きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

NHK放映「いじめ対策特集」のおかしさ

シジフォスの希望(2)

 「いじめ」が問題化している。
 11月23日か24日のNHKの夜9時からのニュースで、英国の学校で実施している「いじめ対策」が特集で紹介されたという。見た人の話によると、日本と同じようにいじめが社会問題化している英国では、下級生のいじめに関する悩みを上級生が聞いてアドバイスするという「生徒同士のいじめ解消対策」がとられている、とのことだ。いじめを受けている生徒にとって、教員に話すより同じ生徒の目線で聞いてくれるので話しやすいし、アドバイスも生徒の実態に合ったものになる。対策もまた、上級生が対象の生徒の近くで見守るなど、教員の目の触れにくいところで起きるいじめを未然に防ぐ効果がある。そんなふうに紹介していたという。「生徒間に監視網を張り巡らすことについての弊害や影響」という批判的な視点はなかったという。

 この特集のおかしなところは2つある。まず、なぜ英国でいじめが社会問題になっているのか、その背景(競争原理による教育政策の弊害と教育現場の荒廃、不登校や罪を犯した子どもの自宅監視などを親に義務づける「子育て命令法」の施行など)がまったく説明されていないこと。もう一つは、安倍晋三首相のめざす「教育改革」が、そのような対策をせざるを得ない当の英国式「教育改革」をモデルにしているということを(意図的にか時間の関係かは知らないが)まったく指摘していないこと。また、サッチャー政権(在任1979~1990年)から始まって現ブレア政権に引き継がれた英国の「教育改革」が失敗に終わり、「これまでのやり方を見直す動きが始まって」(『安倍晋三の本性』第四章、俵義文氏論考を参照、発行・金曜日)いることも無視している。

 いじめは同じ「先進国」の英国でも起きており、日本だけの特殊事情ではない。だから安倍首相のいう「教育改革」は理にかなっている。そして、教員の教育力よりも生徒同士の対策を前面に出すことで、「ダメ教師はやめてもらう」(安倍晋三著『美しい国へ』)という狙いを補強する――そのようなNHKの意図が隠されているとしたら「おかしな」理由はよく理解できる。

 もう1点。安倍政権の教育基本法「改正」では、現・教育基本法で禁じられている国家の教育への介入(第10条)が合法となるだろう。国家が教育を支配し、子どもたちの内心に踏み込んでくる。ところが、英国の「教育改革」はそこまで踏み込まなかった。「国家は教育内容に介入せず、教員の自主性に委ね、国は教育条件整備に徹する」(前出『安倍晋三の本性』俵義文氏)という1944年制定の教育法を(新自由主義・新保守主義を信奉し、退任後に貴族・女男爵となったあのサッチャーさんですら)変えなかったのである。
 「いじめ対策」は大事だが、教育の本質・根本に関わる「教育の独立」(国家不介入)についての特集こそ、NHKはやるべきだろう。その際は、「先進国」英国の「国家不介入」の状況も忘れずに……。(片岡 伸行)
                                                             (2006年12月1日)