編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

新しい読者会

 6月24日、新しく発足した埼玉県北部読者会に参加しました。責任者の栗原邦俊さんはじめ参加者は5人。本誌への批評や要求だけでなく、参議院選挙や教育問題、憲法改正や安全保障、はたまた経済の問題など話題は多岐にわたりました。議論が白熱したため、予定の2時間を少々オーバー。編集長にとっては耳の痛い話もありましたが、それはひとえに本誌がよくなってほしいという「金曜日愛」からくるもので、むしろそういった話を直に聞けて、とても有意義な時間でした。

 いまさら言うまでもないことですが、広告に頼らない本誌を支えてくださっているのは、定期購読者をはじめとする読者のみなさんです。読者会に参加すると、できるだけ多くの読者の声に耳を傾け、それを誌面に活かすことが重要だと、改めて感じます。これからも時間が許す限り、多くの読者会に参加したいと思いました。

 埼玉県北部読者会からは、とてもいい企画案も提供していただきました。参加した収穫の一つです。(文聖姫)

桐野夏生さん

『日没』を読んで以来、桐野夏生さんの本にはまっている。最近読んだのが『路上のX』(朝日文庫)。一家離散や義父の虐待など家庭の事情から東京・渋谷の街をさまよう二人の少女が運命的に出会い、そこからさまざまなストーリーが展開される。小説では、ネグレクト、DV、レイプ、JKリフレなど、少女たちを取り巻く問題が描かれている。自らも中高時代、渋谷の街をさまよっていた経験を持つ仁藤夢乃さん(Colabo代表)は解説で、「私たちの言葉にならない想いや経験を言葉にしてくれた桐野さんに、心から感謝したい」と書いた。仁藤さんから話を聞いた桐野さんは、「現実は小説より残酷ね」と言ったそうだ。

 東電OL殺人事件を扱った『グロテスク』、連合赤軍事件をテーマにした『夜の谷を行く』など、桐野さんの作品には社会問題を鋭くえぐるものが多い。しかも、こうした作品の主人公は女性たちだ。

 今週号では、桐野さんのインタビューを掲載した。いまの言論状況について語ってくれている。(文聖姫)

在日コリアンの参政権について思う

 正直、今回の特集企画は乗り気ではなかった。在日コリアンの編集長が誌面ジャックして自説を大々的に展開しようとしているのではないか――そんな声が聞こえてきそうだからだ。しかも、私自身は今の日本で在日が参政権を得ることがベストかどうか、悩み続けてきたし、今も悩み続けている。決して「参政権絶対必要」派ではない。企画提案者である本田雅和の熱意に根負けした、というのが偽らざるところだ。とはいえ、参議院選挙を前に、投票したくても選挙権がない定住外国人のことを知ってほしいという気持ちもどこかにある。

 在日コリアン社会も大きく変わった。私の父をはじめ1世の多くは亡くなり、おそらく1割を切っているだろう。一方で、すでに6世まで誕生しているという。大部分の在日にとって日本が定住の地だ。だから、日本で税金を払い、日本の法律を守って暮らしている。自分の暮らしを良くしてくれると思う政治家に1票を投じる権利がほしいと思うのは、ごく自然な考えではないだろうか。(文聖姫)

4・3

 2019年夏、両親の故郷、済州島を生まれて初めて訪れ、父のいとこたちに会った。私にとっては従伯父、従伯母にあたる。ある従伯父の家を訪ねた時のこと。家族の近況などを話していたら突然済州4・3事件について語り始めた。幼かった従伯父を守って母親が撃ち殺されたこと、丘の上にたくさんの死体が積まれていたこと。とっさのことで録音機も用意していなかったから、話を記録できなかったのが残念だ。「来年の夏に再訪してじっくり話を聞こう」と思ったのだが、コロナでかなわない状況が続く。

 いつか父の家族のことを本にしたいと思っている。それには従伯父の話は欠かせない。「4・3」を体験した親戚がどんどん鬼籍に入り、彼も高齢だ。気持ちは焦る。

 そんなことを考えたのも、ヤン ヨンヒ監督の『スープとイデオロギー』を観たからだ。「4・3」を体験した母を記録したドキュメンタリー。今号ではヤン監督と俳優のキム ヘリョンさんについて中村富美子さんがルポした。(文聖姫)

FPへの道

 5月22日の日曜日、ファイナンシャルプランナー(FP)2級試験を受けてきた。受検会場は偶然にも出身大学である東京・渋谷の青山学院大学だった。学生時代にときどき礼拝に行った「蔦のからまるチャペル」は、「ガウチャー・メモリアル・ホール」という高層建物に変わっていて、ちょっと残念ではあったが、久しぶりに学生時代にタイムスリップした感じだった。

 ところで、私がFPの勉強を始めたきっかけは、年金や保険、金融、税金などの知識をきちんと身につけ、それを誌面にも生かしたいと考えたからだ。生きていく上でとても大事なことだから、しっかり理解し、今後に役立てていきたい。今号の特集は年金。近々年金をもらう世代や今後もらう若い世代の方々にもためになる情報が中心だ。

 さて、私の試験結果は6月29日に発表される。編集長業務に追われて、なかなか勉強する暇がなかったから(言い訳にすぎないが)、今度は落ちたかな。でも9月に再チャレンジして、絶対合格するぞ~!(文聖姫)

