編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

難民を強制送還した法務省の官僚は、どれほど頭がよかろうと単純な真実がわからない。「問題解決には『温かい気持ち』が必要」という真実が。

 海外の某企業が、社員にこんなテストを出したという。「○○(遠方の地名)まで、最も速く行ける方法を考えなさい」。飛行機だ、いや車だろうと、いろいろな回答があった。その中で最高の“正解”とされたのは-。

「一番好きな人と一緒に行くこと」。解説は必要ないだろう。

 思わずうなった。そして、素敵な方法で、「心」や「時間」の意味を社員に伝えた経営者に感心した。
 
 成績が一番、という教員。効率が最優先、という経営者。規則がすべて、という官僚。いつのころからか、どこを向いても、そんな人ばかりが目に付く。

 これではとても、余裕がもてない。だからイライラする。だから懐が狭くなる。だから自分も不幸になり、人を不幸にもする。この国ではいま、「温かい気持ち」さえあれば大半の問題は解決できる、という大切なことが忘れられている。

 本誌今週号で詳述したように、国連が難民と認定した人を、法務省が強制送還した。世界的な常識からいっても、およそありえないことだ。だが同省は「なんの問題もない」と開き直る。そこには常識だけではなく、「温かい気持ち」のかけらもない。

 日本の入管行政は、言い古された表現だが、「血も涙もない」といわれる。担当者は難民を人間としてではなく、書類上の記号としてしか見ていないと憤る弁護士もいた。法を超え、「情」や「世間的常識」を重んじる「大岡裁判」が、すべて正しいという気はない。規則・規制が意味をもたなくなるような社会では困る。だが、血の通わない行政は決して社会的秩序を生み出さず、結果として市民に不信感を植え付けるばかりだ。

 法務省に限らず、官僚はよく「難しい政治的問題」という。ちっとも難しくない。最も重要なのは、素直な感情である。六法全書も電卓もいらない。“正解”は「心」からわき出てくるのだ。(北村肇)