編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

奨学金問題

 今週号の特集は奨学金だ。私もかつての日本育英資金と東京都育英資金から奨学金を借りた。何年か前に返済を終えてほっとしたことを覚えている。だが、いまの学生のたいへんさをみていると、当時の自分の比ではないように感じてしまうのはなぜだろう。

 子ども世代ということもあるかもしれない。それに学費が払えず休学してカネを稼いで復学する予定の学生の話をふつうに聞く。この春休みも、最低賃金が低く仕事の選択肢が少ない地方から、東京に“出稼ぎ”+就活パックが斡旋されているとも。

 ブラックバイトと奨学金の問題がセットになっていることも、かつてはなかったこと。もっとも、人気の研究室ではバイト禁止を暗黙の条件として課すと聞く。

 安倍晋三首相が「高等教育の無償化」という言葉を看板事業として掲げるのを聞くと、いらっとしてしまう。一部の人たちを対象にするのと、いずれの若者にも高等教育まで受ける権利を保障するのとでは、理念も経費もまったく違うからだ。

すべては五輪のため!?

 怒りを通り越して怖くなる。今週号の野池元基氏が明らかにした福島県伊達市の「心の除染」事業だ。

 伊達市は、東電福島第一原発事故後、個人の被曝線量を測定するために全市民にガラスバッジを配布し、計測されたデータを、本人の同意を得ずに早野龍五氏らの研究チームに提供していたこと、さらに早野氏らが書いた論文が被曝線量を低く算出していたことが問題になっている。

 その伊達市が2014年、「低線量地域詳細モニタリング事業」を広告代理店の電通に委託していたのだ。「物理的に土を取る除染作業は一巡したので、どんな不安があるのか市民アンケートをとり、不安解消のために戸別訪問をするなどして対応した」もの。実際の対応はパソナの派遣社員がマニュアルに沿って行なっていたという。詳しくは野池氏の記事を読んでほしい。

 結果として被曝線量を過小評価し、住民の不安を根拠なきものとする。そして事故を解決済みと印象づける。すべては東京五輪のために。穿った見方だろうか。

記録を残す意義

 今週号の「父が目撃した秋風事件」は、昨秋の読者交流会で知り合った永井元さんの仲介によるものだ。永井さんは、歴史、医療、文化などの方面で造詣が深く、個人的にも貴重な歴史資料をお持ちだ。そのことをホームページに書かれたところ、連絡をされたのが岡山正規さんだった。

 岡山さんの父親、故政男さんは復員後、戦争を憎み、平和を何よりも大切に考えられていたという。犠牲となった宣教師の故郷で毎年3月、追悼礼拝が行なわれていたことを政男さんがもし知ったなら、どう思われただろう。

「神言修道会」の報告によると、当時、豪州は日本軍が迫っていることを知り、宣教師らに豪州への退去を促したが、彼らは危険を承知で信者のために残る道を選んだという。

 岡山さんは父親の軍隊の記録がないと話しておられる。実はこの8日に亡くなった私の父も徴兵をされたが、入隊を示す正式な記録を私はみたことがない。こうやって記録を残すことの意義を、個人的な感傷とともにしみじみと感ずる。

杜の住民

 昨年、その人の姿を何百人もいるホールの中で見かけた。専門分野では世界的な権威。市民に呼ばれればシンポにも出て行くし、多忙な時間を縫って本誌の取材にもこたえてくれた。良心的な学者だ。

 走り寄って取材のお礼もそこそこに切り出した。〈そういえば、東電刑事裁判で証人として出廷されたのですね〉

 その人は驚いたように私の顔を見た。そして証言した内容から裏切られたという厳しい反応があったことを率直に話してくれた。〈でも〉、と言う。〈当時はわかっていなかったことがあるんですよ〉

 裁判では予測可能性や対策の有無が争点になる。だが、その前提として、〈歴史や時代の当事者〉としての責任を私たちがどこまで自覚できているかが問われるべきだ。

 東電福島第一原発事故で生活が一変しながらも、三春町に暮らし、福島原発告訴団長などを務める武藤類子さんのロングインタビューを今週号で掲載している。その武藤さんの〈森の住人〉としてのことばを読み、そんなことを感じた。

受け止めるべきは

「きょうの『読売』、見ましたか?」

 部員のUさんが出社するなり話しかけてきた。沖縄・辺野古基地新設の賛否を問う県民投票の結果を伝える2月25日の朝刊のことだ。

 会社に来ている新聞の束をみる。『読売』は「安心の設計 みんなで未来へ」シリーズの初回が一面トップで、県民投票は3段見出しの扱いだ。ちなみに『産経』は4段見出し。この結果をうけて問われるのは本土であるはずなのに、日本を代表する全国紙がこれか。

 県民投票の結果を見る。昨年の市長選挙で基地新設反対派が負けた名護市は投票率が50・4%。反対票は昨年の選挙で反対を訴えた稲嶺進前市長が獲得した票を上回っている。詳細は今週号、初沢亜利さんの写真ルポと阿部岳さんの政治時評を読んでほしい。

 2019年の予算に、県を介さずに直接自治体に交付する「沖縄振興特定事業推進費」が新設された。今回の結果を政府がどうみるかは不明だが、政府の恣意的運用を心配してしまう。受け止めるべきは反対の民意だ。