『パラサイト』の階段

 韓国映画『パラサイト 半地下の家族』に印象的なシーンがある。大雨の中、雇われ先の金持ちが住む高級住宅から主人公たちは半地下の自宅に戻る。その途中、長い階段を下る。階段は富裕層と貧困層を分け隔てる象徴のようだと私は感じた。階段の上と下とでは別世界だ。『パラサイト』で描かれた半地下のような住宅は実際に韓国にある。ソウルのマンション価格は値上がりを続けるが、一方で人一人がやっと寝られるほどのスペースで暮らす人がいる。マンション購入など不可能だとすでに諦めた若者もいる。

 韓国で新政権が誕生したのを機に、今号では韓国経済を特集した。元気なように見えて、実は問題も抱える。そこらへんのところを、アジア経済研究所で一貫して韓国経済を研究する安倍誠さんに語ってもらった。加えて、実体経済はどうかということを、つい最近までソウル支局長だった『朝日新聞』の神谷毅氏に寄稿してもらった。貧富の格差は韓国だけの問題ではない。今回の特集から日本は何を汲み取るべきか。(文聖姫)

読者会

 連休の最後の3日間を利用して、札幌と小樽の読者に会ってきました。札幌の読者会は休会中ですが、数人のメンバーの方々に話をうかがいました。小樽では昨年できたばかりの読者会に出ました。十数人のメンバーが、憲法、原発、風力発電など、さまざまな話題で盛り上がりました。

 感じたのは、やはり直接読者から話を聞くことの大切さです。毎週1回編集会議を開いて特集などを議論し、毎号お届けしていますが、読者のニーズに応えられたのかどうかが、いつも気になります。本誌への感想を電話やメール、手紙などで寄せてくださる方もいらっしゃいますが、それほど多くはありません。そこで私が参考にしているのが「読者会から」のコーナー。褒めてもらうとうれしいし、批判されるとへこみますが、それでも「ああ、こんな風に読まれているのか」と、新たな発見があります。できるだけ多くの読者会に顔を出したいと思っています。ヒョッコリ顔を出すかもしれませんので、その時はどうぞよろしくお願いします。(文聖姫)

デジャブ

 連休で久しぶりに時間ができたので、ロシア映画『親愛なる同志たちへ』を観た。84歳のアンドレイ・コンチャロフスキー監督が、ソ連時代最大の労働者蜂起「ノボチェルカッスク事件」を描いた2020年の作品だ。

 スターリン亡き後のフルシチョフ政権下、1950年代後半から60年代前半にかけて導入された経済・貨幣改革によって、ソ連全土では物価高や食料不足が起きていた。62年6月、ソ連(現在のロシア)南西部の町ノボチェルカッスクの国営機関車工場で、賃金カットに怒った労働者たちによるストライキが起きる。5000人以上に膨れ上がった群衆は現地の共産党幹部が集結する工場管理棟を占拠。だが、現場に戦車とともにやってきたソ連軍は群衆を武力で鎮圧した。事件下で娘が行方不明となった熱烈な共産党員の女性が映画の主人公。はたして彼女が取った行動は?

 配給品を優先的に受け取れる党の幹部や共産党に忠誠を尽くすと討論する労働者代表など、デジャブな場面が個人的には印象に残る。(文聖姫)

憲法とウクライナと維新

 自宅前の小学校にある藤棚・藤の花が満開を迎えている。藤といえば、普通は紫だが、ここのはピンクと白で珍しい。なんとも美しいのだが、私などは紅白まんじゅうを思い出してしまう「花よりだんご派」だ。お隣さんによると、この藤が満開になると、もう今年の花見もおしまいだという気持ちになるという。少し前まで駅近くのピンクに彩られた桜並木を通るのが楽しみだったが、すっかり緑一色になった。連休を過ぎれば、東京の街はもう初夏の装いになっているだろう。

 日常の当たり前の日々が一変してしまったウクライナの人々を思うと、季節の移ろいを楽しめることがいかに幸せなことなのか、今年はそんな思いで連休を迎える。5月3日は憲法記念日。第1特集は恒例の憲法特集である。ウクライナで戦争が起きている今こそ、戦争を放棄した日本国憲法の意義について改めて考えたい。そして第2特集は読者から要望の多かった維新を取り上げる。維新特集は5月20日号に後編をお届けする予定だ。(文聖姫)

怒りの矛先を誤るな

 JR恵比寿駅(東京・渋谷区)で一時ロシア語の案内表示の上に紙が貼られ文字が隠されていた一件。利用客からロシア語の表記を疑問視する声があったからだというが、差別を助長するとして、批判の声が寄せられたことで、紙ははがされ元通りになった。当然だ。そもそもロシア語に何の罪があるというのか。

 確かにロシアのウクライナ侵攻は許されるべきではない。ロシア軍が多くの民間人を虐殺したという報道もある中で、プーチン大統領やロシア当局への批判の声があがるのは当然だろう。しかし、ロシア語の案内板を頼りにしている多くの在日ロシア人がいる。彼らが差別されるいわれはない。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による日本人拉致が明らかになった後、朝鮮学校生徒のチマ・チョゴリが切られたり、学校の前でレイシストがヘイトスピーチをがなり立てる事態が起きた。拉致が犯罪なのは確かだが、朝鮮学校の生徒に罪はない。怒りの矛先を誤れば、それは差別へとつながる。(文聖姫)