編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

仮面がぼろほろになった素顔のあなたに、首相は無理だ。さらば、小泉純一郎。

 どこが潮目だったのか。小泉自民党が「大勝」から「敗北」へと転落したきっかけは、「人生いろいろ」発言だったような気がする。
 
 それまでも、過去の首相だったら、とうに吹っ飛んでいるような失言を、小泉氏は繰り返していた。だが大衆はことごとく受け入れてきた。怖いものなしの”ホンネ”に喝采を送ったからだ。マスコミが、はりぼて首相を内実が伴うかのごとくに演出したことも見逃せない。
 
 調子に乗った小泉氏は、「熱しやすく冷めやすい」という古典的な格言すら忘れていたのだろう。民心が離れ始めていることに、ぎりぎりまで、いや投票結果が出るまで気づかなかったのかもしれない。
 
 ホンネと開き直りの違いは「自己防衛」にある。自らの地位、既得権はかなぐりすてても、建前を突き崩すのが前者。自己を守るために強弁するのが後者。総裁選のとき、「自民党をぶっ壊す」と叫ぶ姿は、これまでの政治家とは違う清新な雰囲気を醸し出した。派閥も地位も関係ない、市民の支援だけが頼りという悲壮感も受けた。

「痛みを伴う構造改革」というスローガンすら、「口当たりのいいことばかり言う歴代首相に比べ、ホンネで語っている」と、むしろ肯定的に受け止められた。

 だが、いつまでたっても「改革」は進まず、一方で「痛み」だけが増す実態に、さすがの大衆もイライラし始めていた。そこに年金改悪。「これまでの政権とどこが違うのか」と疑問が沸点に達しかけていたとき、本誌はいち早く、小泉首相の厚生年金疑惑を取り上げた。さすがに、この問題に関しては謝罪するだろうと思った。だが、国会の場で、小泉氏の口から出たのは「人生いろいろ 会社もいろいろ」。まさに開き直りの典型だった。

 その瞬間、人気宰相の仮面はぼろぼろと崩れ落ちたのである。

 これからは今まで以上に、「反改革派」や公明党の顔色をうかがわない限り、政権は維持できない。そして、そんな「小泉純一郎」を支持する有権者は少ない。

 素顔のあなたに首相は無理だ。さらば、小泉純一郎。(北村肇)