きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

夜の深呼吸

 宮沢賢治が登場する舞台を見たあと、東京・吉祥寺にある井の頭公園に出かけた。池のロープに一直線に並ぶカモたちはユーモラス。街頭に照らされた冬紅葉は美しい。ただ、もっときれいなのは夜空だ。都内といっても、この公園は少し郊外にあるので、けっこう星が見える。

 オリオン座は、赤い星ベテルギウスと青白い星リゲルという2つの1等星を持つ“贅沢な”星座。このギリシャ神話に登場する狩人は、足元に2匹の犬を従えている。それは、おおいぬ座とこいぬ座で、この2つの星座にはシリウスとプロキオンという1等星がそれぞれ輝く。(たしかシリウスは、エジプトでナイル川氾濫の時期を知る目安にされ、「ナイルの星」と呼ばれていたっけ)

 ベテルギウス・シリウス・プロキオンを結んでつくるのが、「冬の大三角」。その上には、ふたご座の星たち。木星の存在感も相変わらずだ……。目で追うだけで時間がすぐに経つ。

 ふと思い出して、帰宅後、学生時代に読んだ本を引っぱり出した。「大気が透明にされた意図はと言えば、つまり天体によって、崇高なるものがいつも存在していることを人間に知らせるためだと考えてもよさそうだ。都会の街頭で見ると、まったく偉大だ。もしも星が千年にひと夜だけ現われたら、さぞかし人間は信じて崇め、ひとたび示された神の都の記憶を幾世代ものあいだ持ちつづけるだろう。ところが毎夜これら美の使節は立ち現われて、その訓戒の微笑で宇宙を照らしてくれるのだ」(『エマソン論文集上』、岩波文庫)

 本当にそうだな、と思う。

 漫画家のますむらひろしさんが『コスモス楽園記』で描いたロバス島という架空の島では、「呼吸の夜」が月に一度ある。町の全員が郊外で星空を眺めつつ、自らの呼吸を繰り返すのだ。いくら忙しくても、仕事が終わってなくても、みんな出かけるのが決まり。そして呼吸を繰り返すうちに、自分たちが宇宙の一部であることを再確認する。

 しし座流星群など特別なときでなくても、星空はいつも美しい。「ブッシュの戦争」の編集作業で疲れた頭と心が、星空を眺めているうちに癒されていく気がした。