編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

『パラサイト』の階段

 韓国映画『パラサイト 半地下の家族』に印象的なシーンがある。大雨の中、雇われ先の金持ちが住む高級住宅から主人公たちは半地下の自宅に戻る。その途中、長い階段を下る。階段は富裕層と貧困層を分け隔てる象徴のようだと私は感じた。階段の上と下とでは別世界だ。『パラサイト』で描かれた半地下のような住宅は実際に韓国にある。ソウルのマンション価格は値上がりを続けるが、一方で人一人がやっと寝られるほどのスペースで暮らす人がいる。マンション購入など不可能だとすでに諦めた若者もいる。

 韓国で新政権が誕生したのを機に、今号では韓国経済を特集した。元気なように見えて、実は問題も抱える。そこらへんのところを、アジア経済研究所で一貫して韓国経済を研究する安倍誠さんに語ってもらった。加えて、実体経済はどうかということを、つい最近までソウル支局長だった『朝日新聞』の神谷毅氏に寄稿してもらった。貧富の格差は韓国だけの問題ではない。今回の特集から日本は何を汲み取るべきか。(文聖姫)

読者会

 連休の最後の3日間を利用して、札幌と小樽の読者に会ってきました。札幌の読者会は休会中ですが、数人のメンバーの方々に話をうかがいました。小樽では昨年できたばかりの読者会に出ました。十数人のメンバーが、憲法、原発、風力発電など、さまざまな話題で盛り上がりました。

 感じたのは、やはり直接読者から話を聞くことの大切さです。毎週1回編集会議を開いて特集などを議論し、毎号お届けしていますが、読者のニーズに応えられたのかどうかが、いつも気になります。本誌への感想を電話やメール、手紙などで寄せてくださる方もいらっしゃいますが、それほど多くはありません。そこで私が参考にしているのが「読者会から」のコーナー。褒めてもらうとうれしいし、批判されるとへこみますが、それでも「ああ、こんな風に読まれているのか」と、新たな発見があります。できるだけ多くの読者会に顔を出したいと思っています。ヒョッコリ顔を出すかもしれませんので、その時はどうぞよろしくお願いします。(文聖姫)

デジャブ

 連休で久しぶりに時間ができたので、ロシア映画『親愛なる同志たちへ』を観た。84歳のアンドレイ・コンチャロフスキー監督が、ソ連時代最大の労働者蜂起「ノボチェルカッスク事件」を描いた2020年の作品だ。

 スターリン亡き後のフルシチョフ政権下、1950年代後半から60年代前半にかけて導入された経済・貨幣改革によって、ソ連全土では物価高や食料不足が起きていた。62年6月、ソ連(現在のロシア)南西部の町ノボチェルカッスクの国営機関車工場で、賃金カットに怒った労働者たちによるストライキが起きる。5000人以上に膨れ上がった群衆は現地の共産党幹部が集結する工場管理棟を占拠。だが、現場に戦車とともにやってきたソ連軍は群衆を武力で鎮圧した。事件下で娘が行方不明となった熱烈な共産党員の女性が映画の主人公。はたして彼女が取った行動は?

 配給品を優先的に受け取れる党の幹部や共産党に忠誠を尽くすと討論する労働者代表など、デジャブな場面が個人的には印象に残る。(文聖姫)

憲法とウクライナと維新

 自宅前の小学校にある藤棚・藤の花が満開を迎えている。藤といえば、普通は紫だが、ここのはピンクと白で珍しい。なんとも美しいのだが、私などは紅白まんじゅうを思い出してしまう「花よりだんご派」だ。お隣さんによると、この藤が満開になると、もう今年の花見もおしまいだという気持ちになるという。少し前まで駅近くのピンクに彩られた桜並木を通るのが楽しみだったが、すっかり緑一色になった。連休を過ぎれば、東京の街はもう初夏の装いになっているだろう。

 日常の当たり前の日々が一変してしまったウクライナの人々を思うと、季節の移ろいを楽しめることがいかに幸せなことなのか、今年はそんな思いで連休を迎える。5月3日は憲法記念日。第1特集は恒例の憲法特集である。ウクライナで戦争が起きている今こそ、戦争を放棄した日本国憲法の意義について改めて考えたい。そして第2特集は読者から要望の多かった維新を取り上げる。維新特集は5月20日号に後編をお届けする予定だ。(文聖姫)

怒りの矛先を誤るな

 JR恵比寿駅(東京・渋谷区)で一時ロシア語の案内表示の上に紙が貼られ文字が隠されていた一件。利用客からロシア語の表記を疑問視する声があったからだというが、差別を助長するとして、批判の声が寄せられたことで、紙ははがされ元通りになった。当然だ。そもそもロシア語に何の罪があるというのか。

 確かにロシアのウクライナ侵攻は許されるべきではない。ロシア軍が多くの民間人を虐殺したという報道もある中で、プーチン大統領やロシア当局への批判の声があがるのは当然だろう。しかし、ロシア語の案内板を頼りにしている多くの在日ロシア人がいる。彼らが差別されるいわれはない。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による日本人拉致が明らかになった後、朝鮮学校生徒のチマ・チョゴリが切られたり、学校の前でレイシストがヘイトスピーチをがなり立てる事態が起きた。拉致が犯罪なのは確かだが、朝鮮学校の生徒に罪はない。怒りの矛先を誤れば、それは差別へとつながる。(文聖姫)

