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鳥インフルエンザ、BSE問題で、国は何か不都合なことを隠蔽している?

 厚生労働省も農水省も信用していない。だから、鳥インフルエンザやBSEへの対応にも、つい疑いを抱いてしまう。

 かつてエイズ問題を取材した際、旧厚生省の実態に卒倒するほど驚いた。エイズが薬害であることは担当官僚のほとんどが知っていた。ひょっとしたら全員かもしれない。だがみんな口を拭った。この隠蔽により被害者が増えたのは紛れもない事実である。それでも厚生省は長い間、しらを切り通した。

 エイズ予防法が成立した当時、同省は「同性愛者の感染症」ということを強調した。血友病患者が被害者である「薬害」の印象を、故意に薄くするためとしかみえなかった。結果的に、関係する厚生官僚が逮捕されたが、彼はスケープゴートでしかない。どうみても“主犯”と考えられる幹部はおとがめなしに終わった。省をあげて守ったのである。

 農水省も似たようなものだった。”危ない”農薬に関し、どんなに事実をもって追及しても、「安全」としか言わない。そのくせ、取材で懇意になった官僚に個人的話として聞くと「無農薬野菜しか食べない」と明かす。同省の目が、市民の健康より農薬メーカーに向いているのは隠しようがなかった。

 もちろん、両省にもまっとうな官僚はたくさんいた。彼ら、彼女らが「内部告発」してくれたので、エイズ薬害キャンペーンもできた。インフルエンザワクチンが実は効果のないことも、献血のチェックだけではエイズウィルスがすり抜けてしまう危険があることも耳打ちしてくれた。そして、その中の何人かは、本人の意思に反し、外部団体などへ追い出されていった。
 
 鳥インフルエンザはアジアだけではなく、欧州でも極めて深刻な問題となっている。あるいは騒ぎすぎなのかもしれない。逆に、日本が無頓着なのかもしれない。いずれにしても、判断するための「情報」が少なすぎる。

 BSEに関してもそうだ。米国の牛肉を安全なのかどうか、あいまいなまま、何かしら米国との水面下の交渉だけが進んでいった印象がある。

 そこで大いなる疑念が生まれる。国はまた、何か不都合なことを隠しているのではないかと。(北村肇)