編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

「郵政」「解散」と騒いでいるうちに、「共謀罪」も「教科書問題」も市民の目から隠されていく

 解散風が吹き始めた。予言者よろしく、「夏から秋にかけて解散」と言い続けてきた。根拠は単純だ。郵政民営化は思ったよりもめる、それでも自民党議員は「さすがに小泉首相もどこかで折れる」と高をくくる、だが理解を超える“変人”は「俺の言うことを聞かないなら選挙だ」とテーブルをひっくり返す。

 小泉氏の性格と自民党議員の古色蒼然たる“常識”を考えれば、容易に想像のつくことだ。といって、政界の一寸先は闇。どうころぶかはわからない。むしろ、かように悪辣なシナリオを書ける知恵者はどこのだれかと考えてみる。

 何しろイラクで自衛隊の車列に爆弾が仕掛けられようが、ロンドンでテロが起きようが、永田町ではひたすら「郵政」「解散」という言葉が飛び交う。そして、メディアもそれに乗り、あおる。かくして日本の将来を危うくする動きは、驚くほど市民の目から隠されているのだ。

 先週号で報じた「共謀罪」しかり、そして今週、特集した教科書問題もしかり。

 ご承知の通り、4年前、「自虐史観排除」を掲げた「つくる会」教科書が突如、登場。中学校教科書の採択に名乗りをあげ、全国的な運動を展開した。だが、国内ばかりかアジア各国からも激しい批判を浴び、結果としては、「つくる会」の完敗に終わった。

 しかし4年間で状況は大きく変わった。たとえば、「つくる」会教科書の支持者である石原慎太郎都知事の「日の丸・君が代都政」が教育現場に恐怖政治をもたらし、埼玉県では上田清司知事が、「つくる会」の関係者を教育委員に登用するという信じられない暴走を行なった。

 一方、自民党も躍起になって動き回った。中山成彬文部科学相は公然と「つくる」会教科書を支援、地方自治体では、同教科書の採択を目的にした請願が相次いだ。遺憾ながら、こうした動きは、それなりに力を発揮してしまったようだ。

 市民の多くが、「つくる会」教科書を受け入れるとは到底、思えない。だが、問題の重要性が報じられなければ、どうにもならない。「郵政」はみごとなまでに目くらましとなり、この国はまた一歩、アジアから孤立する道へと進んでしまった。(北村肇)