ウクライナの地名表記について

 日本政府はウクライナの地名の呼称について、ロシア語の読み方に基づく表記からウクライナ語の読み方に基づく表記に変更しました。これに基づきテレビや新聞などは一斉に、首都の「キエフ」を「キーウ」に変更するなど、表記を改めました。

 しかし、在外公館のある都市のカタカナ表記は「在外公館名称位置給与法」(在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律)で定められており、政府が呼称を改めるのであれば、法律を改正する必要があります。必要な手続きも経ないまま、政府が決めたからといって無批判に従う必要はないとの考えから、私自身は当面従来の呼称を使うことにしました。一方で、ウクライナの人々がウクライナ語の表記を望む気持ちも理解できます。

 こうしたことを踏まえ、本誌では当面の間、外部筆者や編集部員が個々の考えに基づく表記を使うようにしました。そのため、「キエフ」と「キーウ」が混在することになります。(文聖姫)

秩序の崩壊の始まり

 本誌では最近、ロシアのウクライナ侵攻問題に力を入れている。さまざまな角度から企画を掲載しており、今号では安全保障の側面について、柳澤協二氏に語ってもらい、国内外に避難しているウクライナの子どもたちや母親への支援をいち早く始めたNPO法人日本チェルノブイリ連帯基金の取り組みについて、理事長を務める鎌田實さんに寄稿してもらった。「戦後秩序の崩壊の始まりか」と題する小武正彦さんの視点も載せた。実際、当事国であるロシアが安全保障理事会常任理事国であることから、国連はウクライナ侵攻で十分な役割を果たせていない。ロシア非難決議で中国やインドなど35カ国は棄権票を投じた。

 今号では、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の大陸間弾道ミサイル(ICBM)についても二人の識者にインタビュー、寄稿してもらった。この問題でも、安全保障理事会常任理事国の中国とロシアが北朝鮮に一定の理解を示している。

 国際社会は分断へと進んでいくのか。(文聖姫)

漁夫の利

ウクライナ情勢に世界の耳目が集まる中、その間隙を縫うかのように、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を断行した。ICBMの発射実験は2017年11月29日以来、約5年ぶり。金正恩朝鮮労働党総書記が実験に立ち合った。核実験やミサイル実験のモラトリアムをうたった宣言を自ら破棄したことになる。

 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』3月25日付によると、正恩氏は「いかなる軍事的威嚇にも揺るがない強力な軍事技術力を備え米帝国主義との長期的対決に徹底的に備えていく」と語った。実験が米国に向けた牽制であることは明白だが、「長期的対決」をにおわせていることが気になる。北朝鮮は昨年1月の朝鮮労働党第8回大会で核戦力の強化をうたっていた。米国との対話が実現せず、膠着状態が続く中、北朝鮮は着々と軍事力を強化していくだろう。

 4月15日は故金日成主席の生誕110周年。軍事パレードで新型ICBMをお披露目するかもしれない。(文聖姫)

地震

 3月16日の夜は疲れたので早めに寝た。しかし、午後11時36分に発生した地震で飛び起きた。揺れは結構長く続いた。意味もなく壁にしがみついた。台所で「ことっ」という音がしたので行ってみると、調味料が1瓶落ちていた。テレビをつけると地震速報が流れていた。住んでいる地域の震度は4。体感ではもっと揺れたと思っていたから、震度6強を観測した宮城や福島の方々の怖さはいかばかりだったか。インフラも打撃を受けた。同僚の中でも停電や断水を経験した人がいた。18日時点で死者は3人、けが人も160人超という。東北新幹線も脱線し、復旧のめどは立っていない。企業の工場なども停止に追い込まれているところが多数ある。

 どうしても思い出してしまうのが11年前の3月11日だ。今号では、東京電力福島第一原発事故由来の放射線物質と小児甲状腺がん多発の因果関係について、根拠が実証されたとする論文を発表していた岡山大学の津田敏秀教授のインタビューを掲載している。(文聖姫)

ウクライナとゲノム

 次々病院に運ばれるけが人、劣悪な環境下で出産しなければならなかった女性、脱出する多くの人々の列、国に残る父親と別れたくないと泣き叫ぶ男の子――テレビ画面を通じて伝わるウクライナの現状だが、断片的な報道に過ぎない。いまウクライナで何が起きているのか。テレビや新聞報道、ネットなどを通じてしか知るすべがない。読者に少しでも現場の状況をお伝えしたいと思っていたところ、ジャーナリストの金平茂紀さんがウクライナに入ったと聞いて、今号で現地ルポを書いてもらった。「ウクライナ侵攻は、現場にいなければわからないことだらけだ」と金平さんは指摘する。

 特集は「ゲノム編集食品」。詳細はぜひ読んでほしいが、豚の心臓を移植された男性の話にはゾッとした。結局、その男性は亡くなった。

 9日の韓国大統領選挙の結果、韓国では5年ぶりに保守政権が誕生する。当初は「尹錫悦優勢」と思われていたのに、なぜ接戦となったのか。詳しく分析した記事も掲載した。(文聖姫)