サイエントロジーと『バニラ・スカイ』
2002年3月1日9:00AM|カテゴリー:マカロニほうれん総研|Hirai
かねてから米国人気俳優のトム・クルーズが新興宗教にはまっている。それがニコール・キッドマンとの離婚の原因などと言われていた。その宗教は「サイエントロジー」(以下、面倒なので「サイ」)という。
以前から少々気になっていたのでちょっと調べてみた。
サイは正確に言うと「宗教」ではなく「応用宗教哲学」というそうだ。
別に神をあがめるのではなく、L・ロン・ハバードが作り上げたシステムを理解していくわけだ。
創始者のロン・ハバードは小説家でもあり、探検家でもあり「哲学者」の顔を持つ。小説家としては、昨年、ジョン・トラボルタが映画化した『バトルフィールド・アース』はロン・ハバードの原作だそうだ。
このメンバーをサイエントロジストという。だからトムもサイエントロジスト。ジョン・トラボルタやプレスリーの娘やら、もサイエントロジスト(以下面倒なので「トロ」)だ。
なぜだか、とにかくカネをもっている。
米国ハリウッド周辺にはお城みたいなセレブリティセンターや関連ビルが立ち並ぶ。
その金持ちぶりなどから、アメリカの創価学会という印象を持つ。サイはそれ以上だろうが。
余談だが、創価学会は宗教団体ではなく「講」と言って、信徒団体です。もとは日蓮正宗で、昔から正宗と骨肉の争いを繰り広げている。ドイツではサイは宗教を装った利益団体として宗教とみなされていないが……。
さて、本当に「サイ」はぱっと見には、宗教団体かどうかよくわからない。3、4年前、すべての国会議員にえらく分厚い百科事典のような本を秘書風の女性たちが配って歩いていたそうだ。
議員さんは金持ちが多いからだろうけれど、なぜ議員会館に入れたのかが不思議。基本的に一般人は、どこぞの事務所の紹介がなければ中には入れない。どこかの議員さんがサイエントロジーシンパだったということだからでしょうか。
その配られまくった本を入手した。
『サイエントロジーとは何ですか?』(版元はnew-era)という「国際的なベストセラー」本……だ。重さは2キロぐらいありそうだ。ISBNコードはついているのだが、出版社の連絡先など一切不明である。そんな本が書店に並びますかっての。
普通は本の裏表紙の手前ぐらいの紙に奥付といって連絡先が印刷されるのが業界の慣例。確かに規則はないので、連絡先を入れる必要はない。
現在は定価カバーにしか印刷されていない。本の価格が変わるかもしれないからだ(カバーとは言え、いまどき商品そのものに値段がついている商品って本ぐらいではないだろうか)。
本は消費税導入で業界は、価格変更の大打撃をくらった。だから奥付には流動的な情報は入れない。だから奥付に連絡先がないということは、住所・電話番号が不安定だとも推測できるという論法だ。
……話がそれてしまいましたが、『サイエントロジーとは何ですか?』は買うと4000円する。
この本が国際的なベストセラーになった理由は、トロたちが買い占めているとしか思えませんね。
いよいよ本の中身であるが、元薬物依存症の告白談が多い。
「サイエントロジーのおかげで薬物依存から立ち直れた!」という類の話だ。
もちろんほかにも、無職だったんすけどおかげで今はハッピーみたいな話もある。
しかし、不思議だ。日本でも数年前から薬物依存症の更生施設などもできているが、日本ではそこまで薬物依存症問題は日常的になっていない。そもそもアメリカがドラッグに汚染されすぎていると言える。
結果的に薬物を輸入・製造・販売し、サイがそれを中和する。そんな不毛なマッチポンプは、アメリカ国内だけでやってほしいものだ。
私個人としては、無宗教ですが、エンロンの栄枯盛衰に見るように何でも食い尽くすアメリカのあまりに図々しい効率的な市場原理主義の一つの歯止めとして宗教の可能性を否定しません。
しかし、サイは決してそのようなことのためには役に立ちそうにはない。
ロン・ハバードは言っている。「能力のある者が栄え、正直な者が権利を有することができ人間が自由により高い境地に至ることのできる文明。これがサイエントロジーの目標です」
宗教で言えば極楽浄土系より現世利益系の私たちだけが選ばれた人間で、成功したい金持ちになりたい人ばかりがトロなのだろう。
そう言えば、トム・クルーズが主演した映画『バニラ・スカイ』の、あの不気味さ。チャラチャラした若い金持ちが、トリップしまくった挙げ句、冷凍カプセルで未来でただ1人生まれ変わる。新興宗教的なうさん臭い来世を求めるようなユートピア思想が垣間見えた。サイとの関係が気になったディープなファンも少なくないでしょう。
これもサイエントロジーの影響だったのか。
好きな本・雑誌
オルタナティブ・メディア(2)
『ADBUSTERS』
日本語で強いて言えば「広告批評」か。いや、そのような生ぬるいものではなく、全ページユーモアというか、クリエーターたちのエスプリで包んだ批判に満ちあふれている。企業広告を批判しつつも、広告的手法を逆手にとって、カナダに拠点を置く非営利団体「ADBUSTERS」が発行している雑誌だ。海のむこうではけっこう人気があるらしい。エコロジカル・マガジンとして経済・文化・自然の調和を目指すそうだが、反戦を訴えて米国ではコワイ目にもあっているらしい。これも前回の『NI』と同じく、もちろん全ページ英語。ツライ。とはいえ、グラビアやコラージュやアートが溢れているので、眺めていて色々なヒントを得られまっせ。
とにかく、1冊見れば(http://www.adbusters.org/home/)、何を言わんとしているかよくわかります(そんなこと言ったら、ここまで解説した意味がないっちゅうの……)。
(平井康嗣)