きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

「櫂未知子の金曜俳句」3月末締切の投句募集について

『週刊金曜日』2011年4月22日号掲載の俳句を募集しています。
【兼題】 「雁風呂」もしくは「チューリップ」(雑詠は募集しません)
【締切】 2011年3月31日(木)必着
【投句数】1人計10句まで何句でも可
※特選に選ばれた句の作者には、櫂未知子さんの著書をお贈りします。 

【投句方法】官製はがきか電子メール
(氏名、俳号、電話番号を明記)

【投句先】
郵送は〒101-0061 東京都千代田区三崎町3-1-5
神田三崎町ビル6階 『週刊金曜日』金曜俳句係宛。

電子メールはhenshubu@kinyobi.co.jp
(タイトルに「金曜俳句投句」を明記してください)

【その他】新仮名づかいでも旧仮名づかいでも結構ですが、一句のなかで混在させないでください。
なお、添削して掲載する場合があります。

政治家は、本物の歌手・美空ひばりの歌に学べ

<北村肇の「多角多面」(19)>

 美空ひばりの「港町十三番地」が十八番だった。小学生のころの話だ。「大きくなったらひばりちゃんと結婚する」と宣言していたらしい。記憶には残っていないが、母親が“証言”していたのだから、そうなのだろう。

 青春期は、ご多分に漏れずビートルズにかぶれたり、グループサウンズやらフォークやらにはまった。美空ひばりへの関心もすっかり薄れたころ、カラオケ時代が到来。すると、すぐさま持ち歌は演歌に先祖返り。下町で生まれ、育ち、三味線と端唄・小唄の中で暮らしてきたのだから、DNAが「洋楽」を拒否するのは当然と言えば当然か。

 そして、それなりに“大人”になったある日、美空ひばりの凄みに気づいた。歌の一節、一節がじわじわと細胞にからみついてくるのだ。うまいとか声がきれいとかいうのとは次元が違う。最近、ユーチューブで、改めてひばりのステージを追ってみた。「外れ」が一つもないのは当然だが、同じ曲でも色合いがそのつど異なり、しかも「説得力」のあることに驚嘆した。聴く者と正面から立ち向かっているからだろう。舞台なら目の前の観客に、テレビならカメラの向こうの視聴者に、自分の存在そのものを投げかけている。

 哲学者の佐々木中氏が1月26日『朝日新聞』朝刊で「今、国民を心から納得させる政治家がいない。なぜか」として、こう語っていた。

「簡単です。演説が、文章が、ヘタだからです。演説する術を古代ギリシャではレトリーケと言いました。……堂々たる雄弁によって精密に根拠を示し、民衆の納得と同意を獲得する技芸(アート)。われわれが失っているのは、この真の意味でのレトリーケなのです」

 国会論議の空疎さはますますひどく、目に余る。言い訳と自己防御に終始する民主党、過去の失政は棚に上げ、ひたすら挙げ足取りに走る自民党。こんな政党同士がやりあっても、そこには内奥から発する言葉はなく、当然、精密な根拠も説得力もなく、およそ真剣勝負とは縁遠い。

 人真似くらいしか能がない歌手は、見てくれや宣伝力で一度は人気が出ても、すぐに廃れる。逆立ちしても美空ひばりにはなれない。ころころと首相が代わるのも、本物の政治家がいなくなったからだ。思想も哲学も言葉もない政治家が、市民の心をつかめるはずはない。菅首相の十八番は「ギザギザハートの子守唄」という。それもいいが、ひばりの歌を練習してはどうか。いや、いまさら無駄なアドバイスはやめよう。(2011/2/23)

チュニジア、エジプト――「世界同時革命」で日本はどうなる?

<北村肇の「多角多面」(18)>

「ムバラク大統領辞任」のニュースを聞き、『東京新聞』の記事を思い浮かべた。2月3日朝刊「こちら特報部」の「デスクメモ」だ。

<「二十年前のこと。PKO派遣で反対デモがあった。取材に行く後輩記者「デモって違法行為ですよね」。当時のデスク「えっ(絶句)……憲法上の権利だ!」>

 エジプトのデモを特集したその記事では、「なぜ日本では起きないのか」についても触れていた。新聞記者が「違法」と考えているようでは、この国で、デモが市民権を得ないのは当然と言えば当然か。だが、事態の変化はありうる。

 何と言ったって、いまの状況はある種の「世界同時革命」だ。エジプトの政変はチュニジアの「革命」がきっかけだし、そもそも欧州で頻発していたデモがアラブ各地に飛び火したものでもある。

 こうした21世紀の「同時革命」をもたらしたのは、イデオロギーでも宗教でもない。キーワードは「格差」と「インターネット」だ。チュニジアの反政府デモに火がついたきっかけは、青果の行商をしていた青年の焼身自殺だった。無許可営業を理由に商品を没収され、抗議も受け入れられなかったことに絶望したという。青年への共感は、ツイッターなどを通じて、またたくまに広がった。ベン・アリ大統領とその一族や取り巻きが巨万の富を蓄積する一方で、市民の困窮度は高まるばかり。そのことへの怒りが爆発したのだ。

