編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

今年は、インディーズ系メーデーが熱い

 深呼吸をしたくなる朝だった。暑くもなく寒くもなく、都心とはいえ中学校の校庭には満開の桜が呵々大笑の風情で枝を揺らしている。ここ「反貧困フェスタ2008」会場に、さらに心地よい風が吹き渡っているのを感じるまでには、それほどの時間を必要としなかった。紛うかたなく、それは新鮮な風であった。

 本誌主催の「雨宮処凛・廣瀬純対談」は体育館で行なわれた。詳細は5月2日号に掲載するが、廣瀬さんがラテンアメリカの労働者運動について語り、雨宮さんが日本の非正規労働者の動きに触れるという流れで進んだ。用意した200の椅子では足りず、床に座り込んで聞く人もいる盛況だった。

 途中で、雨宮さんが会場にマイクをふった。立ち上がったのは、先週号で紹介したガソリンスタンド・ユニオン分会の分会長・勝間田翔さん(26)。分会結成の経緯についての、若々しく、しかし飄々とした語りにたびたび肯いた。そしてこんな言葉に、軽い驚きとかなりの喜びを感じた。

「ストに入って職場を仲間と占拠したのですが、これほど楽しい思いをしたのは初めてです」。

 何も間違っていない自分と仲間たちが、不当な権力と闘う――この喜びを、私も何度味わったかわからない。新聞社の労働組合で役員をしていたころ、緊張感あふれる闘いのときは、「祭り」に似た高揚感を味わった。過剰な表現かもしれないが、「正義」のために集まった仲間同士が心を一つにして練り歩く、といった感じだ。
 
 廣瀬さんは、ラテンアメリカでの闘いについて「賃上げのために闘争するのではない。闘争のために賃上げを掲げるのだ」いう趣旨の話しをした。まさに勝間田さんは、「闘争」の喜びを知ったのだろう。

 労働組合の組織率は下がるばかりで上がる気配がない。だが、一方で、ガソリンスタンド・ユニオンのような組合が続々と誕生している。雨宮さんは「やられっぱなしではたまらないと感じたプレカリアートが、合法的な闘いや、その効果を知った」と語る。
 
 今年はインディーズ系メーデーが熱い。大手組合もそろそろ、組織優先型の保守的組織からオサラバするときだ。 (北村肇)