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唯一の被爆国である日本こそが、唯一の原爆投下国・米国に核廃絶を求めるべきだ

「ヒロシマ・ナガサキ」から6年半後に私は生まれた。身の回りの大人に戦争の恐怖やばからしさをさんざん聞かされた。だが、原爆の悲惨さについては、とんと記憶がない。下町だから東京大空襲の話題が大半を占めたのは仕方がない。とはいえ、地球レベルでは「20世紀最大の出来事」といわれる惨禍が、強い印象をもって語られなかったのは不可思議だ。

 米国の日本占領政策の主要な柱に「加害者すりかえ」があった。戦争を引き起こしたのは暴走した軍部であり、天皇も一般国民も被害者だ。米国はその被害者を一刻も早く救うため原爆投下に踏み切った――。史上最悪の戦争犯罪は意図的に意味を変質させられ、日本はあたかも「解放者」として米国を受け入れたのである。

 こうした事実をみたとき、「ヒロシマ・ナガサキ」は初めから風化させられる運命だったのではないかと考えてしまう。あまりに巨大な事象はその衝撃の大きさにより、かえって現実離れしてしまうということはある。だが、たとえば、首相就任を目前にした鳩山一郎氏が公職追放されたのは、原爆投下に批判的だったからとも言われる。日本統治のため、米国が「ヒロシマ・ナガサキ」の本質から目をそれさせようとしたのは確かだろう。

 オバマ米国大統領のプラハ演説をきっかけに、「核」なき道への希望が高まったようにもみえる。オバマ氏が、米国大統領としては初めて広島・長崎を訪れるのではないかとの声も永田町では出ている。だが、私は楽観的な気持ちにはなれない。いま世界に現存する核兵器は2万3000発。人類を何度か滅ぼすことが可能な数だ。最大の所有国は米国であり、唯一、核兵器を使用した国でもある。もし、世界から核を一掃するなら、まずは米国が実践するしかない。

 さらに言えば、「核」なき道は、最終的に戦争なき道につながるはずだ。しかし、米国はイラクからもアフガニスタンからも撤退せず、オバマ大統領は、アフガニスタンではさらなる軍事力強化を図ろうとしている。はっきり言おう。米国を信用できないのだ。

 日本はいつまで、こうした加害者の「核の傘」に覆われているのか。核なき世界への第一歩は、わずか65年前、現実に原爆を落とされた日本こそが、「核兵器を廃絶せよ」と米国に迫ることである。その権利はあるはずだ。しかし、一方で、対米自立を唱える識者から「日本は自前の核を持つべき」という論調が目立ち始めた。米国と対等関係を結ぶことが核武装に向かったのでは、これ以上の矛盾はない。(北村肇)