量を持つ議員がいるのかという疑問がある。また逆に、幹事長に就任した小沢一郎氏と財務省の関係は決して悪くないように、官僚と太いパイプを持つ有力議員も少なくなく、果たしてどこまで戦えるのかという懐疑的な見方もある。ただ、私は別の視点からの危惧を抱く。

 官僚と丁々発止のやりとりをするには猛勉強が欠かせない。当然、次の選挙に備える余裕などない。これに対し、浪人中の自民党元議員は必死に選挙区を回る。この現実に民主党議員は耐えられるのかということだ。

 与野党に関係なく、かなりの国会議員の取材をしてきた中で、こういう発言をたびたび聞かされた。「当選したらすぐに次の選挙の準備に入る。でなければ、落選議員の巻き返しにあってしまう。金帰火来では足りないくらいだ」。

 前回選挙で議席を得た小泉チルドレンは、ほとんどが討ち死にした。台風並みの嵐に乗じて当選した民主党議員にとっては、人ごとではないだろう。まして、今度は任期途中での選挙は避けられそうにない。寸暇を惜しんで有権者の手を握り、顔と名前を売りたいと考える議員に、しゃにむに政策を勉強する余裕が果たしてあるのだろうか。

 むろん、この試練に耐えてもらわなければならない。多くの有権者は理想実現に一票を賭けたのだ。その一つに、官僚、族議員、業界のトライアングル政治への拒否があった。官僚に勝てない政治家などいらない。マックス・ウェーバーは、政治家に必要なのは「情熱、責任感、判断力」といった。不可能を可能に変える情熱を見せて欲しい。それは一万人との握手に匹敵するだろう。(北村肇)

有権者の破壊衝動によって生まれた民主党政権

 破壊衝動――今回の総選挙は、多くの有権者がそれに突き動かされて投票行動に走ったのではないかと危惧する。

 革命に匹敵するような民主党の圧勝は、皮肉な事実を浮き彫りにした。それは、4年前も今年も、大勝したのは「政党」ではないということだ。前回は、「改革を阻む古い勢力をこわす」という小泉純一郎氏のあおりに有権者が乗せられた。いや、この表現は正しくない。そもそも市民の心に潜んでいた「閉塞状況を打破したい」との思いが、小泉氏の「一言政治」と波長があったのだ。郵政民営化などどうでもよかった。つまり既存の政権をぶっこわしたいという市民の欲求の発露こそが「自民圧勝」をもたらしたのであり、自民党そのものを選択したわけではない。その意味で二つの総選挙は構図が同じなのである。

  公示日に東京新聞が報じた世論調査によれば、「民主党に政権能力があると思うか」という問いに「あると思う」と答えたのは41・2%で、「あるとは思わない」の43・8%を下回った。比例で民主党に投票した約3000万人の多くは、「ダメもと」で一票を同党に託したのであろう。となれば、「革命的に社会の雰囲気を変える」ことができない限り、民主党の先行きには、たちどころに暗雲がたちこめる。
 
 有権者は時間的な余裕を与えてはくれない。短期間で組閣し、霞が関官僚を手の内に入れ、矢継ぎ早に新しい政策を推し進める。それができなければ、来年の参議院選挙では、まったく逆のことが起こりかねないのだ。308という議席がいかにもろいかは、119に落ち込んだ自民党が身をもって証明している。この4年間、市民は新自由主義の暴虐にさらされ、小泉元首相の「改革」に騙されていたことを実感した。いかに「ダメもと」とはいえ、有権者がまずもって社会福祉の充実を民主党に求めているのは間違いない。この要求に具体的に応え実績をあげてこそ、初めて政権党と言える。それまでは、与党の立場など砂上の楼閣でしかないのだ。

 創造のためには破壊が必要である。しかし展望のない破壊は、虚無感とともに、一層、茫漠とした不安感を引き起こす。よってたかって自民党を池に落とした有権者は、まだ興奮冷めやらない面持ちを残したままだ。もし民主党が期待を裏切ったら、今度はどこに矛先を向けるのか、予測もつかない。
 
 情緒的な破壊衝動を、どう創造に結びつけるのか。民主党の課題はあまりに重く、浮かれている余裕はまったくない。(北村肇)