きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

サイエントロジーさんを訪問その2

(先週の続き)

それは私がサイエントロジストだからである!       

 って、ことはない。

それは、かつてこの「マカロニほうれん総研」の記念すべき第7号(昨年3月)で「サイエントロジーと『バニラ・スカイ』」と題するコラムを書いていたから。ただそれだけ、の、はずだった。

でも、それだけではすまなかったらしい。

そのコラムで私は、サイエントロジーを「サイ」と呼び、サイエントロジストを「トロ」と呼んだ(フルネームで書くのが面倒だった)。そして、トム・クルーズが製作・主演した映画『バニラ・スカイ』に洗脳やらなにやら宗教的なニオイをを感じたので、サイエントロジーを揶揄するコラムを書いたのである。(注1)

なぜか今年になり、サイエントロジー東京支部がネットで私のコラムを見つけて会社に連絡をしてきたのだ)。「サイ」や「トロ」などと寿司ネタのように呼称されて相当、怒ったのでしょうか。支部内で、悪口雑言罵詈誹謗の対象に私がなったことを想像するだけでも恐ろしいことです……。

電話をくれたサイエントロジー広報の方は、サイエントロジーについての私の理解が不十分なので「ご説明したい」と連絡してきたというわけである。
だが、「いやいや何をおっしゃいます。こちらから伺います」と、私がサイエントロジーさんを訪ねることにした。両者の和やかな懇談は2時間以上にわたる。一部始終を掲載することはもちろん不可能だが、『週刊金曜日』の社会派読者に気になると思われる会話などを紹介させていただく。

――サイエントロジストの最終目標は何なんですか?
「(壁にはった表の一番上をさして)完全なる自由な状態になることです。理想的な状態とは何からも自由になることです。スキーもやらない人にやった楽しさを説明するのは難しいですよね。宗教もやらないとその楽しさはわかりません。いくら説明してもわかってもらうことは難しいので、マカロニさんにも是非とも体験してほしいのですが」
――……いやあ、それは結構です。ところで、世界にどれらくらいサイエントロジストはいらしゃるんですか?
「公称800万人です」
――どこかの政党が参院比例区で獲得しようとした人数とほぼ同じですね。サイエントロジストの人たちは増えているんですか?
「緩やかな右肩上がりです」
――今の不景気の時代に「順調」ですね。いや、不景気だからですかね。ところで、日本のスタッフは何人くらいいらっしゃるのですか?
「200人くらいでしょうか。専従は100人程度です」
――かつてサイエントロジーを設立したロン・ハバートは「カネを儲けるには、宗教をやったほうがいい」と知人の作家に語ったと聞きましたが。
「それは間違いです。裁判でも作家2人が証言し、法的に勝ちました。かつて、ドイツでもブラックキャンペーンでサイエントロジーは弾圧されましたけど、結局私たちを批判した人たちは裁判で次々に負けました。私たち、マスコミのキャンペーンで弾圧されれば証拠を集めて法的に立ち向かっていきます。相手が悪ければきちんと抗議します。もし私たち自身が間違いを犯せば、それも検証します」
――疑い深くて申し訳ないですが、裁判で勝っても事実・真実とは限りません。ただ、裁判では少なくともそのような主張は通らないことはわかりました。
「ところでマカロニさん、サイエントロジーで検索すると、あのコラムがかなり上位でヒットするんです。どうにかなりませんか」(注2)
――どうにも、なりませんね。もし事実に間違いがあれば、後で訂正のコラムを書きます。ところで、サイエントロジーに対して本場アメリカで偏見はないのですか。
「いいイメージを持たれています。社会活動をしていますから。犯罪者更正プログラムなどを運営しています。日本では、あまり知られていないです。日本でもかねてから精神医療問題に取り組む<市民の人権擁護の会>(注3)をスポンサードしています」
――ところで、収益は年間どれくらいなんですか。
「私は把握していません」
――コースは全部終了するとおいくらくらいになるんですか?
「値段は一人歩きしてしまうので、金額は本当に関心のある方に出すものと認識しています。たとえばですが、メルセデス・ベンツが500万円とします。それが高いか安いかは、その人の価値観次第ですよね。それと同じです」
――それはそうですが。で、そのベンツと同じくくらいなんですか。
「それほどではありません」
――ロン・ハバートさんは<戦争もない、狂気もなく、犯罪者もなく、そこでは能力のあるものが栄え、正直なものが権利を有することができ、人間がより高い境地に至ることのできる文明>がサイエントロジーの目標とおっしゃていますけど、第2次世界大戦には賛成したと聞きます。
「それは時代的背景の問題ですし、ロン・ハバートがサイエントロジーに関わる前の話です。彼は戦争に行ったことをもっとも悔やんでいたと聞いております」
――それでは、今年のイラク攻撃でもサイエントロジーは何か戦争に反対する行動を起こしたんですか。
「今年のイラク攻撃では、街頭で私たちの本を配りました」
――えっ、本を配っただけですか。
「大きなデモにも2,3回参加しました」
――戦争や平和について考えるなら、ロン・ハバートさんの本ではなく自分たちの住んでいる国の憲法を読んだらどうなんでしょうか。
「でも、憲法って難しいですよね。読んだことがないので、想像なのですが」
――難しくないですよ。前文なんかはロン・ハバートさんが言っているように至極当たり前のことが書かれていますよ。うーん、なにか内向きな印象がぬぐえないのですが。結局は、そちらの宗教が現世利益的だからでしょうか。
世の中には自分を磨くようなテーマはごろごろ転がっていると思うので、そういうものに取り組みながらコミュニケーション能力やら磨ければ一石二鳥ではないかと。ページを開けば社会の問題だらけの『週刊金曜日』をみなさん読んで、なにかテーマを見つけられたらと思いますが……。

ざっくばらんにいろいろ話し合ったが、両者に隔たる大きな価値観の違いを感じ、私もそれを埋める気にはならなかった。広報の方も10年間以上、サイエントロジーを考えてきたということでもあるし。、19時から教義を勉強するコースが始まるらしく、サイエントロジストの方々が集まってきたこともあり、私は礼を言って東京支部を後にした……。

<訪問後記> 「今後も、質問しづらい質問でもなんでも言って下さい」と広報の方はおっしゃてくれ、事実、後日もかなり率直に答えていただいた。世界中に800万人の信者を抱えるという宗教団体・サイエントロジーさんには、また何かあれば質問させていただきたいと思います(注4)。

(注1) 昨年3月のコラム掲載後、ネットをみた方から『バニラ・スカイ』は『オープン・ユア・アイズ』の忠実なリメイクで、サイエントロジーとは関係ないのと指摘を受けました。遅ればせながら先日ようやく、『オープン・ユア・アイズ』のビデオを観ることができました。おっしゃるとおり、『バニラ・スカイ』は『オープン・ユア・アイズ』そのまんまでした。ペネロペ・クルスもそのまんまチャーミングでしたね。ただ、トム・クルーズがなぜそんなに『オープン・ユア・アイズ』に惹かれたのかは、いまだに謎だ……。
(注2) googleで検索したら、6番目くらいにヒットして筆者も驚きました。
(注3) 市民の人権擁護の会HP http://www.asahi-net.or.jp/~yw6m-ozw/cchr/1972年にドイツで設立された団体。
(注4) この記事は、インタビュー後さらに懇談したものも含めて加筆・修正している。
(平井康嗣)