編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

「太宰治」の由来

 6月19日。この日は太宰治が生まれた日であり、東京都三鷹市下連雀の玉川上水で入水自殺を図り、ご遺体が見つかった日でもあります。「桜桃忌」と名付けられ、78年となるいまでも墓所のある禅林寺には多くの方々が各地から追悼に訪れます。

 これほど魅了しつづける太宰作品。意外にも青年・津島修治が筆名を決めた理由について詳しく残していませんでした。太宰の生誕地である青森・津軽で由来を調べてきた同郷のフリーライター、野呂法夫氏にその謎について本号で報告していただきました。あの井伏鱒二も解けなかった真相は特集をご覧ください。

 今回、数十年ぶりに読み返した『津軽』に登場する人々は、三十数年前に新聞記者として赴任し、5年を過ごした山形での出会いと重なりました。禅林寺で手を合わせたいと思いますが、地元ではお供え物を控えるなど節度ある参拝を呼びかけています。気をつけたいと思います。(臺宏士)

ご都合主義

 高市早苗政権下で政府のご都合主義が蔓延し始めていることが危惧されています。

 今年初めの衆院のご都合解散につづき、「時は来た」と改憲を高市首相が宣言した4月の自民党大会では現役の制服姿の陸上自衛官が「君が代」を歌ったところで、自衛隊法が禁止する政治的行為には当たらないとしてお咎めなし。同法には刑事罰もあります。

 その一方で、米軍専用施設の7割が集中する沖縄県で進む辺野古新基地建設現場沖で、抗議船から見学した同志社国際高校の学習は、教育基本法が禁止する政治活動に当たると認定しました。同法は同時に「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」

とも規定しています。

 これでは、首相の意向に沿わない行為は政治的だというご都合解釈です。総務相だった高市氏が、放送の自由を保障した放送法の政治的公平規定を根拠に停波発言した延長とも言えそうです。(臺宏士)

憲法改正

 日本国憲法の改正を巡り、新聞各社が憲法記念日(5月3日)の朝刊で報じた世論調査では、『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』の三紙とも、改正賛成が反対を上回りました。『朝日』では賛成47パーセント、反対43パーセント。興味深いのは『読売』で、前回から賛成は3ポイント減の57パーセントで反対は4ポイント増の40パーセント。世論の流れは必ずしも改正へと一直線ではないようです。

 本号の「憲法の現場から」は、憲法が保障する法の下の平等や、健康で文化的な生活からこぼれ落ちる事例の実態報告です。憲法が保障対象とするのは日本国民に限らず、この国に集うすべての人々に及ぶという視点は重要です。

 NHKの世論調査では憲法理念を「よく知っている」「ある程度知っている」との回答はたった4割でした。これでは、私たちの将来に大きな影響を与える国民投票ができるような状況だとはとても言えません。(臺宏士)

「死の商人国家」

 専守防衛の放棄に等しい長射程ミサイルの配備開始や米ロが戦争を仕掛けるなかで迎えた憲法記念日(5月3日)。多くの人々が平和の危機を共有したと感じます。東京の憲法大集会に設けた『週刊金曜日』ブースには昨年よりも多くお立ち寄りいただきましたが、その表れの一つだとすれば複雑な心持ちです。

「武器取引反対ネットワーク」の杉原浩司代表は殺傷可能な武器輸出解禁を巡る寄稿で成長産業として国が後押しすることで「死の商人国家」から後戻りできなくなると警告しています(15ページ)。

「死の商人」といえば子どもの頃に馴染んだ「サイボーグ009」に登場する「黒い幽霊団」が浮かび、「悪」を連想する人も少なくない世代です。一方、今は10代にも広がる総投資家時代。株式市場では「防衛銘柄」と呼び、どの企業が「買い」かが注目されているようですが、投資資金の使われ先にも関心を向けてほしいです。(臺宏士)

一人ひとりの尊厳を保障するために

「人質司法」の非人道性を浮き彫りにした大川原化工機事件を機に裁判官が下した判断の結果責任に厳しい目が注がれるようになっています。そのなかで、水俣病の認定をめぐって福岡高裁の高瀬順久裁判長が4月23日に他の疾患の可能性を理由として訴えを退けたのは残念でした。

 水俣病の行政責任を追及した番組で知られる元NHK記者の大治浩之輔さん(90歳)は、本号の特集「憲法の現場から」で「公害問題では被害者側に立った」(28ページ)と証言。その言を借りれば、同高裁は他の疾患である証明ができていないとして患者認定するのが、幸福追求権や生存権を掲げた私たちの日本国憲法の精神だと思います。

 日本という国に集う一人ひとりの尊厳を保障するために憲法がある。『週刊金曜日』は、多数派にかき消されそうな人々の声に耳を傾けるためにある、との思いで本号から編集長を務めます。(臺宏士)

