きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

硫黄島に行った3 「南海のサソリ軍団」

硫黄島で一番楽しく思い出に残っているのは地熱サウナだ。

火山島の硫黄島は温泉こそ出ないが、地熱が猛烈だ。ちょっと穴を掘ると、簡単に熱気がこみ上げてくる。島内数カ所に冷凍倉庫にあるような分厚い透明ビニールカーテンが張ってある横穴がある。そこがサウナであり、自衛隊員やらアルバイトは自由に入れる。サウナの外には、シャワーがついてある。もちろん水着着用だ。
若い女性の自衛官も時たまサウナで一緒になり、アロハオヤジはすかさず話しかけていた。なにせ男だけで90%は超えているという島なのである。
女性が出ていくと「ちょっと透けてたぞ」と言ってニヤリとしていた。
どこもサウナはロケーションのいいところを選んで掘られてるようで、ひたすら太平洋が目の前に広がっていた。
遠くで鯨が潮を吹いている姿もみかけた。

だが、硫黄島は日米の防衛拠点となる基地だ。
サウナから出て、月が海面を明るく照らしてきれいだなと情緒に浸っていると、上空をひっきりなしにファントムやらイーグルやらが爆音を上げて飛び立っていき、あっという間に黒い点になる。
沖には米軍の空母が停泊しており、そこから米軍の戦闘機が島に降り立っていると誰かが言っていた。そりゃそうだよな、艦載機だもの。

おれたちは大学生のオヤジのコネを活かし、滑走路脇の倉庫にも行った。
途中で知ったのだが、大学生のオヤジはブルーインパルスにも入っていたこともある自衛隊幹部であり、硫黄島の司令官だというのだ。
パパの会社に息子と友達が遊び来たよって感じで、現地自衛官が案内してくれ日本で唯一の無人飛行機というものが展示してあるのを見せてもらった。
後年、この小さな飛行機のことを軍事ものを得意とする小説家に話しところ、いたく感激された。

滑走路脇には小さな縦穴が掘ってあり、そこも一人用のサウナになっていた。穴を掘ればサウナになるのである。穴に入って座ってからクビだけ出せるように板でふたをする。黒ひげびっくりゲームみたいな感じだ。
その穴に入っていると20メートルくらい先の滑走路を走る戦闘機が見える。コックピットから米兵パイロットが親指を突き出しサインを送ってきたりした。

ともかく閉ざされた島には警察もいない。
身内だけという意識のためなのか、兵隊は戦争ための訓練をし、おれたちはそれを手伝っているにもかかわらず“平和”で健康的だった。
硫黄島に配属を希望する自衛隊員も少なくないという。気候はいいし、金も貯まるからだそうだ。

あのとき訓練していた米軍パイロットにはアフガニスタンやイラクに行った人はいるのだろうか。硫黄島での訓練はスポーティーで快適だったとは思うが、戦争に行って人殺しをしていたら、今頃トラウマでも抱えているに違いない。

そんな日々を過ごし、アルバイト期間が終わった。
仲間の「エンジニア志望」は記念だからとサソリマーク(注)の入った硫黄島グッズのタオルやら何やらを買い込んでいた。おれは硫黄島のマークの入った便せんだけを買った。いまだに一枚も使っていない。

帰りのC130Hは、厚木基地ではなく埼玉の朝霞駐屯地に降り立ち、機外に出ると雨が降っていた。だから当たり前だが、首都圏はやけに灰色の空で、一方、俺たちはほどよく日焼けをしていた。

その後、湘南のアロハオヤジが経営する海の家に行く約束もうやむやになり、みな連絡先はわからなくなった。

もし、まだ硫黄島での短期アルバイトを募集しているならば、そろそろその時期である。
クリント・イーストウッドの映画の影響で、今、硫黄島に行きたいという人が多いらしい。
ともかく、きみも硫黄島に行ってみたらどうだろうか。

行くことになったら、一つだけお願いがある。

本当にハンマーヘッドシャークが海にいるのか、泳いでみてくれないだろうか。 (報告終了)

(平井康嗣)

(注)硫黄島のサソリマークを見ることができるサイト
http://motor.geocities.jp/okiraku_hobby/ashiya_etc.htm#iwou