きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

『掘るまいか』観るまいか、そしてツルハシ

『掘るまいか』という記録映画をご存知でしょうか。
今年各地で封切られ、話題を呼んでいるドキュメンタリー映画です。

新潟県に山古志村という名の山奥の村がありました。
その村は峠に囲まれており、冬になると峠を越えるのが一苦労。病人でも出れば、背負って隣村まで行かなければならなかった。しかし、そのうちの半分は厳しい冬山に阻まれて亡くなってしまう。
そこで、村人たちは一念発起して、山をぶち抜く隧道(トンネル)を掘ることにした。
そもそも素人の集まりなので、1キロメートルトンネルは太平洋戦争も経て、20年近くかかって掘り上げることになった。
その間、村では反対派と賛成派に分裂したり、いろんなドラマがあったわけだ。

まあ、公共事業の走りということで、土木学会などが後援しています。
今をときめく? 道路関係公団の職員の人に面白そうでしょと話をふったら、「土木の起源である築土構木ってことですね。土木学会が好きそうな話ですね、ははは」と流されてしまいましたけど。
確かに「プロジェクトX」風だなとは思いました。

僕は、結構穴掘り系・ヤマ系が好きで、炭鉱跡なんかも北海道・釧路の太平洋炭砿から長崎の池島炭鉱まで見て歩いたりしました。ちなみに、太平洋炭鉱が閉山して、もう日本には商業ベースで採鉱している炭鉱はありません。
あ、栃木の足尾銅山なんかも見に行きましたね。
蝋人形がいたりして、作りはどこも同じようなものですが。
ちなみに、春には千葉の里山に筍掘りに行ったりしたものです。

話が逸れましたが、炭鉱のドキュメンタリー映画などもチェックするようにしているので、数ヶ月前、「『掘るまいか』? ほほう、手掘り? やるなあ。面白そうじゃないか」と、ヤマ掘りのワンポイントで食いつきましたね。前々から機会があれば見ようと思っていたので、神奈川県川崎市のしんゆり映画祭のクロージング作品でやるということでとびついたわけです。

この映画の監督の橋本信一さんには本誌の7月4日号で『ボウリング・フォーコロンバイン』の次には日本のドキュメンタリー映画を見ようという企画をしたときに、いろいろとお世話になったので、この機会にご挨拶もしなければと出かけました。

だが、この映画を観にいくときにちょっとした事件が起こりました。
電車が来たのでJRの駅を急いで降りたときに滑って激しく転んだのです。
呼吸困難に一瞬陥り、松田優作扮するジーパン刑事が殉職する際に、「なんじゃあ、こりゃあ」と叫んだことを瞬間的に思い出したほどです。

根性で階段を上がり、根性で電車にまで乗って、根性中の根性を出して、『掘るまいか』を見に行く俺って「観るまいか?」と思ってにやついたのが、高くつきました。
「観るまいか!」「観るまいか!」
と、自分に言い聞かせ、遅刻してなんとか会場にたどり着きました。映画は観たのですが、さすがに気分が悪いので、山古志村の方々が「村の酒を飲んで帰って下さいな!」と大盤振る舞いをしておられるのを横目に帰宅しました。

翌日は火曜日。金曜日発売とされる『週刊金曜日』がもっとも忙しい日なのです。
出社後、昼に抜けて格闘技系でマニアに知られる駿河台の某大学病院に通い始めると、足首の靱帯が2本断裂しているということが判明しました。

ということで、いま、けっこうブルーです。酒飲むと、痛くなるし。
ブルーといえば、JAZZの色って、ブルーなんですよね。ブルーつながりということで、ここんとこマイルスやモンゴメリーやらを聞いて大人しくしています。

……そして、ツルハシ。
そう、ツルハシなんですよ。
大阪のホルモン焼きが有名な場所じゃないですよ。なかなか楽しいとこですけど、なんでもかなり縮小したとか。

僕は怪我をしなければ、ツルハシの話をメインにしたかったのです。
『掘るまいか』ドキュメンタリーは事実を突きつけるのが基本でしょうから、その場面を見てどう考えるかの余地が劇映画よりは広いのではないかと思っています。
『掘るまいか』でいろいろな感想はあるのですが、ツルハシの描写ですね。
正確には忘れましたけど、「掘り手がツルハシで岩を砕く掘る快感にとりつかれた」とナレーションが入っていたわけです。これはまさに、掘った人間ならではの生理的な発言なり! と思ったわけです。

僕の経験で言えば、ボクシングをやっていたときのサンドバッグを殴る快感ってやつかなと。気づけば、拳が血塗れですけど、結構気持がいいという。ウォ-ターバッグっていうのが、最近増えてきたんですけど、これは殴った感触が悪いんです。
そのほかの経験でいえば、鍬で畑をひたすら耕す、なんてのもありましたね。

超単純肉体労働の快感ってあるんですよね。

類似する話はたまに聞きます。

農家で言えば大根掘りなんですかね。これは非常に重労働らいしんですけど、これに快感を見出す人がいるとか。割と大柄で力自慢の稲作農家の人がいたんですけど、その人が酔っぱらった大根掘り農家の人に後から、抱きつかれたら「そりゃエライ力だったどー」と目を丸くして言ってました。
おそらく、その大根農家の男性は好きこのんで、手掘り、いや手抜き派なんだろうな。

また、15年くらい前に東京江戸川区の肉体労働者の多い町でアルバイトをしていたことがありました。
工具の部品か何かを買いに金物屋に行ったのですが、同時に鯉口を着たゴッツイおっさんが店に入ってきたんですな。星一徹を若くして、もう少し不真面目にした感じですか。
その人は、当時としても珍しい、ツルハシを使用する道路工事の職人でした。
「おばちゃん、柄ない?」とツルハシの柄の部分を買いにきていたわけです。
そのごっつい筋肉から、「ツルハシ・イズ・マイ・フレンド」って気配を発していましたね。

っていうようなツルハシ関連の思い出がよみがえりました。

僕も、山古志村にいたら、がむしゃに穴を掘った口だろうな。

(お知らせ)
前号でサイエントロジーのインタビューについて書きましたところ、「創始者のロン・ハバートが戦争に賛成したことがあるかのように受け取られる」との指摘をサイエントロジー東京の方から受けました。本文でも賛成したとは書いておりませんが、この点はかなり重要な論点らしく、「そんなことは一切ありません。誤解されるおそれがある」とのことなので、ここで特記しておきます。グーグルで「サイエントロジー」を検索すると、私のコラムが上位にヒットするらしいですし……。

ちなみに、この映画『掘るまいか』は10月24日、30日、31日と東京の赤坂区民ホールや、土木学会イブニングシアターで無料で見られるそうです。

来週は、書かれたら困る人たちに買い占めにあった10月17日号でリポートした山中湖「高村村長」について書こうと思います。あの、青臭いリゾート地が利権まみれとはねぇ……。
(平井康嗣)