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品格なき企業、トヨタはいずれ消えゆく

 朝刊の見出しは「トヨタ営業益半減へ」だった。よくよく記事を読むと、前期実績(連結)の2兆2703億円が1兆~1兆2千億円になる見込みとのこと。何のことはない、まだまだ1兆円ももうかっているのだ。資金繰りが困難になり倒産に追い込まれる中小企業からみれば、雲の上の、そのまた上の話である。

 荒っぽく言ってしまえば、しばらく前までの「表向き好景気、実感は不景気」をもたらした元凶はトヨタだ。自社の利益、というより経営幹部と株主の利益を優先し、多くの社員にも関連会社にも下請けにも還元しなかった。さらに、いまやトヨタの一挙手一投足に影響される産業界は、こぞって同じ路線を歩んだ。

 トヨタや日産、あるいは「V字回復」を遂げたパナソニック(旧松下電器)に共通するのは、「労働者を人間として扱わない」姿勢である。リストラ、偽装請負など、日本を代表する企業としてあるまじきことを平然とやってのける。「血も涙もない」というより、「労働者はロボットにすぎないのだから、何をしたって人間のように血や涙が出ることはない」という発想だ。

 こうしたトヨタの横暴を許したのは「小泉・竹中」コンビである。二人は「企業がもうかれば、市民にもカネが回る」と唱えた。大ウソだった。大企業は軒並み「史上最高益」をあげたが、賃金は上がらずリストラは進むという状況下で、日本社会を覆ったのは「貧困」だった。米国に言われるがまま新自由主義を持ち込み、せっせと規制緩和を広げた結果である。当然、内需が盛り上がるわけはない。一部のIT長者、株長者向けの高級品が売れ筋になった時期もあったが、所詮、あだ花にすぎない。

 そこに起きた世界金融恐慌。貿易に頼るしかない脆弱な日本経済は、あっという間にガタガタになった。想像を超える株式の暴落と円高に、「世界一企業」と浮かれていたトヨタも、さすがに浮き足立っているようだ。だが、このまま引き下がるとは到底、思えない。どうせまた、誰かにツケを回すことを目論んでいるはずだ。「金持ちの気持ちしかわからない」麻生太郎首相も何らかの救済策を打ち出すだろう。

 しかし、いつまでもそんなことは通用しない。本誌今週号で特集したように、トヨタの悪行は、日本のみならず世界中で問題になりつつある。人間を粗末にするエコ企業などありうるはずがない。ボイコット運動が起きることも十分、予想される。品格のない企業はいずれ消えゆく運命にある。 (北村肇)