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新自由主義の破壊につながる政界再編なら大歓迎

 参議院選の投票率57.9%。ワールドカップ・パラグアイ戦の瞬間最高視聴率は64・9%。この”落差”を意外と思う人は少ないだろう。居酒屋でも電車の中でも「本田がどうのこうの」「岡田監督がどうのこうの」という会話は聞こえてきても、「菅民主党対谷垣自民党」はおよそ話題になっていなかった。「自民党勝利」も余韻をもたらすことはない。国会は“ねじれ”により混乱し、自民党の存在感は多少増すだろう。だが、谷垣禎一自民党総裁が岡田武史監督のように名将の称号を得ることは考えにくい。そもそも市民の永田町に対する関心が薄いのだ。

 有権者の”シラケ”はいまに始まったことではない。だがその質は明らかに変化している。「失われた20年」以前は「この国は何とかなる」という安心感がどこかにあっての投票棄権が多かった。最近の選挙は違う。「現状を変えたい」と託した相手に幾度も裏切られ、そのたびに別の「誰か」を求めてさまよい、また裏切られる。

 政権を壊しても壊しても、何も変わらない――これは避けられない運命だ。閉塞状況にあえぐ人々が壊したいのは「既得権者」。しかし、政権交代は、既得権者から別の既得権者に「力」が移るだけであり、本質は何も変わらないのだ。今回の参院選で民主党が惨敗した最大の理由は「消費税」そのものではない。「消費税」を持ち出した菅直人首相のふらつきぶりにがっかりした有権者が多かった。党首討論を回避する、支持率が下がった途端に言い訳をとうとうと述べる。これらは、昨年の総選挙で、市民がレッドカードを突きつけた自民党の体質そのものだった。つまりは自己保身=既得権保持の姿勢である。

 民主党が勝手にずっこけ、自民党に「参議院第一党」がころがりこんだ。とはいえ、自民党に政権奪取の道筋が見えたわけではない。比例で民主党に及ばないということは、政党支持率では依然として第二党ということだ。ある意味で、まだ民主党への期待は残っている。菅直人首相は見限っても民主党は捨てていない。となれば、9月の代表選が大きなポイントになる。新たな「表紙」への動きが表面化するのは避けられない。

 しかし、それもまた、既得権のたらい回しに終わればシラケを生むだけだ。おそらく今度は、「ぶれない」「強い(と見える)」印象のトップを選ぼうとするだろう。残念ながら、そこには既得権者を根底からぶっ壊す政策論争が起きるとも思えない。むろん、自民党も、躍進したみんなの党も同じことだ。では、どうしたら、この隘路を抜け出し日本は再生できるのか。結局のところ、新自由主義の破壊しか道はない、私にはそう思える。そのための政界再編なら大歓迎だ。(北村肇)