きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

本当に破れかぶれ解散なのか

<北村肇の「多角多面」番外編>
 四面楚歌、総スカンの野田佳彦首相が「うそつき」と言われるのが嫌な一心で破れかぶれ解散に打って出た――。前代未聞、国会の党首討論で解散日を明言した野田首相の本心について、そんな論評が目立つ。違うのではないか。狙いはもっと別のところにあるのではないか。

 米国では異様に野田首相の評価が高い。それはそうだろう。どんな反対にあっても沖縄にオスプレイを入れる、原発を再稼働する、集団的自衛権に前向き、TPP参加を目指す。何から何まで米国の要求をのんできた。米国のポチと揶揄された小泉純一郎元首相以上のべったりぶりだ。

 米国の受けがいいのは、イコール霞ヶ関官僚の評価が高いことにもつながる。外務省しかり、防衛省しかりだ。しかも、財務省の長年の夢であった消費税増税まで実現したのだから「野田様々」である。それなのに、なぜ民主党政権は追い込まれたのか。

 米国が小沢一郎、鳩山由紀夫両氏の基本方針、つまり東アジア共同体路線に強い危機感を抱いていたことは間違いない。中国との間合いを計りながら外交を進めている米国にとって、万が一にも中国、日本、韓国が手を握る事態があってはならないのだ。そうした芽を徹底的につぶすためには、「小沢復権」を阻止しなくてはならない。

 一方、霞ヶ関にとっても「小沢復権」は悪夢だ。政治主導を掲げながら志半ばに表舞台から引きずり下ろされた小沢氏。もしも、再度、権力を握ることになれば復讐の鬼と化すだろう。世論調査を見る限り、小沢新党の支持率は伸び悩んでいる。しかし、高裁で無罪判決が出たことをきっかけに、どんな手を打ってくるかわからない。第三極、あるいは第四極の核になることも考えられる。米国や官僚がそう考えたとしてもおかしくはない。

 では、完璧に小沢氏をつぶすにはどうしたらいいか。その答えが「早期解散」だった。さしもの剛腕政治家も、年内総選挙では手の打ちようがない。「国民の生活が第一」は複数議席の獲得さえ困難だろう。また、橋下徹氏率いる維新の会も準備不足は否めない。霞ヶ関は橋下氏に対しても官僚主導に抵抗するのではないかとの危機感をもっている。その意味で、年内選挙はまさに一石二鳥なのである。

 民主党内での解散反対の動きがこれ以上、高まる前に解散に打って出る。もし「小沢つぶし」が最大のミッションなら、これはむしろ考えぬかれた策だ。(2012/11/15)

「復興」のためには、政治家や官僚の「人間復興」が欠かせない

<北村肇の「多角多面」(98)>

 消費税の陰に隠れてしまった感があるが、2011年度から5年間で、住民税や所得税などで10兆円以上の増税が実施される。これらを元につくったのが19兆円の「復興予算」だ。東北地方の悲惨な状況を考えればやむをえないと、多くの市民は納得していたように思う。ところが、かなりの金額が官僚や大企業の利権と化していた。その実態が明らかになるにつれ、懲りない連中への怒りは高まる一方だ。

 最も尊敬される官僚とはいかなる人物か。霞ヶ関の裏から入って聞き回れば、こんな回答が返ってくるだろう。「わが省に予算をもってくる。関連団体との関係を強化し、あるいは団体を新設し、天下り先を増やす」。要は、国益よりも省益にかなう仕事に専念した官僚の評価が高いのである。もちろん、真から国を思う官僚はたくさんいる。でも、「復興予算」のあほらしさを見せつけられると、やはり大半の官僚は人でなしだと言いたくなる。

 いくつか例をあげてみよう。

▼ 文部科学省・日本原子力研究開発機構の運営*青森、茨城県での国際熱核融合実験炉(ITER)の研究事業(42億円)……復興と何の関係があるのか。どさくさ紛れの焼け太りだろう。
▼ 財務省・国税庁施設費*首都圏など12庁舎の耐震改修工事(12億円)……「納税者と職員の安全確保」が理由だそうだ。ふざけるな!
▼ 水産庁・調査捕鯨費(18億円)……補助金を受ける財団法人「日本鯨類研究所」は2010年まで水産庁OBがトップ。捕鯨船の基地は広島県で東北の利益にはつながらず。

 こんなばかげたことがまかり通るのは、復興基本方針に盛り込まれた“仕掛け”のせいだ。「日本経済の再生なくして被災地の真の復興はない」。だから「被災地に一体不可分として緊急に実施すべき施策」を認めると書かれている。いくらでも拡大解釈できるように最初から仕組まれていたわけだ。

 官僚と腹を割って話す機会に、尋ねてみたことがある。なぜ天下りがそんなに大事なのかと。「大学(主として東京大学)の同期は一流企業の経営陣になり相当な収入を得る。われわれ官僚はそれに比べたら低賃金だ。天下ることでようやく追いつく」。本音に聞こえた。官僚も人間だ。自分の暮らしやプライドにこだわるのもわかる。だが、せっかく持って生まれた頭脳をそんなことだけに使ってわびしくないのか、悲しくないのか。どうやらこの国に必要なのは、官僚や政治家の「人間復興」のようだ。(2012/10/19)

