編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

新銀行東京への税金垂れ流しを怒っているのは都民だけではない

 つい最近のこと、農林中金社員寮の門についてるプレートから「農林中金」の文字が消され、地名だけの「○○寮」になった。JRのターミナル駅から歩いて5、6分の住宅街。「ぜいたくだ」と批判されるのを嫌い、あわててとったのだろう。いかにもお役所的な姑息さに笑ってしまった。

 金融機能強化法がもたついている理由の一つに、農林中金への農水省幹部天下り問題がある。天下り自体への批判はもちろん、金融の素人が経営悪化を招いたという指摘がされている。さらには、与党議員との「深い関係」も取りざたされている。プレートから名前を消しただけで収まる話ではなく、いずれ具体的な不祥事が表面化するだろう。

 農林中金とともにやり玉に挙がっているのが新銀行東京だ。事実上、破綻したのにむりやり400億もの都税を注ぎ込んだのは記憶に新しい。さらに国税まで導入しようというのだから、市民が怒りの声を上げるのは当然だ。
 
 同行をめぐっては、当初から、きな臭いうわさが絶えなかった。都議や都職員の口利き疑惑も一つや二つではない。よってたかって食い物にされた感すらある。本誌今週号は、巷に出回っている「口利きリスト」も含めて報じたが、まだまだ闇は深く、今後も追及していく。
 
 この銀行は、大手都市銀行から融資の受けにくい中小企業のために設立された。その目的は良しとしても、十分な成果があったとはとても言えない。ならば、まずは都がみずから実態解明を進めるべきだ。ところが、肝心なことはほとんど明らかにしていない。これでは疑惑の目で見られても仕方ないだろう。
 
 最も責任があるのは、当然のことながら石原慎太郎知事だ。だが、この御仁、いつものことではあるが、どうにも潔くない。今回も同行の幹部に責任を押しつけ、口から出るのは「オリンピック」ばかり。
 
 こんなことが続いていては、都民ばかりではなく、道府県の反発が強まるだろう。何しろ、都に税金を収める人の多くは地方で教育を受け、育ってきた。都以外の自治体からすれば、せっかく働けるまでに育ててきた人材を東京都に横取りされたようなものだ。ある意味、その「投資」分を返還する義務が都にはある。全国から選出された国会議員も、そのことを念頭に置きながら論議すべきだ。(北村肇)