編集長交代

 トランプ米大統領が自身をキリストになぞらえた画像をSNSに投稿し削除したと思ったら、今度は自分がキリストに抱き寄せられる画像を投稿。ローマ教皇のイラン攻撃批判に腹を立て、自分は神だとか、神に愛されているだとか言いたいのか。SNSではパロディが投稿されている。

 最近もう一つ驚いたのは、自民党大会で陸上自衛隊員が「君が代」を歌ったこと。首相をはじめ、防衛相も陸上幕僚長も自衛隊法が制限する政治的行為には当たらない、私人として参加したなどと言う。ではなぜ制服姿? 鈴木俊一党幹事長も「政治的意味はない」と言うが、特定政党の大会であり、官職も紹介された。説明には無理があるだろう。

 次号からは憲法特集を始める。5月3日の東京・有明防災公園での憲法大集会にもブースを出すので、今号の「表紙」を掲げてぜひ立ち寄ってほしい。次号からは臺宏士に編集長を交代。さらなるご支援を!(吉田亮子)

外国人政策

 米国とイランの停戦協議は合意に至らなかったようだ。だいたいホルムズ海峡を共同管理して船舶から通航料をとるなんて、トランプ米大統領の頭の中は大航海時代だと言うしかない。もう一人、時代錯誤なのは、イスラエルのネタニヤフ首相だ。レバノンへの武力侵攻は、3000年前のダビデ王朝を夢見ているとしか思えない。これらの常軌を逸した行為によって、どれだけの人の命や生活を奪えば気が済むのであろうか。

 今号では日本の原油備蓄について、中東依存から変わっていない実態や、政府が今求められていることを後藤逸郎さんに執筆していただいた。外国人政策については座談会で、「仮放免」に置かれた当事者、エマさん(仮名)に参加いただいた。「不法滞在者」などと学校で言われたのは、高市早苗氏が首相になった後のことだ。短時間審議で今年度予算が成立した。首相が言う、国論を二分する政策の審議が始まるのか。(??田亮子)

伊藤千尋さん

 イランで「革命防衛隊」が巡回監視や情報収集、調理、医療の支援ボランティアを12歳まで引き下げて募集している。すでにイスラエルによる検問所への攻撃で、父親と警戒にあたっていた11歳の少年が死亡したという報道も。

 15歳未満の子どもを国軍や武装勢力が徴募したり戦闘で使用したりすることは戦争犯罪であると、国際条約のローマ規程で定められている。一方、国際社会は国際法違反の米・イスラエルを止められず、戦争の出口は見えない。

 そんな状況に「武力でなく対話」「九条の碑には平和な世界で暮らしたい思いがこもっている」と国際ジャーナリスト・伊藤千尋さん。4月4日、東京・町田市で初めて、全国で79番目となる九条の碑の除幕式で講演した。雨の中、175人が集まった。碑には絵本作家・長谷川知子さんの作品、ほうき(戦争放棄)を持つ少女や「子どもたちの未来に平和を」などの文言。訪ねてほしい。(??田亮子)

フリースクール

 2025年の自殺者数が2万人を割って過去最少となるなか、小中高生の自殺者が過去最多の538人となった。厚生労働省が3月27日に発表した。小中高生の自殺の動機は「学校問題」がもっとも多く251件に上る。G7(先進国)における10〜19歳の死因で、自殺が1位なのは日本だけだ。なぜ日本は子どもにとって生きづらい国なのか。

 今号の子どもの安全安心を考える特集では、不登校の子どもが増え、日本に500とも800ともいわれるフリースクールが「第三の居場所」として機能している実態を取り上げた。4月から新学期が始まる。わくわくドキドキの一方、つらい気持ちの子どももいるだろう。子どもたちの声にどう応えるのか、大人が問われている。あわせて紛争下の学校を守る「学校保護宣言」の取り組みを紹介した。18歳未満の5人に1人が紛争地にいるという現実に愕然とする。このままでいいわけがない。(吉田亮子)

国旗損壊罪

 自民党は、国旗損壊罪の新設をめざしてプロジェクトチーム(座長・松野博一元官房長官)を立ち上げる。小林鷹之政調会長が3月19日の会見で発表した。一方、広島弁護士会のように反対表明する団体も。同会は2月、日本国国章損壊罪の法制化に反対する会長声明を発表。米国での違憲判決を引き合いに、国家の名誉的利益は刑罰で維持されるものではない、とした。

 今号で憲法学者の志田陽子さんは、国旗損壊罪が新設されると「言論への萎縮効果が高くなる」と話す。ジャーナリストの永尾俊彦さんは「日の丸」問題にこだわってきた表現者や教員のほか、「日の丸・君が代」不起立の裁判にかかわる弁護士にも取材。その弁護士の言葉「社会全体が学校のようになりますよ」には、はっとさせられた。教員が不起立で処分されていくのを、私たちは対岸の火事のように眺めていたのではないか。教員たちの姿は私たち一人ひとりであった。(??田亮子)