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「日の丸・君が代」押しつけ卒業式に負けたら、戦争というウイルスが増殖する

「戦前も日常は平穏だったのだろう」とジャーナリストの原寿雄さんは言う。ウイルスによっては、発症するまでの潜伏期間が10年を越える。「戦争」というウイルスはどうか、と考えることが増えた。感染しているのは間違いない。普段の生活に支障をきたすほどには症状が現れていないだけだ。平温に潜む増殖の気配。

 今年もまた卒業式・入学式の季節になった。「国旗・国歌法」成立から8年、当初から「強制しない」という政府答弁は信用していなかった。それでも、各教育委員会がここまで露骨に、かつ土足で思想信条の自由を踏みにじるとは思っていなかった。石原慎太郎という、ねじ曲がった国家主義者が都知事になった影響は大きい。

 また、石原氏と同根のタカ派である安倍晋三氏が首相に就任、「何が何でも教育基本法の改正」としゃかりきになった。マスコミは、愛国心の問題に触れた程度で、改正の危険性を鋭く指摘せず、国会では野党の徹底抗戦もないまま、「平穏」をかき乱すことなく歴史的な悪法は成立した。

 改悪された教育基本法を改めて読み直し、悪寒が走る。第2条の「教育の方針」は「教育の目標」に変えられた。そこに「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」が掲げられた。「目標」だから、教師も児童・生徒も従わなくてはならない。かくして「日の丸・君が代」の強制が合法となる。

 さらに、「目標」には「評価」が伴う。愛国心のランク付けだ。おそらくは、ほとんどの小中学校で通知書に「愛国心」の項目が付け加わるだろう。評価の低い児童・生徒がたくさん出れば、その担任は「教師失格」の烙印を押される。新たにつくられる「免許更新制」により、教育の場から排除されるのは間違いない。

 1952年生まれの私は、民主主義教育のまっただ中にいた。学校では「第2次世界大戦で、日本はアジアの国々に対してどんなひどいことをしたか」を教わり、家庭では生々しい戦争の体験談をいやというほど聞かされた。これに対し、朝礼で「日の丸」に頭を下げ、「君が代」を歌わされる。しかも、そのことを評価される。こんな教育を受ける子どもたちにどんな愛国心が芽生えるのか、想像するだけでおぞましい。

 しかし、人間には免疫力も知恵もある。ウイルスにうち勝てばいいのだ。今年の卒業式でも闘う教師の姿があった。(北村肇)