麻生外相にあえて言う。宰相への道は、過去に目を向けることから始まる。
2006年3月3日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
今国会の話題は「ライブドアのメール騒ぎ」に集中しているが、「戦争の総括」をめぐる質疑がなかなかに興味深い。
予算委員会で民主党の岡田克也氏が東京裁判についての評価を閣僚に聞いた。安倍官房長官は「まさに戦勝国によって裁かれた点において責任を取らされた」「我が国は敗戦の塗炭の苦しみに落ち込まざるを得なかった。その意味で指導者に責任はあった」と答えたという。
慎重な言い回しではあるが、「戦犯とされた政治家や軍人への全面批判には疑義がある」という持論を展開したのだろう。そもそも侵略戦争であったかどうかについても、「歴史家に委ねる」という言葉で交わしている。
安倍氏以上に、これが現職閣僚かと思わせる発言をしたのが、麻生太郎外相だ。東京裁判についての回答はこうだったという。「少なくとも日本の国内法では犯罪人扱いの対象になっていない」。
微妙な表現ではあるものの、裁いたのは戦勝国であり日本ではないとの趣旨としか思えない。それはつまり、「日本人たる自分は戦犯を罪人とは考えていない」との考えをにじませたとも受け取れる。歴史認識に関しても、「マッカーサーも侵略戦争のみとは言い難かったと認めている」と答え、従来の政府見解との違いをみせた。
岡田氏は「ポスト小泉」候補の歴史観を問い質したかったのだろう。当然、アジア各国も注視している。そのためか、麻生氏はいつものべらんめえ口調と異なり、比較的、奥歯に物がはさまった言い方をしている。それでもタカ派の本質は隠しようがない。
その後、今度はロシア外務省が「麻生外相の一連の発言はロシアへの内政干渉」とかみついた。報道によると、都内で開かれたタウンミーティングで、「島に住んでいる人たちにとって、日本に行ったほうが生活水準いいぞと思わせるため、北方四島で日本のテレビを視られるようにしてはどうか」といった趣旨の話しをしたという。どうも麻生氏には、ロシアを含めたアジア各国への蔑視感が根深くあるようだ。
麻生財閥と強制連行の関係を本誌で特集した。宰相への道は、日本人として麻生家の一員として、過去に目を向けることから始まる。外相にはあえてそう言っておこう。(北村肇)