 昨年5月には、ギリシャで公務員の賃金削減や増税に反対する数万人規模のデモが起きた。9月にはフランスで、年金制度「改悪」に異議を申し立てるデモが発生。これらに共通するのも、「貧困」と「格差」に対する市民の憤懣である。

 新自由主義が世界を席巻し、一部の大企業経営者や株主、IT長者に巨額なマネーが入り込み、市民はその「おこぼれ」に預かるだけ。一方で、統治権力者は財閥と手を組み、独裁政権をつくりあげ、市民の“反乱”を押さえ込む。世界は新しい封建主義の毒に侵され、忍耐の限界を超えた市民の憎悪が破裂。そしてそれは、フェイスブックやツイッターという“武器”により、あっという間に巨大な炎と化した。
 
 同様のことが日本で起きても何ら不思議はない。そのときは、「デモは違法」と評するようなマスコミも石礫(いしつぶて)の対象になるのだろう。(2011/2/18)

愛知県の新“盟主”河村たかし氏は、親鸞にあらず

<北村肇の「多角多面」(17)>

 時折、訪れる親鸞ブーム。今回は五木寛之氏の小説効果が大きい。だが、それだけとも思えない。親鸞の師、法然の主著『選択本願念仏集』の一節。

「(阿弥陀仏が)もし仏像を作り、塔を建てることをもって本願とされたならば、貧窮困乏のものは定めて往生ののぞみを断つことになろう。しかも、世には富貴のものは少なく、貧賤のものはきわめて多いではないか。もし、智慧やすぐれた才能をもって本願とされたならば、愚鈍で智慧の劣ったものは、定めて往生の望みを断つことになろう。しかも、世には智慧のあるものは少なく、愚かで道理の分からぬものははなはだ多いではないか。……」<阿満利麿(あま・としまろ)著『親鸞』より>

 いつの時代でも、支配する側とされる側、富む者と貧しい者がいる。「宗教」が、虐げられた人々の救いになってきたのは事実。一方で、「宗教」は支配する側に利用され、本来、救うべき人々を踏みつけにしたのも事実。現代社会はどうか。まさに「神も仏もいない」状況に見えなくもない。その席に取って代わったのは何か。言うまでもなく「カネ」である。さらに新自由主義時代になると、富む者にとって「カネ」はバーチャルな存在になり、マネーゲームが世界を席巻した。極論すれば、「カネ」を生むのは「カネ」でしかなくなった。貧しい者が浮上する余地は極めて少なくなったのだ。
 
 既存権力に迫害された親鸞は、人はすべて凡夫であり、悪人であろうと浄土にいくことができると説いた。「末法の世」で、その教えは燎原の火の如く広がった。格差と貧困に覆われた21世紀のいま、法然や親鸞を希求する思いが、庶民の心の中に、自分では気づかないまま生まれているような気がする。

 先の名古屋市長選で河村たかし氏が、愛知県知事選では河村氏の盟友、大村秀章氏が当選した。民主党や自民党を蹴散らしての圧勝だ。名古屋市議会解散の是非を問う住民投票も「賛成」が7割近くに達した。河村氏の勝因はどこにあるのか――。ユニクロのダウンジャケットに中日ドラゴンズの帽子姿。「庶民性」を前面に打ち出し、「既得権力者」である政党、議員に対し、たった一人で立ち向かう姿勢を強調した。あたかも、救世主誕生のような雰囲気を作り出すことに成功したのだ。

 しかし、河村氏に練り上げた「教義」があるようには見えない。残念ながら、このままでは、早晩、メッキのはげる可能性が大きい。そのとき、有権者はどこに救いを求めるのか。ますます「末法思想」が広がるきっかけにならねばいいが。(2011/2/09)

金曜俳句への投句一覧(2月25日号掲載=1月末締切、兼題「梅」)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です

選句結果と選評は『週刊金曜日』2月25日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

『週刊金曜日』の購入方法はこちらです

amazonhttp://www.amazon.co.jp/)でも購入できるようになりました。予約もできます。
「週刊金曜日」で検索してください。配送料は無料です。

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金曜俳句への投句一覧(2月25日号掲載=1月末締切、兼題「入学試験、入試」)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です

選句結果と選評は『週刊金曜日』2月25日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

『週刊金曜日』の購入方法はこちらです

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「週刊金曜日」で検索してください。配送料は無料です。

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塩田さんに勝利命令

シジフォスの希望(43)
 「ずいぶん待たされたので、他人事のような気がする。ウソみたいだ。でも本当にうれしい」。本誌の取材に応じたことでアサイン停止(事実上の解雇処分)を受けた全国一般東京東部労組阪急トラベルサポート支部の委員長・塩田卓嗣さんの第一声。噛みしめるような言葉に、東京都庁34階にある労働委員会の一室は拍手と歓声に包まれた。

