編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

令状不要の行政傍受

 JNNが実施した世論調査(7月4日〜5日)によると、高市早苗内閣の支持率は65・9%。高市首相が自民党大会で改憲を表明した4月は71・5%で5・6ポイント減とは言え、皇室典範改正案を含む悪法のごり押し国会を考えると、6割を超える高い支持率にため息が出ます。

 時事通信が7月9日、「『令状なし傍受』自民提言へ スパイ防止法制定で焦点」という独自記事を配信しました。世論の反対を押し切って成立した犯罪捜査が対象の盗聴法(通信傍受法)は令状を必要としていますが、「行政傍受」といって安全保障名目に不要にしようというのです。

 同月10日の国会前デモには「めちゃくちゃな政治」に抗議する2万7000人が参加。石破茂前首相は党幹事長だった2013年、特定秘密保護法案に反対するデモを「テロ行為と変わらない」と表現し、非難を受けました。行政傍受の対象は日本人も例外ではありません。(臺宏士)

放送法と個人情報保護法

 法律の解釈を巡り、政府の国会答弁が信用できない典型例の一つが、放送法4条にある政治的公平です。戦前の放送は「政府之ヲ管掌ス」と規定され戦争の道具にまでなった反省から、戦後は「放送による表現の自由の確保」に180度変わりました。政府も政治的公平を根拠に放送局を処分できるかどうかについて、「検閲、監督等は一切行なわない」(1950年)などと法案審議で否定します。

 砂川浩慶氏が本号アンテナ欄で指摘したように条文は同じなのに高市早苗氏が政治的公平違反を繰り返した場合の電波停止に言及するなど法解釈はいまでは正反対です。

 個人情報保護法でも同じことが起こり得ます。制定時、義務規定は報道や政治目的などでの適用を明文で除外し、誰もが対象となる努力規定は削除。一方、参院審議中の罰則新設案の歯止めは個人情報保護委員会事務局長の答弁のみ。四半世紀後の狡猾な後出しジャンケンです。(臺宏士)

国旗損壊処罰法案

 国旗損壊処罰法案が6月26日の衆院内閣委員会で可決されました。与党に加え国民民主、参政、チームみらいの賛成多数。高市早苗首相は「国論を二分する政策」をまた一つ押し切ろうとしています。

 前日、桐野夏生・日本ペンクラブ会長は記者会見し、「アーティストの中にあの旗を使っていろんな表現をなさる方もいらっしゃるでしょう。壊滅とは言わないですけれどもこの国の何か姿が変わってしまうのではないかという危機感を持っている」と反対を表明していました。

 本誌6月12日号に寄稿した園田寿氏も27日、「多数派の不快感を大義名分として市民から表現の自由を奪い、愛国心を強要する窮屈な社会への入り口」と改めて批判。「古くなって捨てたら損壊になるのか」(桐野氏)、「もう、うかつに日の丸を触れない」(園田氏)とも。「日の丸自警団」が「不快だ」と刑事告発するような世の中であってほしくありません。(臺宏士)

悪法の数々

 衆院で3分の2を超える議席を得たからといって高市早苗政権による悪法制定にもほどがある、と言いたい状況が続いています。国家情報局設置法や国旗損壊罪創設法案。再審法改正案に続き、注目したいのが個人情報保護法改正案です。法案では不適切な方法で個人情報を取得した人は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

「損害を加える目的」とか「人を欺き」「施設への侵入」といった一見すると納得してしまいそうな条文ですが、要注意です。政治家ら公人の不正を暴くための潜入取材や公益通報に威嚇効果が大きいだけでなく、記者や通報者が逆に告訴される武器にもなります。真相とは無関係に警察に調べられただけで世間のバッシングを浴びるでしょう。

 同法が国会提出された四半世紀前に作家の故・城山三郎氏が「天下の悪法」と喝破し、旧案から削除された基本原則(努力規定)が形を変えて蘇ろうとしています。(臺宏士)

沖縄からの報告

 米・イスラエルによるイラン攻撃を巡り、戦闘終結に向けた覚書が19日に交わされる見通しです(15日現在)。国連憲章や国際法違反が明白な行為で生じた民間への被害は誰が補償するのか。あの小学生らの遺族は悲しみを押し付けられたままなのでしょうか。

 本号では特集「憲法の現場から」の最後として沖縄からの報告です。国境に近い島では自衛隊基地の新設、拡張が進みます。他方から見れば攻撃、占領の標的でもあります。

 高市早苗政権は、長射程ミサイルの全国各地への配備や武器輸出には熱心ですが、武力攻撃事態の巻き添えとなった民間被害への補償を含めた国民保護策は放置状態。先の戦争での空襲被害者救済法案も先延ばしにされたままです。

 平和国家をうたった憲法が今、県民の目にどう映っているのかを元『琉球新報』編集局長の潮平芳和さんに寄稿してもらいました。特集には全国の読者に共有してほしい視点が詰まっています。(臺宏士)

