編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

民主党議員に官僚を打ち負かす情熱をみせてほしい

 政治は理想を追求しなくてはならないと強調してきた。浅はかで煽動的な「現実主義」に惑わされると、崇高な理想を汚泥まみれの現実に引き下ろしてしまう、「憲法は時代遅れ」という言説がその典型だとも。だが一方、理想と現実のはざまで、全身に蕁麻疹が出たような感覚にさいなまれた経験が誰にでもあるはずだ。

 革命的な圧勝で政権を握った民主党は、時を置かず、その逃げるに逃げられない掻痒感に襲われるだろう。まずは「官僚依存からの脱却」という理想の困難性である。100人の政治家を霞ヶ関に送り込み「政治を政治家、そして国民の手に取り戻す」という。正しい選択だ。ぜひ実現して欲しい。だが、本当にできるのか。

 新人議員が多い民主党で、それだけ力量を持つ議員がいるのかという疑問がある。また逆に、幹事長に就任した小沢一郎氏と財務省の関係は決して悪くないように、官僚と太いパイプを持つ有力議員も少なくなく、果たしてどこまで戦えるのかという懐疑的な見方もある。ただ、私は別の視点からの危惧を抱く。

 官僚と丁々発止のやりとりをするには猛勉強が欠かせない。当然、次の選挙に備える余裕などない。これに対し、浪人中の自民党元議員は必死に選挙区を回る。この現実に民主党議員は耐えられるのかということだ。

 与野党に関係なく、かなりの国会議員の取材をしてきた中で、こういう発言をたびたび聞かされた。「当選したらすぐに次の選挙の準備に入る。でなければ、落選議員の巻き返しにあってしまう。金帰火来では足りないくらいだ」。

 前回選挙で議席を得た小泉チルドレンは、ほとんどが討ち死にした。台風並みの嵐に乗じて当選した民主党議員にとっては、人ごとではないだろう。まして、今度は任期途中での選挙は避けられそうにない。寸暇を惜しんで有権者の手を握り、顔と名前を売りたいと考える議員に、しゃにむに政策を勉強する余裕が果たしてあるのだろうか。

 むろん、この試練に耐えてもらわなければならない。多くの有権者は理想実現に一票を賭けたのだ。その一つに、官僚、族議員、業界のトライアングル政治への拒否があった。官僚に勝てない政治家などいらない。マックス・ウェーバーは、政治家に必要なのは「情熱、責任感、判断力」といった。不可能を可能に変える情熱を見せて欲しい。それは一万人との握手に匹敵するだろう。(北村肇)