 塩田さんと組合側が救済を申し立てていた不当労働行為事件で、東京都労働委員会は2月4日、阪急トラベルサポート(本社・大阪市、西尾隆代表取締役)の行為を労働組合法第7条で禁じられている不当労働行為だと認定。(1)添乗業務への復帰(2)アサイン停止から業務復帰までに受け取るはずだった賃金の支払い(3)労働組合側への「今後、このような行為を繰り返さないよう留意します」との文書の交付――の3点を会社に命じた。ほぼ100%の勝利と言ってよい。

 2009年3月18日に、塩田さんが旅行派遣添乗員の仕事と職場を一方的に奪われてから2年近く。加盟している東京東部労組と支部組合員の支援を受けて、塩田さんは闘ってきた。多くの支援のカンパが寄せられ、本誌も「金曜日ツアー・佐高信と行く岩手の旅」(2010年4月)などを実施し支援の輪に加わった。しかし、それだけでは生活はままにならない。塩田さんは自宅近くのコンビニでのバイトを余儀なくされる。この日(命令当日)も、そのコンビニでの深夜勤明けから都庁に直行。眠たそうな目をこすりながら、都労委命令を受けた。

 一人の労働者が食いつなぐためには仕事をするしかなく、仕事と職場を奪われることは暮らしと命を奪われるに等しい。派遣添乗員の塩田さんは、それでなくとも「契約打ち切り」という会社側の合法的な仕打ちを受けやすい立場だ。それを踏ん張っての勝利命令は、有期雇用で働く多くの人たちに勇気を与えると思う。

 問題は、この命令を会社(阪急トラベルサポート)が守るかだ。会社側には再審査(不服)申し立てという法的手段が残されている。この会社が働く者にどういうことをしてきたかは、これまでの経緯を見ればある程度分かる。しかしこの命令を区切りに、法廷ではなく話し合いによって物事を解決する道を選んだらどうか。佐高信・本誌編集委員も書いたように、〈「阪急」創業者の小林一三が泣いているのではないでしょうか。〉                                                                    (2011年2月4日・片岡伸行)

「総理の器」は、米国の扱いやすい政治家。「ポスト菅」は前原外相だろう。

<北村肇の「多角多面」(16)>

 菅直人氏が「総理の器」でないことは、永田町、霞ヶ関ではいまや「常識」。通常国会が始まり、多くの市民も痛感したのではないか。だが、肝心なのはその原因。言い換えれば、「個人の資質を問うべきか否か」ということだ。結論を言ってしまえば、本来、首相になるべきではない人がその席についてしまうのは、構造的な問題である。

 1月20日付『東京新聞』の「こちら特報部」に、内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が昨年末に公開した米外交文書の特集が掲載された。昨年2月3日、ソウルでキャンベル米国務次官補と金星煥(キム・ソン・ファン)外交安保主席秘書官が会談。その内容について在韓米大使館が本国に送った公電に関する記事だ。

<「両者(キャンベル、キム)は、民主党と自民党は『全く異なる』という認識で一致。北朝鮮との交渉で民主党が米韓と協調する重要性も確認した。また、金氏が北朝鮮が『複数のチャンネル』で民主党と接触していることは明らかと説明。キャンベル氏は、岡田克也外相と菅直人首相と直接、話し合うことの重要性を指摘した」
 この公電の意味を読み解くポイントは、米国が交渉の相手として当時の鳩山由紀夫首相ではなく、岡田、菅両氏を名指ししたことにある。>
 
 鳩山政権に反発した米国が、鳩山首相を無視して岡田、菅両氏を交渉相手にしていた、それが「菅政権への布石」になったのではないかという見立てだ。私も複数の永田町関係者から「『日米の対等な関係』と言い出した鳩山氏を苦々しく思った米国が、菅政権成立に向けて動いた」と聞かされていた。だから、昨年の早い段階で「次期首相は菅直人。理由は米国が扱いやすいからだ」と公言していた。
 
 思い出すのが、旧ソ連との関係改善を図った鳩山一郎氏、中国との国交回復を果たした田中角栄氏を批判した米国公電だ。いずれも米国ではすでに公開されている。さらには、東アジアとの協調を打ち出した細川護煕氏の退陣についても、「米国仕掛け説」が取り沙汰されてきた。
 
 米国の思惑、それを最も重視する官僚、そして日米同盟基軸を平然と打ち出すマスコミ、彼らにとって望ましい首相とは「扱いやすい操り人形」にほかならない。つまり、「宰相の器」から最も遠い人間こそが、総理大臣にふさわしいのだ。この構造を打ち崩さない限り、「真の首相」の登場は夢物語でしかない。「ポスト菅」は、米国の覚え目出度い前原誠司外相と予言しておこう。(2011/2/4)