「日の丸」の意味

 1999年の国会では(1)盗聴捜査を合法化する通信傍受法(2)背番号で国民を管理する「住基ネット法」(3)自衛隊の活動範囲を拡大する周辺事態法(4)国旗国歌法といった国論を二分する悪法が相次いで成立したことを思い出します。

 首相答弁という歯止めもあり、「懸念は当たらない」というのが政府・与党の言い分でした。小渕恵三首相は国旗国歌法について「将来においても違反を罰する立法を行なう考えはない」と述べましたが、四半世紀が過ぎ、自民党は処罰する法案を国会提出するようです。小渕答弁との整合性も党内で厳しく指摘してきたのが岩屋毅氏。「国旗に対する感じ方を国が定義したり、強要したりすべきではない」

 前外相であり、元防衛相という「日の丸」の意味について思索する機会の多かったはずの大臣経験者の言葉には説得力がありました。ノンフィクション作家の中澤雄大氏が聞きました。自民議員に読んでほしい記事です。(臺宏士)

「太宰治」の由来

 6月19日。この日は太宰治が生まれた日であり、東京都三鷹市下連雀の玉川上水で入水自殺を図り、ご遺体が見つかった日でもあります。「桜桃忌」と名付けられ、78年となるいまでも墓所のある禅林寺には多くの方々が各地から追悼に訪れます。

 これほど魅了しつづける太宰作品。意外にも青年・津島修治が筆名を決めた理由について詳しく残していませんでした。太宰の生誕地である青森・津軽で由来を調べてきた同郷のフリーライター、野呂法夫氏にその謎について本号で報告していただきました。あの井伏鱒二も解けなかった真相は特集をご覧ください。

 今回、数十年ぶりに読み返した『津軽』に登場する人々は、三十数年前に新聞記者として赴任し、5年を過ごした山形での出会いと重なりました。禅林寺で手を合わせたいと思いますが、地元ではお供え物を控えるなど節度ある参拝を呼びかけています。気をつけたいと思います。(臺宏士)

ご都合主義

 高市早苗政権下で政府のご都合主義が蔓延し始めていることが危惧されています。

 今年初めの衆院のご都合解散につづき、「時は来た」と改憲を高市首相が宣言した4月の自民党大会では現役の制服姿の陸上自衛官が「君が代」を歌ったところで、自衛隊法が禁止する政治的行為には当たらないとしてお咎めなし。同法には刑事罰もあります。

 その一方で、米軍専用施設の7割が集中する沖縄県で進む辺野古新基地建設現場沖で、抗議船から見学した同志社国際高校の学習は、教育基本法が禁止する政治活動に当たると認定しました。同法は同時に「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」

とも規定しています。

 これでは、首相の意向に沿わない行為は政治的だというご都合解釈です。総務相だった高市氏が、放送の自由を保障した放送法の政治的公平規定を根拠に停波発言した延長とも言えそうです。(臺宏士)

憲法改正

 日本国憲法の改正を巡り、新聞各社が憲法記念日(5月3日)の朝刊で報じた世論調査では、『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』の三紙とも、改正賛成が反対を上回りました。『朝日』では賛成47パーセント、反対43パーセント。興味深いのは『読売』で、前回から賛成は3ポイント減の57パーセントで反対は4ポイント増の40パーセント。世論の流れは必ずしも改正へと一直線ではないようです。

 本号の「憲法の現場から」は、憲法が保障する法の下の平等や、健康で文化的な生活からこぼれ落ちる事例の実態報告です。憲法が保障対象とするのは日本国民に限らず、この国に集うすべての人々に及ぶという視点は重要です。

 NHKの世論調査では憲法理念を「よく知っている」「ある程度知っている」との回答はたった4割でした。これでは、私たちの将来に大きな影響を与える国民投票ができるような状況だとはとても言えません。(臺宏士)

「死の商人国家」

 専守防衛の放棄に等しい長射程ミサイルの配備開始や米ロが戦争を仕掛けるなかで迎えた憲法記念日(5月3日)。多くの人々が平和の危機を共有したと感じます。東京の憲法大集会に設けた『週刊金曜日』ブースには昨年よりも多くお立ち寄りいただきましたが、その表れの一つだとすれば複雑な心持ちです。

「武器取引反対ネットワーク」の杉原浩司代表は殺傷可能な武器輸出解禁を巡る寄稿で成長産業として国が後押しすることで「死の商人国家」から後戻りできなくなると警告しています(15ページ)。

「死の商人」といえば子どもの頃に馴染んだ「サイボーグ009」に登場する「黒い幽霊団」が浮かび、「悪」を連想する人も少なくない世代です。一方、今は10代にも広がる総投資家時代。株式市場では「防衛銘柄」と呼び、どの企業が「買い」かが注目されているようですが、投資資金の使われ先にも関心を向けてほしいです。(臺宏士)