「良識」ある民主党議員は党を出るべきだ

<北村肇の「多角多面」(82)>

 どんよりとした空気に息苦しい。梅雨入りのせいではない。あまりにも厚顔で、あまりにも愚鈍で、あまりにも人権感覚のない人間が放つ言葉が、大気を汚しているのだ。小泉純一郎氏のときも、安倍晋三氏のときも「最悪の時に最悪の首相」という表現をした。だが、野田佳彦首相はその二人をも超えている。考えたくはないが、もはや日本は引き返すことのできない奈落に入り込んでしまったのかもしれない。

 消費税増税は本来、自公政権時代の「マニフェスト」であり、民主党は「増税の前に行政改革」を訴えて政権の座についた。それがいつの間にか逆転していたこと自体、ありうべからざることだったのに、野田首相は増税に「政治生命を賭けて」しまった。この段階でその厚顔ぶりにあんぐりしていたら、法案の先行きが不透明になると、今度はもともとのマニフェストをかなぐり捨てて自公に寄り添うという、空前絶後の有権者無視に踏み切った。

 以前から気になっていたのだが、野田首相の目は絶えず泳いでいる。国会での答弁も記者会見でもそうだ。「自分」のない証拠である。財務省に何をどう吹き込まれたのかわからないが、「何が何でも増税」というミッションに踊らされているようにしか見えない。自らの政治信条、理念、理想、そしてそれらを市民に訴える「言葉」を持たない首相は愚鈍と呼ぶしかない。

 自公との“談合”が成立した翌日、間髪を入れずに大飯原発再稼働を宣言した。「国民を守るため」という、これを喜劇として何を喜劇と呼ぼうかという言辞を弄す首相の目は、相変わらず泳いでいた。財務省と二人三脚の財界にどう受け止めてもらえるかのみを考えていたのか、言葉とは裏腹に市民への愛情はおよそ感じ取れなかった。

 ここまできたら断言するしかない。民主党に政権をとらせるべきではなかった。生産性のない皮肉で口にするのも忸怩たる思いだが、民主党が野党ならここまで官僚や財界の思い通りにはならなかったはずだ。「官僚支配打破」の旗を掲げる限り、消費税増税には反対し続けるしかなかっただろう。福島原発事故に関しても、連合の顔色をうかがうことはあっても、自民党、官僚、電力会社の三位一体の癒着ぶりを追及したはずだ。そこに世論の力が加われば、自民党もおいそれと再稼働には踏み切れなかっただろう。

 この際、反増税、脱原発の議員は民主党を脱党し新党をつくるべきだ。そうすれば自民党も割れるかもしれない。このままでは、この国は窒息してしまう。(2012/6/22)

[この国のゆくえ24……完璧に「自民党的政党」になった民主党]

<北村肇の「多角多面」(45)>

 民主党は「自民党的政党」になった。ほぼ完璧に。「自民党的」とは何か。基本となる性格を並べてみる。

・ 政策立案は官僚に任せる
・ 「政権を野党に譲らない」の一点で挙党態勢をとる
・ 党代表(総裁)の最大の役割は派閥均衡を図ること

 野田佳彦首相は「財務省の傀儡」と言われる。過去の言動をみれば、否定のしようがないだろう。財務省の狙いは、増税により「自由になるカネ」を集め、政策立案のフリーハンドをさらに強化することにある。「福祉のための増税」は薄っぺらな看板にすぎない。にもかかわらず、自分勝手な財務省の思惑をつぶす気概は野田首相にはない。歴代の自民党首相が大蔵省のいいなりだったことと何ら変わりないのだ。

 民主党政権発足時の「政治主導」はどこにいったのか。跡形もない。「どうせできっこない」と高をくくっていた自民と、結果的には「同じ穴の狢」に成り下がった。これでは、公務員改革など、何一つ展望が見えない。官僚の力は高まるばかりだ。

 二番目の、政権を渡さないという強い意志だけは、党員にしっかりと根付いた。今回の代表選がそのことを明確に示した。そもそも、なぜ簡単にマニフェストを反故にしたのか。菅直人前首相が解散に踏み切るのではないかと恐れた党の有力者が、野党にすりよったからにほかならない。有権者への公約より政権維持のほうが重要というわけだ。同じような光景は自民党政権時代、何度も見られた。予算編成を経て、民主党は政権党の旨みを知ったのだ。

 野田内閣の顔触れを見て、その派閥均衡ぶりに唖然とした。表向き「適材適所」、実態は派閥優先の構図――そのまんま自民党だ。党三役の顔触れといい、野田首相の人事は、55年体制以降、永田町で連綿として続いた自民党の伝統をしっかりと守っている。

 かように民主党が自民党的政党に堕落したことで、皮肉にも「二大政党時代」が幕を開けた。“実力”が拮抗したからだ。むろん、市民にとってそれは吉報ではない。政争に明け暮れ、霞ヶ関に“おんぶにだっこ”の自民党政権はもう嫌だ、そう思った有権者が民主党政権を生んだのである。どじょうのように、にょろにょろとしてつかみにくい野田首相に、竹下登元首相を重ね合わせ、ぞっとしたのは私だけではあるまい。(2011/9/9)